第97話・大金を手に入れた!



「おい、昨日預かった素材の代金を渡したいんだが、奥に来てもらえるか?」


 サーチートを見てほっこりした後、ゴムレスさんはカウンターの奥の部屋に私たちを呼んだ。

 ここは応接室なのかな、ソファーとローテーブルが置いてあって、ゴムレスさんと一緒に中に入ったジルさんが、ソファーに座るように勧めてくれた。


「これが、昨日の代金だ」


 ゴムレスさんはローテーブルに小さな麻袋を二つ置き、その隣に金貨を三十八枚並べた。

 この小さな麻袋の中には、金貨が百枚入っているらしい。

 という事は、金貨が全部で二百三十八枚って事で、つまり、二十三万八千ルド……日本円で、約二百三十八万円って事?


「あの、昨日、獲物のランクは低めって言ってませんでした?」


 確認のため、麻袋の中に入った金貨を並べてくれているジルさんにこっそり尋ねると、昨日預けたたくさんの素材の中には、高ランクの魔物の皮が入っていた事を教えてくれた。


「昨日の素材ですが、茶色の毛皮の普通の狼のものばかりだと思っていたんですが、ブラックウルフにレッドウルフ、シルバーウルフのものもあったんです。狼系の魔物の毛皮は、高値がつくんですよ」


「へぇ、そうだったんですか……」


 ジルさんの説明によると、茶色の毛皮の狼が魔物化していない普通の狼で、それ以外は魔物なのだそうだ。

 そういえば、茶色以外の狼って、体が大きなものばかりだったと思う。

 ユリウスが普通に狩って来ていたから、この世界の狼って、いろんな色をしているんだなぁぐらいにしか思っていなかったよ。

 あと、毛皮に傷が少なかったのも、高く買い取りをしてもらえた理由の一つだったらしい。

 狼の毛皮は良く出回っているのだけど、狩る時に剣や槍、魔法で傷がつく事が多いから、その分査定が低くなる傾向にあるらしい。

 だけど、最近のユリウスは武器を使わずに肉弾戦で倒すから、毛皮にあまり傷がついていなかったのだ。

 さらに、魔物化していた狼からは、魔石だけでなく、魔結晶も取れたらしく、査定金額が跳ね上がったのだそうだ。

 高ランクの狼を狩って来ていたユリウスって、やっぱりすごいなぁ。


「オリエちゃん、お金持ちだね。こんなにキラキラがいっぱいだよ。眩しいね」


 私の膝の上からローテーブルへと移動したサーチートが、カウンターに並べられた金貨を見て、うっとりとした表情で言った。


「本当だね。私も眩しいし、びっくりしちゃったよ」


 だけど、これだけあったら、ユリウスに良い装備を買ってあげられるんじゃないかなと思う。

 でも、武器や防具の相場って知らないし、もしかすると足りない可能性もあるよねぇ。


「あの、私、自分でポーションを作ったりするんですけど、そういうのも買い取りしてもらえるんでしょうか?」


「あぁ、大丈夫だ。ただし、鑑定してその出来での査定になる」


 ゴムレスさんが、チラリとジルさんへと視線を向けた。

 ジルさんは鑑定の魔法が使えるらしく、持ち込まれた素材やポーションは、ジルさんが鑑定しているのだそうだ。


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします!」


 ポーションを入れた小瓶をとりあえず十本ローテーブルに並べると、ジルさんはその内の一本を手に取り、「鑑定」と小さく唱えた。

 ジルさんの青い瞳が色を変え、金色へと変わる。

 鑑定魔法を使うと、瞳の色が金色に変わるみたいだ。


「え? ギルドマスター、このポーション、上級です!」


「何だと!」


 ジルさんの言葉を聞いて、驚くゴムレスさん。

 え? どういう事だ? と私は首を傾げた。

 上級ポーションは、シルヴィーク村に置いてきたはずなんだけどなぁ。


「本当ですよ。しかも、特級寄りの、かなり良くできたものですよ! オリエさん、すごいです!」


 鑑定中の、金色に輝くキラキラした瞳で、ジルさんが私を興奮気味に見つめた。

 特級寄りの上級ポーションだなんて、本当なのかな?


「本当みたいだよ。上級ポーション(+)になってる」


「え?」


 隣に座っているユリウスを見ると、彼の金色の瞳が、いつもよりも輝いていた。

 これって、ジルさんが使っていた、鑑定魔法だよね。

 ユリウスも使えるの? というか、私だって使えるのでは?

 だって私のステータス、全ての魔法が使えるって書いてあるわけだし。


「鑑定」


 小さく唱えて持ち込んだポーションを見てみると、ユリウスの言う通り、上級ポーション(+)と表示されていた。

 どうやら本当に上級ポーションらしく、(+)というのが、特級寄りという事らしい。

 じゃあ、私がシルヴィーク村に置いてきたポーションって、特級って事になるのかな。

 戻ったら確かめてみよう。


「あの、これ、買い取りしてもらえます?」


「あぁ、ぜひ買い取らせてもらおう。ここは商都だから、もちろんいろんな店でポーションを置いているが、ギルドでも販売しているんだ。質の良い物なら、大歓迎だぜ」


 ゴムレスさんはそう言って笑うと、この上級ポーション(+)を、一本金貨九枚、九千ルドでどうだと言った。

 だいたいポーションの相場は、下級ポーションが三百ルド、中級ポーションが千ルド、そして上級ポーションが一万ルドなのだそうだ。

 ギルドでこの値段で販売するために、少し安めで仕入れをしたいという事らしい。

 私はそれで構わないと頷いた。


「お嬢ちゃんは、薬師なのかい?」


 違います、と私は首を横に振った。

 ポーション作りは、やり始めたら楽しかったので、薬草を集めてはコツコツと作り貯めていたけれど、趣味程度のものだ。


「あのね、おじさん! オリエちゃんはね、んぐぐっ」


 多分聖女とでも言おうとしたのだろう、サーチートは腕を伸ばしたユリウスに捕まえられて、口を塞がれた。


「趣味でこれだけのものが作れるのなら、立派なもんだ。また作ったら持って来てくれ。できれば、下級か中級のものを多めに作ってもらいたい。あと、できるのなら解毒ポーションもあるとありがたいな」


 上級ポーションの相場は一万ルド……高くて普通の冒険者では手が出しづらいらしい。

 だから、下級と中級のポーションを多めに揃えておきたいのだとゴムレスさんは言った。

 薬草も、解毒ポーションの材料になる薬草も、シルヴィーク村を囲う森の中にたくさん生えている。

 ポーション作りは好きだから、たくさん作って持ち込みさせてもらう事にしよう。


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