第101話・謎のオネエ系男子



 買い物を済ませ、アルバトスさんやシルヴィーク村の人たちにお土産を買って、ビジードの街を歩き回っていると、夕方になった。

 今日はどこでごはんを食べようかとキョロキョロしていると、


「ねぇちょっと、アンタ、その目、髪、本物なの?」


 と、ユリウスの肩を乱暴に掴んだ男の人がいた。


「なんだよ、あんた……」


 この世界で一番目立つ容姿のせいか、ユリウスはいろんな人からじろじろと見られてはいたけれど、今みたいに乱暴に聞いてくる人はいなかった。

 ユリウスは男の人を睨みつけると、肩にかけられた手を振り払った。


「あぁ、ごめん、怒らないでよ! いきなり肩を掴んだアタシが悪かった! ごめん! ただ、あまりにも理想が服着て歩いていたもんだから、興奮しちゃってさ!」


 男の人は両手を合わせて謝ると、にっこりと笑う。

 金髪に深緑の瞳、身長はユリウスと同じくらいで、体つきはユリウスよりも逞しい感じだった。

 ユリウスが細マッチョなら、この男の人は少しむっちりしている感じかな。

 しかも一人称がアタシって、まるでアニメキャラみたいな美形が出て来たなぁと思う。


「は? 何だよ、それ。理想がどうのって……意味がわからない」


「あぁ、怒らないでよ、アタシが悪かったってば! あのね、ちょっとでいいの! お願いしたい事があるんだ! アタシのお願い、聞いてくんないかなぁ?」


「は? 何言ってんだ、あんた。オリエ、行こう」


 ユリウスはそう言って私の肩に手を回した。

 多分ユリウスは、面倒事は嫌だって思っているんだよね。

 だけど謎の美形オネエ系男子は必死でユリウスを引き留めようとしていて、私もサーチートも気になって仕方がなかった。


「ねぇ、お願い! あ、そうだ。アタシのとっておきのお酒、飲ませてあげる! それに、美味しい家庭料理、ご馳走してあげるからぁ!」


 謎のオネエ系男子は、ものすごく必死だった。

 でも、ユリウスは断るだろうなぁと思った。

 だって、ユリウスは絶対にこの謎のオネエ系男子を、面倒な奴って思っているだろうし、ユリウスはお酒を飲めるけど飲まないので、とっておきのお酒とごはんくらいじゃ、釣れるはずがないのだ。

 だけど、釣れる者も居るのは確かで……。


「とっておきのお酒かぁ~。どんなのだろう~」


 私が抱っこしていたサーチートが、よだれを垂らしていた。

 この子、本当にお酒好きだなぁ。ちょっと……いや、かなり心配だよ。


「ほらほら、この……何かよくわかんない子が、アタシの持っているとっておきのお酒が気になってるよ! アンタも、気になるだろ? そこのお嬢さん、アンタだって、気になっちゃうんじゃない?」


「えっと……」


 気にならないわけではない。

 だけどそれはお酒ではなく、今必死にユリウスを引き留めようとしている、この謎のオネエ系男子の存在だ。

 どんな頼み事なのかは知らないけれど、多分、ものすごく困ってように見えるんだよね。

 だから、せめて話を聞いてあげるくらい、してもいいんじゃないかなぁ、と思う。

 私がそう言うと、ユリウスは渋々だったけれど、仕方ないな、と言って頷いてくれた。


「え? ここって……?」


 謎のオネエ系男子が、ユリウスの気が変わらないうちにと、大急ぎで私たちを案内したのは、昼間訪れた、スタイリッシュ・アーマーという店だった。


「ん? 知ってるの?」


「はい。昼間、来ました」


「あぁ、そうかぁ~。良く見たら、お兄さんの履いているズボンは、うちの物だよね。それに、腰に下げてるロングソードも、ガレアスさんの作った物だ。気づかなかったよ」


「え? という事は……」


「名乗るのが遅れちゃったね。アタシの名前は、リュシオン。みんなには、リュシーって呼ばれてる。このスタイリッシュ・アーマーの店主だよ」


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