第113話・とても高価なコスプレ衣装



「話はそれたけどさ、こういう銀髪のウィッグをつけて仮面でもつければ、誰だってルリアルーク王の格好になるって事だよ」


「それって、コスプレですね!」


 これって、ルリアルーク王のコスプレイヤーって事だよね。

 この世界の人の最推しって、ルリアルーク王なんだね。

 彼はこの世界のヒーローだもんね!


「あの、オリエ?」


「え?」


 少し戸惑ったようなユリウスの声が耳に届いて、私は我に返った。

 周りを見ると、コスプレと叫んで興奮した私を、みんな少し引き気味で見ていた。


「えっと、コスプレって、何だろう?」


「それは……コスチュームプレイの事、だよ。好きなキャラ……いや、好きな人とか憧れの人の格好を真似して、同じような格好をするの。ほら、さっきリュシーさんが言っていたような事だよ」


 私がそう説明すると、コスプレを知らなかったらしいユリウスたちは、感心したように私を見つめた。


「コスプレ、ですか。これは新しい商売になるかもしれませんね」


「そうだね、アタシもそう思うよ」


「オリエって、物知りだね。すごいよ」


「そ、そんな事ないよっ!」


 元の世界ではごく普通の知識というか、オタクの知識なだけだし。

 だから、感心されたり褒められたら、照れてしまう。


「じゃあ、オリエちゃんがこの衣装を欲しいって言うのは、ユリウスにルリアルーク王のコスプレってのをさせたいからかい?」


「ユリウスが普通に着るのが嫌だって言うのなら、コスプレでいいって思います」


あと、こんなに似合っているんだから、他の人に渡したくないっていう気持ちが強い。


「でもさ、コスプレって結構お金がかかるもんじゃないかい?」


「まぁ、確かに」


 私はコスプレをした事はなかったけれど、コスプレイヤーの人は結構お金がかかっていたと思う。

 良い衣装を作るか買うには、それなりのお金がかかるからだ。


「この衣装でコスプレってのをするには、大変だと思うけど、それでも欲しいのかい?」


 はい、と頷いたけど、この衣装、売ってくれるとしたら、一体いくらくらいなんだろう?

 ユリウスに似合っているから特別にお安くしてくれるとかは、ないだろうな。

 材料代だって、かなりなもののはずだし。


「そうだなあ。じゃあ、五百万ルド出すなら売ろうかな」


「五百万ルド?」


 えーと、金貨一枚が千ルドだっけ?

 だから、五百万ルドって事は、金貨が五千枚?

 確か、金貨一枚が一万円くらいなイメージだったから、五千万円?

 うひゃー、元の世界だと、結構いい家が買えちゃうよ!


「リュシー、かなりふっかけましたね」


 リュシーさんが口にした値段に驚いたのは、私だけじゃなかったらしい。

 商人ギルドのギルドマスターであるローレンスさんも、リュシーさんの発言に驚いていた。


「だって、アタシの最高傑作だもん。安い値段では、売れないなあ」


 そりゃそうだろうけど、さすがにゼロが一つ多いんじゃないのかと思う。

 もしかするとリュシーさんは、私が買おうとしているのを、止めさせようとしてる?


「わかった。その値段で構わない。この仕上がりなら、当然の値段だ」


 あまりの値段に私は戸惑ってしまったんだけど、それでいいと言い出したのは、ユリウスだった。

 ユリウスはあの衣装を着たくないのかもと思っていた私は、驚いた。


「何、アンタ、買うつもり?」


 驚いたのは、リュシーさんやローレンスさんもだった。

 リュシーさんに問われたユリウスは頷くと、


「俺はそのコスプレっていうのをしたいとかは思わないんだけど、オリエが欲しがっているのなら、買ってもいいかなって思った。この銀髪のウィッグと一緒に買おう。仮面もつけてくれ」


 なんて言い出したのだ。

 ちょっとユリウス、あなた、やっぱり私に甘すぎだよ!

 と、私は心の中で突っ込んだ。

 そして彼はさらに言葉を続ける。


「あと、オリエの衣装も作ってくれ。もちろん、この衣装と同等のレベルのものでだ。黒髪のウィッグと仮面も頼む」


「ユリウス?」


「アンタそれ、本気で言ってるのかい?」


「あぁ、もちろん本気だ。そしてコスプレっていうのをするというのなら、俺だけでなく、オリエも一緒がいい。オリエ、駄目かい?」


「ううん、駄目じゃないよ。だけど……」


 だけど、このコスプレ衣装は、とんでもなく高額だ。

 ユリウス用の衣装だけでもすごい金額なのに、私の分をユリウスの衣装と同等のレベルで作るとなると、さらにすごい金額になってしまう。

 支払う事ができるのだろうかと、心配になってしまうのだ。

 しかも、ユリウスの衣装は、リュシーさんが売ってもいいという気分になった時で構わないって言ったけれど、私の分は注文って事になってしまうし、ユリウスはそのあたりの事は、どう思っているんだろう?


「金額の事は心配しなくてもいいよ。俺たちは冒険者だ。レベルを上げて、しっかり稼いでいこう」


 私が支払いの事を気にしているのに気づいたらしいユリウスが、軽くウインクして言った。

 まぁ、そうだよね。欲しいものがあるのなら、お金を稼げばいいんだ。

 冒険者としてのレベル上げもしようって言っていたし、それに、欲しいものができたからこそ、本当に頑張ろうって思える。


「話はまとまったみたいだね。じゃあ、この衣装はアンタたちに売ってあげるよ。それから、オリエちゃんの衣装の事も、引き受けるよ。ところで、アンタたちの冒険者のレベルはどれくらいなんだい?」


 ユリウスの衣装を売ってくれる気になったらしいリュシーさんが言った。

 私とユリウス、そしてサーチートが声を揃えて、


「Gだよ!」


 と答えると、リュシーさんとローレンスさんは顔を見合わせて、支払いはいつの事になるやらと、大笑いした。


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