第102話・スタイリッシュ・アーマーの店主



「あぁ、リュシーさん、お帰りなさい……って、あんたたちは昼間の……」


「おやまぁ、お知り合いでしたか?」


 お店に入ると、店主であるリュシーさんを、ガレアスさんとソフィーさんが出迎えに出て来て、私たちを見てびっくりしていた。


「ううん、街でさっき初めて会ったんだ。この子たち、昼間、ここに来たんだって?」


「えぇ。ズボンや武器をたくさん買ってくださいました」


「という事は、アンタ、アタシの店の商品が気に入ったって事だよね! ねぇ、アタシのお願い、聞いてよ~」


 ユリウスの肩に腕を廻し、リュシーさんが言う。

 ユリウスは渋い顔をしてため息をつき、仕方ないとと呟いた後、言った。


「内容による。とりあえず、聞こう」


「ありがと。あのね、モデルっていうか、トルソー替わりっていうか、アンタにアタシの作る服を着てもらいたいんだよ。なかなかイメージが固まらなくてさ」


「は? なんで俺なんだよ」


 うん、確かに、どうしてユリウスに着てもらいたいんだろう。

 リュシーさんは、デザイナーって事だから、当然トルソーも持っているだろうし……でも、どんな服なんだろうな。

 ユリウスをさらにカッコよくするような服なら、着ているところを見てみたいなぁと思う。


「あの、それって、どんな服なんですか? ユリウスじゃないと駄目なんですか?」


 私がそう言うと、リュシーさんは綺麗な笑顔で、元気に頷いた。


「そう、この子じゃないと駄目なんだ。だってその服は、ルリアルーク王の衣装、だからね」


「え? それ、どういう事だ?」


 目を見開き、息を呑むユリウス。

 もちろん、私も驚いた。今の話、どういう事なんだろう?

 ただサーチートだけが、「ルリアルーク王の服かぁ~。どんな服だろうねぇ~」と、呑気に喜んでいる。


「ほら、今、オブルリヒトのジュニアス王子が、ルリアルーク王じゃないかって言われているだろう? あの王子、近々それを他国に向けて宣言するらしいんだ。ジュニアス王子は、ルリアルーク王の色を全て纏っているわけではないけど、父王の方はルリアルーク王の色を全て纏っていて、ステータスには、ルリアルーク王の父と記載されているって噂だ。だから、色は違えど、ジュニアス王子は本当に現世のルリアルーク王だと言われている」


「へ、へぇー、そ、そうなんだ」


 ユリウスは口元がひくひくさせながら言った。

 私も、王様のステータスの事までが世間に広まっている事には驚いた。

 私は以前アルバトスさんに教えてもらったけど、これ、ユリウスは知っていたのかな。


「それでさ、ジュニアス王子が自分こそが現世のルリアルーク王であるって宣言する、その日に纏う衣装を、王都オブリ―ルとこの商都ビジードの商人ギルドに作らせて、出来を競い合わせる事になったんだ。それで、このビジードの商人ギルドから、アタシにその衣装を作れっていう依頼が来たわけよ」


 だけど、その依頼を受けても、リュシーさんはなかなかやる気が出なかったのだという。

 その理由は、リュシーさんがジュニアスの事を良く思っていないかららしい。

 今、ほとんどの冒険者たちが、ジュニアスを現世のルリアルーク王だと信じて浮かれているけど、一部の人間のジュニアスの評価は、かなり低いものなのだそうだ。


「商人ギルドのギルドマスターから頼まれはしたものの、やる気も出なけりゃ、全くデザインが思い浮かばなくてさ。時間だけが過ぎていくし、もう断っちゃった方がいいかもって思ってたんだよ。そうしたら、アタシの目の前に、アンタが現れた。アンタを見た瞬間、今まで全く思い浮かばなかったデザインが、思い浮かんできてさ! だから、ねぇ、お願い! ちょっとでいいから、付き合ってよ! 体に布を当てさせてくれるだけでもいいからさ!」


「断る! 絶対、嫌だ!」


「何でだよ! いいじゃん、ここまで来てくれたんだから、ちょっとだけでいいから付き合ってよ!」


「悪いが、絶対に嫌だ!」


 ここまで来てユリウスが嫌だと譲らないのは、ジュニアスのための服だから、だろうなぁ。

 ユリウス、ジュニアスの事、大っ嫌いだからなぁ。

 ルリアルーク王の役をジュニアスに押し付けようって言ったけれど、それとこれとはまた別の話だ。

 これは申し訳ないけど、リュシーさんには諦めてもらうしかないと思う。

 でもなぁ~、私の意見としては、すっごく見たいんだよねぇ。

 だってルリアルーク王のための衣装って、絶対に豪華でカッコいいと思うから。

 そんなユリウスを見てみたいって思うんだよねぇ。


「ユリウス、私、見てみたいなぁ~。駄目、かなぁ?」


 上目遣いで見つめると、「ちょっとオリエ!」と、ユリウスはものすごく困った顔をした。


「オリエ、君なら俺の気持ち、わかるだろう? 勘弁してくれよ!」


「ごめん、ユリウス……わかる……ユリウスの気持ち、ちゃんとわかってるんだよ? でもね、きっとカッコいい衣装だろうな~って思って……そうしたら、カッコ良く着飾ったユリウスを見てみたいな~って思っちゃってね~」


 ユリウスはシンプルな服が好みだから、着飾る事なんて、滅多にないと思うんだよね。

 だから余計に、見てみたいなぁって思うんだ。

 ルリアルーク王の衣装を着た、ユリウスの姿を。


「あぁ、もう……」


 深いため息をついて、仕方ないな、とユリウスが言う。


「やったぁ! お嬢ちゃん、えと、オリエちゃんだっけ? ありがとう!」


「いえ、私だって見てみたかったんです! 見学させてくださいね!」


「もちろんだよ! いろいろと感想を聞かせてほしい!」


 私とリュシーさんは、互いに喜びハイタッチをした。


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