第99話・スタイリッシュ・アーマー
ジルさんに教えてもらった店は、『スタイリッシュ・アーマー』という店で、商都ビジードの中心にある冒険者ギルドから歩いて二十分くらいのところに建っていた。
街の中心からはちょっと離れているから、人通りは少なめだけど、その分店舗の家賃が安めなのか、結構大きなお店だった。
「こんにちは。冒険者ギルドのジルさんに紹介してもらって、来ました」
お店の中に入ると、外から見た印象とは違い想像していた広さの三分の一くらいで、こぢんまりとしていた。
お店の人が居るカウンターの後ろにドアがあるから、その奥に別の部屋があるんだろう。
ガン、ガン、という音が聞こえているから、奥の部屋は作業場で、そちらが広めの造りになっているのかもしれない。
お店の方には武器や防具がいくつか置かれていたけれど、ここまで来るまでにあったお店に比べれば、品数がかなり少ないと思う。
「えぇと、いらっしゃい。ジルちゃんの紹介で来てくれたのかい? ありがとうね」
カウンターのところに居た女の人――五十代後半か六十代初めくらいの、少し白髪が混じった茶色の髪に、黒い瞳をした女の人が、声をかけてきた。
私たちがお店に入ってから、結構間があったけれど、それはどうやらユリウスを見て驚いていたからだったようだ。
女の人は、「すまないね、あんまりいい男だったから、見惚れちゃったよ」と、少し頬を赤らめて笑った。
「冒険者ギルドのジルちゃんは、よくお客さんを紹介してくれるんだよ。うちはね、お客さんたちが元から持っている武器や防具を直したり、加工したりする事が多いんだ。もちろん、普通に武器や防具も売っているから、どんな物を探しているか教えてくれたら、倉庫の方から出してくるよ」
そう言った女の人は、この店で店番と針仕事をしているらしく、ソフィーさんと名乗った。
「あの、このジャケットが直るかどうか、見ていただきたいんです」
私はマジックバックの中からユリウスのジャケットを取り出すと、ソフィーさんに見せた。
「おやまぁ、肩のところが、すごい事になっているねぇ」
ソフィーさんはボロボロのユリウスのジャケットを見ると、言った。
ユリウスの肩に乗っていたサーチートがカウンターへと飛び降り、
「ものすごーく大きな熊と戦った時に、ボロボロになっちゃったんだ。ねぇ、おばさん、ユリウスくんの服、直せる?」
と聞くと、突然ぬいぐるみに話しかけられたソフィーさんはまた驚いたようだったけれど、もう一度手にしたジャケットを確認し、頷いた。
「そうだね、大丈夫だと思うよ。この布と同じ物はうちにはないから、元通りに直す事はできないけれど、うちの技術があれば、前よりも防御力を上げられるし、この裂け目も上手く直してあげる事ができるよ」
この店は、アイアンスパイダーと言う魔物から採れる、鉄糸を扱っているそうで、防御力の高い布を織る事ができるらしい。
アイアンスパイダーから採れる鉄糸で織った布は丈夫で柔軟性があり、防御力がとても高いのだそうだ。
それに、上着の袖やズボンの裾を鉄糸で加工すると、籠手や脛当替わりになるらしい。
最近のユリウスの戦い方を考えると、是非ともその加工をジャケットとズボンにしてほしいと思った。
ユリウス自身も気に入ったのだろう、自らソフィーさんに鉄糸での加工をお願いしている。
「じゃあ、ジャケットとズボンを預かろうね。お兄さん、着替えは持っているかい? それとも、お兄さんに合いそうなズボンを探そうか?」
「お願いできますか」
「はいよ、ちょっと待ってね。探してくるよ」
ソフィーさんはそう言うと、奥に倉庫があるんだよ、と言って、カウンターの後ろにあるドアの方へと向かった。
だけど、ソフィーさんがドアノブに手を伸ばす前に、そのドアは開かれ、ソフィーさんと同じくらいの年代の男の人が、姿を現した。
「ソフィー、お客さんかい?」
そう言った男の人は、ユリウスを見ると、一瞬目を見張った。
ソフィーさんもそうだったけれど、やっぱりユリウスを見ると、驚いちゃうみたいだ。
褐色の肌、銀色の髪、金色の瞳……この組み合わせは、有りそうでなかなかない組み合わせらしいからね。
「もう、あんたったら、そんなにお客さんをジロジロと見たら失礼だよ! まぁ、私も人の事は言えないんだけどね」
そう言ったソフィーさんを困ったように、だけど優しく見つめた男の人は、ユリウスに「夫婦揃って、すみません」とぺこりと頭を下げた。
彼はソフィーさんの旦那さんで、ガレアスさんという名前らしい。
「何かご注文してもらったのかい?」
「えぇ。カウンターに置いてあるジャケットの直しと、鉄糸の加工をね。今お兄さんが履いているズボンの方にもって事だから、ちょっと替わりのズボンを探してくるよ」
そう言ったソフィーさんは、ガレアスさんと入れ替わりに、奥へと消えていった。
「ほう、どれどれ」
ガレアスさんはカウンターに置かれたジャケットが気になったのだろう、カウンターへと近づこうとした。
その時、ガツンガツンという、床を何か硬い物が叩くような音がして、カウンターに居たサーチートが、何の音だろうと首を傾げた。
ガレアスさんはカウンターに居たサーチートを少し不思議そうに見つめると、
「うるさいかい? すまんね。わしの左足の音なんだ。左足が、膝から下がなくて義足でね、木の床を歩くと、大きな音がするんだよ」
と申し訳なさそうに言い、カウンターを周ると、私たちに左足を見せてくれた。
確かガレアスさんの言う通り、彼の左足は膝から下が杖のような木の義足になっていた。
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