第114話・サーチートのゴブリン討伐勉強会
リュシーさんの店を出た私たちは、商都ビジードに宿を取り、アルバトスさんにしばらく帰らない事を連絡した。
その理由は、リュシーさんの店に長居してしまったせいで、マルコルさんに頼まれた買い物ができていないのと、ゴブリン討伐の依頼を受けたからだ。
さっと買い物を済ませてシルヴィーク村に戻る事もできたけど、そうしなかったのは、また誰かに探される可能性があるからだ。
だから、しばらくの間――少なくともこのゴブリン討伐の依頼を終えるまでは、商都ビジードに居る事にしたのだ。
「まぁ、ゴブリン討伐の依頼くらい、簡単に終わると思うけど、ポイントを稼ぐためには数をこなさないといけないからね。その点を考えて計画的に動こうか」
そう言ったユリウスは、チラリとサーチートに目を向けた。
サーチートはユリウスに頷くと、私を見上げ、言った。
「ねぇ、オリエちゃん、ゴブリン討伐の報酬とポイント、いくらだったか覚えている?」
はて、いくらだったっけ?
Gランクの私が受けられる依頼は、GランクとFランク。
その中でゴブリン討伐の依頼は、報酬もポイントも一番高かったって事だけは覚えているんだけど。
「あのね、オリエちゃん。ゴブリン討伐は、三匹討伐して、報酬が三百ルドで三ポイントだよ。でもね、魔石もあれば、報酬が二百アップ、ポイントも二ポイントアップなんだ! つまり、ゴブリン討伐は、一回こなせば一気に五百ルドと五ポイントもらえる依頼って事なんだ!」
という事は、このゴブリン討伐の依頼を二十回やったら、百ポイント貯まるって事か。
GランクとFランクの依頼しか受けられない中で、百ポイントを稼ぐっていうのは、結構大変なんじゃないかって思っていたけれど、Fランクに上がるのはそんなに難しくないかも?
「オリエちゃん今、すぐにポイント貯められるかもって思った?」
「うん、思った」
素直に頷くと、サーチートは私を見つめると、ふう、と息をついた。
え? 何? もしかして私、ちょっと呆れられてる?
ユリウスへと目を向けると、彼は苦笑しながら私とサーチートを眺めていた。
「あのね、オリエちゃん。このゴブリン討伐で五ポイントもらえるとして、百ポイント貯めるまでに一体何匹のゴブリンを倒せばいいと思う?」
「え? えっと、単純計算で、六十匹、だよね」
私が答えると、うんうん、とサーチートは頷いた。
そして、倒すだけなら簡単なんだよね、と続ける。
ん? 倒すだけなら簡単って、一体どういう事だ?
「オリエ、ギルドで依頼を受けたからには、ちゃんと受けた依頼を遂行したってい証拠が必要なんだ」
「証拠?」
「そう、証拠。例えば、薬草採集なら薬草をギルドへ持ち込む。街や村での手伝い系の依頼なら、依頼者のサインが必要。ツノウサギの狩猟なら、狩ったツノウサギを持って帰って手渡すんだ。じゃあ、ゴブリン討伐はどうすると思う?」
どうするんだろう? 素直にわからないと口にすると、ユリウスはとんでもない事を口にした。
「ゴブリン討伐の証拠は、ゴブリンの左耳を切り取ってギルドに提出するんだ」
「え?」
ゴブリンの左耳を切り取って提出? それを想像して、ゾッとした。
一回の依頼につき、三匹のゴブリンの左耳を切り取って提出か。
五ポイントもらえるとしても、六十匹のゴブリンの耳を切り取らなければいけない事になる。
「あのね、オリエちゃん。ツノウサギはお肉を食べられるし、角は武器やアクセサリーの材料になるんだけど、ゴブリンは持って帰っても、何の役にも立たないんだ。でも、討伐依頼は、ちゃんと討伐したという証拠が必要となる。だから、左耳を切り取って提出しないといけないんだよ」
「そ、そうか……証拠って、必要だもんね」
いくらたくさん倒したとしても、証拠がなければ代金は支払えないって事なんだろうな。
元の世界で言うなら、領収証がなければ、経費として認められません的な感じだろうか。
でも、耳を切り取るって、結構きついな。できるかなぁ。
気持ち悪いし、怖いなぁ。
「あとね、ゴブリンは、死骸をそのままにしちゃうと、ゴブリンゾンビになっちゃったり、異臭や毒を発生させる事があるんだ。他にも、いろんな魔物が死骸を食べに寄ってきちゃうかもしれない。だから、ゴブリンは倒した後、後始末までする事が望ましいんだ。魔石もあれば報酬もポイントもアップっていうのは、ゴブリンを倒した後、後始末をちゃんとした事への報酬なんだよ」
「後始末って?」
「ゴブリンの死骸を燃やして灰にするんだ。そうしたら、ゴブリンの体の中にある魔石だけが残るんだ。それを持って帰ったら、報酬もポイントもアップになるんだよ」
つまり五ポイントをもらうためのゴブリン討伐とは、倒して、左耳を切り取って、体を燃やして中の魔石を入手して、左耳と共に冒険者ギルドに提出をしなければいけないという事か。
うわぁ、ゴブリン討伐、面倒くさいなぁ。
思わずそう呟くと、サーチートは真面目な顔をして頷いた。
「そうだね。確かに面倒だと思う。でもね、ゴブリンはいろんな所で湧いて出てくる魔物なんだ。だから、駆除していかなきゃいけないんだよ」
確かにいろんな所で湧いて出てくるっていうのなら、放っておいたらどんどん増えて、大変な事になっちゃうよね。
サーチートの言う通り、ちゃんと駆除していかないと。
「わかった、明日、頑張るよ!」
「うん、頑張ろう! オリエちゃんはぼくがいれば最強だから、大丈夫だよ! 僕に任せて!」
ドヤ顔のサーチートが小さな手を握りしめて、とん、と胸を叩いて言った。
それから私たちは、明日のゴブリン討伐のため、早めに休む事にした。
サーチートが居るからエッチできないって、ユリウスが唇を尖らせていたけど、サーチートが二つあるベッドのうちの一つで眠ってしまったから、私とユリウスはもう一つのベッドで抱きしめ合って眠った。
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