第115話・いざ、ゴブリン討伐
翌日、私たちはゴブリン討伐のために、商都ビジードの四つある門のうちの一つ、北の門を出た。
ゴブリンは森の中でよく見かけるらしく、最近ゴブリンの目撃情報が多いという、北の門の街道沿いにあるネーデの森へ向かう事にしたのだ。
北の門を出てしばらくは、整備された街道を挟んで平原が続く。
のんびりと散歩気分で歩きながら、平原に生えている薬草採集をしたり、平原をうろちょろしていたツノウサギを狩ったりして一時間くらい歩くと、ネーデの森に辿り着いた。
「ゴブリン、居るかな」
シルヴィーク村近くの森でも、ゴヤの森でも、私はゴブリンを見かけた事はないんだけど、どうしてなんだろう?
私がそれを口にすると、ユリウスは少し考え込み、言った。
「そうだな……シルヴィーク村近くに居ないのは、結界のせいって事もあるだろうけど、シルヴィーク村近くの森には、狼系の魔物が多いからかもしれない。ゴブリンよりも狼系の魔物の方が強いと考えれば、ゴブリンたちがシルヴィーク村近くに居ないのも頷ける」
「それって、ゴブリンは狼に縄張り争いで負けたって事?」
「あぁ、そんな感じ」
なるほどね、縄張りか。
それなら、ゴヤの森でもゴブリンを見かけなかったのは、あの巨大熊が居たから、だったのかも。
私の考えは正しかったようで、ユリウスは頷くと、今後はゴヤの森にもゴブリンが出るようになるかもしれないと、少し困ったように言った。
ユリウスが倒した、黒い魔結晶を突き刺されて操られていたあの巨大熊は、ゴヤの森の主だったのかもしれない。
「ゴブリンは駆け出しの低ランクの冒険者の依頼になるくらいだから、冒険者と名乗る者にとっては、そんなに強い魔物じゃない。だから、ゴブリンは他に強い魔物や動物が居れば、縄張り争いに負けてしまうわけなんだけど、ゴブリンはとても増えやすいんだ。それに、中には進化して強くなっていくものもいる」
普通のゴブリンの中からリーダーが生まれ、それがさらにゴブリンソルジャーやジェネラル、キングへと進化していくと、進化したゴブリンの影響で、ゴブリンの群れ全体のレベルも上がっていくのだという。
「だから、そんな事になる前に、ゴブリンは見つけたら駆除していかなければいけないんだ」
早口にそう言ったユリウスは、突然森の奥へと走り出した。
一体どうしたのだろうと首を傾げると、
『ウギャ!』
と、ものすごく汚い声の悲鳴が聞こえ、ユリウスを追いかけると、彼の足元には緑色の肌をした首のない死体が転がっていた。
「ゴブリン、居たよ」
「そ、そうみたいだね」
ユリウスに頷きながら、私はゴブリンの頭の方へと目を向けた。
蹴り飛ばされて木にぶつかったゴブリンの頭は、ぐちゃくちゃになっていたけれど、なんとか左耳は原型を保っていた。
ゴブリンの左耳は、切り取って冒険者ギルドに提出しなければいけないんだよね。
この世界に来て、魔物や動物の解体もできるようになったから、私もいろいろと耐性がついたとは思うんだけど、潰れてぐちゃくちゃになっているゴブリンの生首から耳を切り取るっていうのは、ちょっと……いや、かなり抵抗がある。
私が思った事に気付いたのだろう、ユリウスは申し訳なさそうにごめんと謝ると、少なくともゴブリン討伐の依頼中は、なるべくゴブリンの首を蹴り飛ばすのは止めると苦笑した。
悲惨な事になったゴブリンの生首から冒険者ギルドに提出する左耳を切り取った後、ユリウスは土魔法で地面に穴をあけると、ゴブリンの死体を放り込み、火魔法を唱え一瞬で灰にしてしまった。
「すごいね」
私がそう言うと、
「森に飛び火したら、大変な事になるからね。ちょっと強めの魔法で焼いたよ」
と言いながら、穴の底から拾った何かを渡してくれた。
「これ、ゴブリンの魔石?」
渡されたのは、緑色の小さな石だった。
「そうだよ。ゴブリンの左耳とこの魔石を冒険者ギルドに提出する事で、ポイントと報酬アップになる」
「でも、ゴブリンの後始末って、結構面倒だよね」
今は依頼のために左耳を切り取らなきゃいけないから、余計にそう思うのかもしれないけど、死体を焼いて灰にしないといけないって、場所がこんな森だったら、本当に面倒だ。
でも、そのまま死体を放置しておくと、強い魔物を引き寄せたり、ゾンビ化する可能性があるから、後始末はちゃんとした方がいいんだよね。
どうせやるなら、何匹かまとめてやれればやれれば楽だと思うけど、何匹かまとめて焼くのなら広い場所が必要そうだし、そうなると倒したゴブリンの死体を運ばなくてはいけない事になる。
そりゃ、私もユリウスもアイテムボックスがあるけれど、何の役にも立たないゴブリンの死体を、後始末のためだけにアイテムボックスにしまう事には抵抗があった。
だけど、その都度後始末をしていくのも面倒だし……何かいい方法はないかなあ?
「ねぇねぇ、後始末をするゴブリンを、結界の中に閉じ込めちゃって、火魔法で灰にしちゃうっていうのはどうかな?」
「え?」
サーチートがそう言ったけれど、私はどういう事なのか、よくわからなかった。
だけど、ユリウスはサーチートの言おうとしている事が、すぐに理解できたらしく、なるほどと頷くと、突然茂みの中から現れたゴブリンの左耳をロングソードで器用に切り落とすと、
「バリア」
と唱え、ゴブリンをバリア――結界の中へと閉じ込めた。
結界内に閉じ込められたゴブリンは、血の流れる左耳があった箇所を押さえながら、結界の壁を懸命に叩いていた。
「ファイア」
ユリウスは続いて、火魔法の呪文を唱える。
結界の中に閉じ込められたゴブリンは炎に包まれ、結界が消えた後は灰と小さな緑色の魔石が残された。
「そういう事か!」
つまり、ゴブリンを結界中に閉じ込めて、結界内だけに火魔法を使えば、周りを巻き込む事なくゴブリンの後始末ができるという事だ。
さっきユリウスがしたみたいに、地面に穴を掘る必要もない。
「すごいよ、サーチート! こんな事、よく思いついたね!」
私はサーチートを抱き上げると、ぎゅっと抱きしめた。
「本当だよ。全く思いつかなかった!」
ユリウスも感心したようにサーチートを見つめていた。
私とユリウスに褒められたサーチートはとても嬉しかったらしく、小さな黒い目をキラキラさせて、言った。
「あのね、アルバトス先生がね、前に、怪我をした人を安全のために結界内に入れて、ヒールで回復させた事があるって言ってて、それを攻撃魔法で使えないかなって思ったんだよ! ねぇ、オリエちゃん、ユリウスくん、ぼく、すごい?」
「うん、すごいよ! すごいすごい!」
「あぁ、とてもいい案だ。これなら、効率もいい」
「わーい、ぼく、すごーい! わーい!」
サーチートが短い手を一生懸命振り上げて、万歳する。
もう本当にこの子は可愛いなぁ。
そして、サーチートのアイデアのおかげで、ゴブリン討伐はかなり楽になりそうだ。
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