第103話・ルリアルーク王の衣装


 どっさりと置かれた、いろんな色、いろんな種類の布。

 リュシーさんはそれを、上半身裸のユリウスに巻き付けていく。


「わぁっ……」


 結論から言おう。

 なんというか、夢のようなひと時だった。

 リュシーさんは魔法使いのように、私のユリウスを着飾らせてくれたのだ。


「ユリウス、いいね~、いいよう~」


「オリエ……俺、布を巻きつけられているだけなんだけど」


「うん、確かにそうなんだけどねぇ~」


 リュシーさんは布を巻きつけながらも、器用に服の形に整えていくのだ。

 リュシーさんがイメージしているものが、どんどん形になっていくのがわかって、面白い。


「アタシさ、やっぱ、あんたの肌には、白が似合うと思うんだよねぇ」


 ユリウスの褐色の肌に白い布を当てながら、リュシーさんが言った。

 確かに、白っぽいのもいいよね。

 ユリウスは黒っぽいものを着たがるんだけど、白はユリウスの褐色の肌に、とても良く映えると思う。


「やっぱ、白の軍服かな。それから、マントは赤か、青でもいいけど……うーん……」


「マント!」


 白い軍服に、赤か青のマント! 確かに、どちらも捨てがたい!

 でも、思い切って、白のマントでもいいんじゃないかと言うと、リュシーさんも興奮気味に頷いた。


「軍服の方には、アイアンスパイダーよりも上位種のスティールスパイダーから採った糸を、極限にまで細くした金銀銅の糸で、刺繍加工をしようかなって思ってる。軽いのに、鋼の鎧と同等の防御力が得られるんだ! どう? いい感じでしょ!」


「はい! すごく、いいです! すごいですよ! ユリウス、良かったね!」


 興奮する私とリュシーさんを見たユリウスは、はぁ、と深いため息をついた。


「あのさ、作る服ってさ、俺の服じゃないだろ?」


「え? あー!」


「あぁ、そうだった。途中から本気であんたに作る気でいたよ」


「何言ってんだよ、あんた……」


 リュシーさんを呆れたように見たユリウスは、また深いため息をついた。

 私も、何故だかわからないんだけど、この服はユリウスのためのものだって、途中から本気で思っていた。

 でも、この服はユリウスのものではなく、ジュニアスのためのものなんだよね。


「鎧とかは、作らないのか? 例えば、宝石を埋め込んだ金銀の豪華な鎧……」


「鎧かぁ。ガレアスさんが居るし、私も作れない事はないけど、うちの店の売りは、特殊な加工だからねぇ。それに、軽くて動きやすいものの方が良くないかい?」


 リュシーさんの言葉は確かにその通りだと思うけど、ユリウスは、少し黙り込む。


「あんたさ、ジュニアスの事とか、あいつの好みとか、調べたのか?」


「え?」


「あんたが作ろうとしているのは、確かにいいものだと思うけど、身に着ける相手の好みでなければ、選ばれない可能性もあると思う。ジュニアスは肌以外、ルリアルーク王の色を持っていない。金銀の色に、かなり執着しているんだ。だから、金銀が目立つ衣装の方が、選ばれる可能性が高いと思うけど……」


 ユリウスの発言を聞いて、リュシーさんは驚いたように、


「何、あんた、ジュニアス王子の知り合いなの?」


 と言い出した。

 ユリウスははっとした表情をして、


「う、噂で聞いただけだ!」


 と言ったけれど、見るからに怪しかった。

 まぁ、ユリウスとジュニアスが、互いに嫌い合っている兄弟だとは気づかないだろうけど、絶対に知り合いだと思われただろうな。


「でも、確かにそうだね。あんたの衣装じゃないし……ジュニアス王子の好みに寄せていないと、選ばれないよねぇ」


 リュシーさんは苦笑していた。

 商人ギルドから依頼を受けたけど、やっぱり乗り気じゃないのかなぁ。

 いや、でも、服を作りたいっていう気持ちは、ものすごく強いような気がする。

 衣装の納品までは、まだ日にちがあるらしいから、リュシーさんはいろいろと参考にさせてもらうって言っていた。






 その後、私たちはリュシーさんの言っていたとっておきのお酒と、美味しい家庭料理をいただいいて、一週間後にまたお店に来ると言って、泊っている宿に戻った。

 ユリウスのための衣装じゃないけれど、私はリュシーさんが作る衣装が、とても楽しみだ。

 そして、多分それは、ユリウスも同じだと思う。


 ちなみに、リュシーさんのとっておきのお酒をほとんど飲み干したのは、サーチートで、リュシーさんは、


「面白いけどさ、なんであんたがほとんど飲んじゃうんだよっ!」


 って言って、頭を抱えていた。

 サーチートは、またたくさんお酒をいただいて、お腹いっぱいで満足して寝ちゃってるんだけど、私は明日、サーチートに、しばらくの間はお酒を飲むのは禁止って言い渡そうと思っている。

 最近、ちょっと、飲みすぎだもんねぇ。


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