第106話・ギルドカード
冒険者ギルドに着くと、受付カウンターに居た女の子が、慌てたように裏に走っていき、ゴムレスさんを連れて戻って来た。
ゴムレスさんは私たちを見るなり、
「お前たち、どこに行っていたんだ!」
と聞いてきて……私とユリウスはどうしてそんな事を聞かれるのだろうと、顔を見合わせた。
「何かあったのか?」
シルヴィーク村にある家に戻っていたと言えない私たちは、ゴムレスさんの質問に、質問で返した。
シルヴィーク村は今、見えない壁のようなもので囲まれて中に入れなくなっていて、村人たちは生死不明って言われているからね。
本当は、一部の森を含んだ村を守る結界が張られていて、その中で村のみんなは元気に過ごしているんだけど。
「いろいろとあってな、お前たちを探していた」
はぁ、と深い息をついて、ゴムレスさんが言った。
それから、ちょっと来いと言って、この間お金を受け取る時に使った部屋へと連れて行かれる。
「いろいろって……もしかして、黒魔結晶の件か?」
シルヴィーク村に帰っていた一週間のうちに、もしかして黒魔結晶の件で、何かあったのだろうか。
心配になって聞くと、ゴムレスさんは首を横に振った。
「いや、お前たちを探していた理由は、黒魔結晶の件じゃない。スタイリッシュ・アーマーのリュシオンが、お前たちを探していてな……」
「え?」
思いがけない名前が出て、私は首を傾げてユリウスを見つめた。
リュシーさんの店で買った物の加工には、一週間くらいかかるって言っていたから、加工が終わった頃に取りに行くつもりだったけれど、他に何か用なのかな?
とりあえず、後から行くつもりであると伝えると、ゴムレスさんは頷いた。
「あと、俺もお前らに用があってな……ギルドカードの事だ。出してみろ」
「わ、わかった……」
ゴムレスさんに言われるままに、私とユリウスはギルドカードを出して、ゴムレスさんに見せた。
「門番から聞いてまさかとは思ったが、本当にブランクのままだったんだな。この間確認しなかった俺たちも悪いんだが……」
「えっと、門番の人から聞きました。これ、仮登録状態って事ですよね?」
「そうだ、仮登録状態だ。お前たちのカードには、冒険者ランクがねぇ。ブランクのままになっているんだ」
「ブランク?」
「ほら、お前らのこのカードには、ランクの表示がないだろう。冒険者ランクには、S、A、B、C、D、E、F、Gと、八つのランクがあるんだ。このランクを入れて初めて、このカードは本登録された事になるんだよ」
私とユリウスは自分のカードを見つめた。
確かに、ランクの表示がない。
「じゃあ、本登録をお願いします!」
ユリウスと二人してお願いすると、
「あぁ、任せろ。だがお前ら、このカードの期限、ギリギリだぞ。仮登録のままだと、三か月で抹消されるところだったんだぞ」
と、ゴムレスさんは呆れたように言ったけど、知らなかったから仕方ないんだよなぁ。
ジャンくんもモネちゃんもマルコルさんも、教えてくれないんだもんな。
もしかしてユリウスも居るし、知っているって思われていたのかもしれないけどね。
「しかも、仮登録場所は、シルヴィーク村か……。この日付なら、シルヴィーク村が消える前か……」
私のカードは、私がこの世界に来てすぐだから、二か月半前くらいに作った。
ユリウスのカードはつい最近作ったんだけど、私のカードと同じ日に作ったように捏造してある。
「シルヴィーク村は今、おかしな事になっているようなんだが……何か知っているか?」
ゴムレスさんの問いに、私とユリウスは首を横に振った。
二人で話し合って、シルヴィーク村の事を聞かれたら、村には旅の途中で少し寄っただけで、何も知らない設定にしようという事になったのだ。
ゴムレスさんは私たちの言葉を信じてくれたらしく、そうか、と言ったきり、それ以上の事は聞いてこなかった。
「まぁ心配だが、みんなが無事でいると願うしかないな。じゃあ、お前らのカードの本登録をするが……通常ならブランクはGランクからコツコツ上を目指すものなんだが、…ユリウス、お前は俺のギルドマスターの権限で、Bランクスタートにしてやる」
「え?」
「ユリウス、良かったね、おめでとう」
「ユリウスくん、おめでとう! すごいね!」
ブランク状態から一気にBランクって、さすが私のユリウスだ。
私とサーチートは素直に喜んだんだけど、何故なのかはわからないけれど、ユリウスは眉を寄せ微妙な表情をする。
「おいおい、なんでそんな不満そうな表情をしているんだ? ブランク状態から一気にBランクだぞ? Gランクからスタートすると、受けられる依頼も少ないから、上に上がるためのポイント稼ぎに苦労するんだぞ?」
「でも、みんなGランクからコツコツ始めるものなんだろう? それなら、俺もそれでいい。それに……」
「なんだ?」
「ありがたい話だが、一気にBランクだと、何か裏があるんじゃないかって疑ってしまう」
「え? そうなの?」
てっきりゴムレスさんがユリウスの実力を認めたからなんだって思ってたけど、違うの?
ゴムレスさんの顔を見つめると、どうやらユリウスの言葉通りだったらしく、渋い表情をしていた。
「くそ、勘のいいやつだな。でもよ、考えてもみろ。お前は黒魔結晶が刺さったあの巨大熊を、一人で倒したんだろう? そんな奴がGランクからって、あり得ないだろうが」
うん、確かにそうだよね。私もそう思う。
思わず頷くと、ちらりと私へと視線を向けたユリウスが、困ったような表情で笑った。
「このお嬢ちゃんだってそうだ。質の良いポーションが作れるし、お前と一緒に居るんだ。それなりの実力があるんだろう? 俺はお嬢ちゃんは、GランクじゃなくてDランクをって考えていたんだ」
「本当に?」
「あぁ、本当だ」
頷くゴムレスさんを見て、ちょっと心が揺れた。
でも、ユリウスが言う通り、きっとこれには裏があるんだよね。
それに、みんなコツコツ頑張って上のランクを目指しているっていうのに、いくらギルドマスターであるゴムレスさんの権限だとしても、他のみんなに申し訳ないっていう気持ちもある。
だから、ここはやっぱり辞退した方がいいよね。
「お気持ちはありがたいですけど、私もユリウスと一緒にGランクからコツコツと頑張ります」
私がそう言うと、ゴムレスさんは深いため息をついたけれど、仕方ないか、と頷いた。
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