第116話・ホイホイ&キラー
サーチートのアイデアはとても上手く行って、私たちはとても簡単にゴブリン討伐をする事ができた。
まず、ゴブリンを発見すると、ユリウスが前に出て、ゴブリンの左耳をロングソードで斬り落とす。
ユリウス、ものすごく上手にゴブリンの左耳だけを狙って斬り落とすんだよね。器用だなぁ。
最近の彼の戦い方は、主に蹴る、殴る、踏んづけるって感じだったけれど、実は、剣の腕もいい。
ロングソードを軽々と振るうユリウスはかっこよくて、改めて惚れ直した。
ユリウスがゴブリンの左耳を斬り落とした後は、私の番だ。
左耳を失ったゴブリンにバリアの呪文を唱え、結界の中に閉じ込める。
この時、他にゴブリンが居なければ、次の段階である火魔法の呪文を唱えて、ゴブリンを灰にするんだけど、ゴブリンが複数現れた時は、結界の中にゴブリンを閉じ込めたまま放置して、ユリウスが耳を斬り落としたゴブリンを、順次結界の中に閉じ込めて、後からまとめて灰にする。
「オリエちゃん! ユリウスくん! すごいね! いっぱい倒せたね!」
私とユリウスが続けて十匹ほどゴブリンを倒した時、自分のアイデアが見事に成功したサーチートは、大喜びだった。
「オリエちゃんとユリウスくんが頑張ってくれているから、ぼくもお手伝いするよ! ぼくはぼくのできる事を頑張る! 薬草や毒消し草の採集はぼくに任せて!」
サーチートが小さな手で、小さな胸をどんと叩く。そして、
「じゃあ、ぼく、行ってくるね!」
と言って、止める間もなく森の奥へと消えてしまった。
「あの子、大丈夫かなぁ?」
自分のできる事でお手伝いをしようする、その気持ちはとても嬉しいんだけれど、初めて入った森の中で迷子になったり、何かに襲われたりしないか、とても心配だ。
「迷子になっても、オリエが召喚すればすぐに戻って来るだろうけど……」
「そうか! その手があったか!」
「でも確かに、何かに……ゴブリンにでも見つかったら、襲われるかもしれない。追いかけよう」
「うん!」
サーチートの気持ちは嬉しいけれど、やっぱり心配だ。
ユリウスと共にサーチートが消えていった方向へと足を進めると、向かう方向から、
「オリエちゃ~んっ! ユリウスく~んっ!」
と、私たち二人を呼ぶ声が聞こえ、それがだんだんこちらに近づいてきた。
「オリエちゃ~んっ! た~す~け~て~!」
「え?」
ガサガサと音はするけれど、小さなサーチートの姿はなかなか見えない。
代わりに見えたのは、緑色の肌をした人影――ゴブリンだ!
「オリエちゃ~んっ! ユリウスく~ん! ぼく、どうしたらいいのぉ~!」
何故なのかわからないけど、一人森の奥へと向かったサーチートは、大勢のゴブリンに追いかけられて駆け戻って来た。
その数、多分、三十体以上――ちょっと、サーチート、一体どうしてこうなった?
「サーチート! 一体どうしたの!」
泣きながら走って来た小さな体を受け止める。
サーチートを追いかけて来たゴブリンたちは、ユリウスに斬られて地面に倒れていた。
バタッ、ドサッと、次々にゴブリンの死体が積み上がる。
数が三十匹以上だから、私も手伝おうと思ったんだけど、ユリウスはちらりと私を見ると、いい、と言った。
今はさっきよりも数が多いし、ゴブリンは次々に襲い掛かって来る。
ユリウスも耳を斬り落とすのではなく、確実にゴブリンを仕留めているから、ここは全部彼にお任せした方がいいだろう。
それなら今私がすべき事は、サーチートに何があったのかを聞く事だな。
「ねぇ、サーチート、何があったの?」
「さっぱりわけがわからないんだ。あいつらが突然、ぼくに襲い掛かってきたんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ! あのね、オリエちゃんたちと別れた後、ぼくは森の中で、ものすごいものを見つけたんだ。すっごく驚いて、すっごく嬉しくて、一人で大騒ぎしちゃったよ。そうしたらあいつらが現れて、突然ぼくに襲い掛かってきたんだよ!」
サーチートは興奮気味に、大声でそう言った。
サーチートを狙っているのか、ゴブリンたちがギャアギャアと叫ぶ。
この反応は、一体何なのだろう?
ゴブリンたちは、サーチートが見つけた何かを奪おうとして、襲ってきたの?
それとも、サーチート自身を、何らかの理由で襲った?
その理由、なんとかして知る方法はないかな?
鑑定とかで、わかんないものかな?
「よし! 鑑定!」
私は襲い掛かって来てはユリウスに倒されているゴブリンを鑑定してきた。
鑑定では詳しいレベルやステータスはわからなかったけれど、今ゴブリンたちがどういう状態なのかという事は知る事ができた。
【ゴブリン 状態:興奮 小動物のキンキン声が気に障っている】
「へ?」
「本当に突然襲い掛かってきてさ、わけわかんない! 嫌になっちゃうよね!」
サーチートはそう言うと、チラリと自分を見るゴブリンたちへと視線を向け、あかんべーをする。
小動物って、サーチートの事だよね?
キンキン声って……確かにサーチートの声は、高くて子供みたいな声だけど、この声がゴブリンにとって、そんなに嫌なものなのかな?
私は次に、サーチートを鑑定してみた。
ゴブリンと同じく詳しいレベルやステータスはわからないけど、今のサーチートの状態が表示される。
【サーチート 状態:スキル発動中 ゴブリンホイホイ】
「ぶはっ!」
ゴブリンホイホイって、何だよ!
私は思わず吹き出してしまい、サーチートを抱えたままよろめき膝をついた。
「オリエ? どうした?」
ゴブリンを蹴り飛ばしたユリウスが、私を振り返った。
サーチートを鑑定で見た後だったから、ユリウスの状態も表示される。
【ユリウス 状態・スキル発動中 ゴブリンキラー】
うわぁ、ゴブリンホイホイに、ゴブリンキラーだって。
ゴブリンにっては最悪の、最強凸凹コンビの誕生だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます