第135話・ゆっくりしよう



 目が覚めた時、ユリウスはまだ眠っているようだった。

 ぼんやりと顔を見つめていると、ユリウスは目を開けて、「起きているよ」と笑う。


「オリエ、心配かけてごめんね」


「うん、本当だよね」


「でも、大丈夫だっただろ?」


「うん」


 昨日、お風呂に入りながら、私はユリウスの体に傷がないかを確かめた。

 彼の言葉通り、傷があってもかすり傷ぐらいで、安心した私は気が抜けてまた泣いてしまい、普段滅多にならない甘えっ子モードに突入してしまった。

 もうわけがわからなくなるくらいユリウスにしがみつき、彼を求め、そして求められた。

 お風呂からベッドに移動してもそんな感じで、気絶するみたいに眠りに落ちたのは、明け方だったと思う。

 一体今は何時頃なんだろう?


「今……多分、昼過ぎじゃないかな……。そろそろ起きる?」


 少し寂しそうな目で見つめられる。

 どうしたの、と聞くと、ユリウスは私が赤面してしまうような言葉を、さらりと口にした。


「俺は、まだこうしてオリエを独り占めしていたんだけど。昨日のオリエ、ものすごく可愛くってさ、まだ余韻に浸りたい」


 もう、何を言っているんだろうね、この人は!

 だけど、照れて真っ赤になりながらも、同じ気持ちだった私は頷いた。

 私もまだユリウスを独り占めしていたかったのだ。


「じゃあ、私もユリウスを独り占めしようっと」


 そう言ってユリウスの腕の中に潜り込む。

 クスクス笑って、ユリウスはとても嬉しそうだった。


「オリエが甘えてくれるの、珍しいね。すごく、新鮮だ。いつもしっかりしているのに」


「それ、本気で言っているの?」


「もちろん」


 ユリウスは真面目な顔で頷いて……私は笑ってしまった。


「しっかりなんか、していないよ。私は、ものすごく甘えっ子なんだよ」


「そうなの?」


「うん、そうだよ。ものすごーく、甘えっ子なんだよ。お父さんとお母さんが亡くなってから、誰にも頼れず一人で生きていたから、しっかりしなきゃって思ってただけ。本当は、誰かに頼りたい、甘えたくて仕方がない、弱い人間なんだよ」


 今の年齢はユリウスよりも下だけど、元の年齢がアラフィフだったせいで、ユリウスに対してお姉さんぶっていたところもあったから、ユリウスは私が本当は甘えっ子だって事に、気づかなかったのかもしれない。


「だから、本当はユリウスにいっぱい甘えたいって思ってるんだよ。こういう私、嫌?」


「いや、嬉しいよ」


 私に優しく覆いかぶさったユリウスは、私に優しいキスの雨を降らせる。


「思う存分、甘えてほしい。俺は全部受け止めるから」


「うん、ありがとう」


 逞しいユリウスの腕に抱かれながら、私はこの人が無事で良かったと、改めて思うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る