第三章:冒険者デビュー

第105話・再び商都ビジードへ



 シルヴィーク村に帰ってから一週間後、私とユリウスは、再び商都ビジードへと向かった。

 今回は、私とユリウス、それからサーチートの二人と一匹だけ。

 ジャンくんとモネちゃんは、その後おしゃべりなサーチートによって、結局いろいろとバレちゃって――今回はお留守番だ。

 サーチート、いろんなところに行っていろんな人と話をするから、ドルスさんやマルコルさんには話したら駄目だよって口止めをしていても、他の人から伝わっちゃうんだよねぇ。

 なので、今回私たちは、マルコルさんから結構な量のお使いを頼まれている。

 まぁ、私たちにはマジックバッグもあるし、気づいてなかったんだけど、アイテムボックスっていう時空魔法も使えたので、何をどれだけ買っても対応できるんだけどね。

 アイテムボックスの事は、ユリウスと二人して、使える事に全く気付いていなかった。

 私のステータスって、


 魔法:全て使える


 って書いてあるんだけど、今はユリウスも同じようになっているらしい。

 それなら使えるってわかっていただろうって突っ込まれるかもしれないけれど、私の場合は全て使えるからこそ、どんな魔法があるかわからないから気づかなくて、ユリウスの方も思いつかなかったらしい。

 今回の事だって、また商都ビジードで買い取ってもらう予定の素材を、マジックバッグに詰めていた時に、


「いくらマジックバッグとはいえ、それだけの素材を詰め込むのって、口が小さいから、大変じゃないですか? あなたたち二人なら、アイテムボックスが使えないわけじゃないでしょう? 詰め込む物のサイズにもよるかと思いますが、マジックバッグとアイテムボックスを、時空魔法で繋げちゃえば、もっと便利だと思うんですけど、どうしてしないんですか?」


 と、アルバトスさんが不思議そう言ったから、気がついたのだ。


「この間出かける前に、気づいていればっ……あの熊、マジックバッグに入れるのも出すのも、すごく面倒だった……」


 深いため息と共に俯き、落ち込んだユリウスの背中を撫でながら、確かにそうだよなぁと思う。

 マジックバッグとはいえ、私のは小さなリュックだし、ユリウスのもメッセンジャーバッグみたいな小さなバッグだ。

 バッグの口に入れたい物を近づけたら、ヒュッと消えるように吸い込まれてはいくんだけど、口が小さいから大きいものは入れにくいんだよね。

 でも、アルバトスさんのアドバイスで、アイテムボックスとマジックバッグを時空魔法で繋げたから、とても便利になった。

 ちなみにサーチートのバッグは私が作ったけれど、私のアイテムボックスやマジックバッグとは繋がっていない。


「オリエちゃんがくれたこの鞄には、ぼくの宝物を、たぁくさん入れているんだー。いくらオリエちゃんでも、勝手に見ちゃ駄目だからね!」


 と言うので、あのマジックバッグは、サーチートだけが使えるものにしてあるのだ。

 でも、サーチートの宝物って、どんなものだろうね。

 ちょっと気になるなぁ。






 私とユリウスとサーチートは、テレポートの呪文で、商都ビジードまで歩いて三十分くらいの、人気のない草原へと降り立った。

 この間、商都ビジードからシルヴィーク村に戻る時も、このあたりからテレポートの呪文を使ったんだけど、その理由は目立つからだ。

 このテレポートの呪文は便利だけど、使える人はあまり居ないらしいからね。

 ただでさえ目立つユリウスがこの呪文で移動すると、さらに目立つ事になってしまうので、緊急事態の時以外は、なるべく人目に付かないように使おうという事にしたのだ。


「あ、薬草だ」


 商都ビジードの周りの草原には、雑草に紛れて、いろんな草花が生えていた。

 見つけた薬草や毒消し草を摘んで、アイテムボックスに放り込む。

 ポーション作りには、薬草はいくらあっても足りないからなぁ。

 シルヴィーク村に戻ってから、ユリウスは狩りに、私は冒険者ギルドに買い取ってもらうためのポーション作りにと、結構忙しかった。

 今回は、下級ポーションを二十本と中級ポーションを十本作って持ってきた。

 今まであまり意識せずに作っていたのが上級から特級だったから、下級や中級のポーションってどうやって作るんだろうと思ってたんだけど、薬草の量を変えるだけで作る事ができた。

 でもアルバトスさん曰く、普通はそんなに簡単に作れないらしいので、私の聖女の力が影響しているのではないかという事だった。

 聖女パワー、便利だなぁ。

 でも、誰かの役に立てる力なら、どんどん使わなきゃだよね。

 今回は、ポーション大量生産のために、ビジードでポーション用の小瓶を大量に買い込もうと思ってる。

 そして、どんどん作って、冒険者ギルドに持って行くのだ。

 薬草を摘みながらてくてく歩いて、商都ビジードに入場するための列に並ぶ。

 そして私たちの番になった時に、門番の人に前回と同じようにギルドカードを見せると、呼び止められてしまった。

 門番の人は私とユリウスのギルドカードを見て少し黙り込むと、言った。


「あんたら、カードの本登録をしないと駄目だぜ。この間来た時に、してなかったんだな」


「え?」


 どういう事だろうと、私とユリウスが首を傾げると、門番の人は、私とユリウスのカードは仮登録の状態なのだと教えてくれた。

 冒険者ギルドのカードは、身分証明書替わりに小さな街や村で冒険者ギルドのカードを作る事ができるが、本登録は冒険者ギルドで行わなければならないのだそうだ。


「ちょうどあんたたちの事を、冒険者ギルドのギルドマスターが探していたから、カードの本登録もしてもらえばいい」


「わ、わかった……ありがとう」


 門番の人にお礼を言って、私とユリウスはまず冒険者ギルドへと向かう事にした。

 だけど、冒険者ギルドのギルドマスターのゴムレスさんが私たちを探している?

 何かあったのかな?


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