第96話・サーチートの従魔登録



「え? ぼく、今日はオリエちゃんと一緒に居られるの? 本当に?」


「うん、本当だよ」


「わぁ~い、嬉しいな~! オリエちゃんと一緒に居られるんだー!」


 翌朝、目覚めたサーチートに、シルヴィーク村に戻るまでは、私たちと一緒に行動してくれるかと聞いたところ、サーチートは小さな黒い目をキラキラと輝かせて頷き、喜んだ。


「今日はオリエちゃんと一緒にお出かけ、嬉しいなー。ねぇねぇ、お買い物行くんでしょ? ぼく、アルバトス先生に、お土産買いたいんだー」


 お酒好き同士だから、ジャンくんたちと一緒に居るのが楽しくて好きなのかなと思っていたんだけど、もしかするとサーチートなりに私とユリウスに気を遣ってくれていたのかもしれない。

 そう思ったらちょっと切なくなっちゃって、私はぎゅっとサーチートのふかふかの体を抱きしめた。


「そうだね、お土産買おうね。他のお買い物もしようね。でもその前に、冒険者ギルドにお金を受け取りに行かなくちゃね」


「うん、どこにでもついていくよ。オリエちゃんとユリウスくんと一緒にお買い物、嬉しいなぁ。お土産、何にしようかなー」


 無邪気に喜ぶサーチートが、とても愛しかった。

 同じような気持ちになったのか、それとも昨夜サーチート相手に妬いてしまった罪悪感か、ユリウスは私が抱いていたサーチートを片手で掴むと、自分の肩に乗せた。

 私の胸のあたりからユリウスの肩へ移動したサーチートは、見える景色が高くなって、すごいすごいと小さな手をパチパチ叩いて喜んだ。

 そして、そんなサーチートが可愛くて、私とユリウスは顔を見合わせて笑い合った。


「こーんにーちはー!」


 冒険者ギルドに入るなり、サーチートが元気に挨拶をしたものだから、冒険者ギルドに居た人たちが、一斉に私たちへと視線を向けた。

 今日は、ユリウスだけでなく、サーチートも目立っちゃってる。


「おう、お前たちか」


 カウンターの奥でジルさんと話をしていたゴムレスさんは、私たちを手招きして呼ぶと、お金の用意ができている事を教えてくれた。

 だけど、「その前に」と言うと、ユリウスの肩にちょこんと乗っているサーチートを指さし、首を傾げる。


「そのちっこいのは、一体なんだ?」


 サーチートの事……結構いろいろと聞かれるけど、なんて説明するか、いつも悩むんだよねぇ。

 ユリウスの肩からカウンターへと降ろしてもらったサーチートは、ゴムレスさんと同じように首を傾げると、


「ねぇねぇ、ちっこいのっていうのは、もしかしてぼくの事なの?」


 と、ゴムレスさんに聞いた。

 そしてゴムレスさんが頷くと、サーチートはいつもの自己紹介ソングを歌いながら、カウンターの上でじたばたと踊る。


「ぼくの名前は、サーチート。オリエちゃ~んの、スマホだよっ」


「スマホ? なんだ、それは」


 ゴムレスさんたちは余計に混乱したようだ。

 そりゃ、スマホなんて言われても、わかんないよね。

 さぁて、なんて説明するかねぇ。


「えっと、元はぬいぐるみなんですけど、今は生きていて、話す事もできて、普通のハリネズミみたいになる事もあるんです。使い魔っていうか、なんていうか、うーん……」


「要するに、従魔っぽいものって事か?」


「あ、そんな感じかもしれないですね。魔物じゃないけど、とりあえずこの子は、私の相棒なんです」


 私がそう答えると、ゴムレスさんは少し考えて、従魔登録はしているのかと言った。

 従魔登録は……していないなぁ。

 サーチートは魔物じゃないから、その考えには思い至らなかったのだ。

 それに、多分戦いになったら弱いしね。

 ちょっと強い風が吹いただけで、サーチートはコロコロと転がっていくくらいなんだから。


「登録していないのなら、とりあえず従魔として登録しておけ」


「従魔登録って、魔物じゃなくてもできるんですか? それにこの子、あんまり強くないですよ?」


 一応サーチートに気を遣って、あんまり強くない事にしておいた。

 サーチートは、そんな事ないよ、ぼくは強いんだぞ、とドヤ顔してるけどね。


「別に構わない。登録しておけば、こいつがお嬢ちゃんのものだって証明にもなるだろう」


「私のものだっていう証明?」


「あぁ。これだけ変わった奴なら、奪って売り払おうとする奴だって居るかもしれない。だから、お嬢ちゃんのものだっていう証明替わりにも、従魔登録をしておくといい」


 なるほど。そういう手があるのか。

 万が一サーチートがさらわれちゃったとしても、召喚できるとは思うけど、サーチートが私のものっていう証明ができるなら、従魔登録をしていた方がいいよね。

 お願いします、と言うと、ゴムレスさんの隣に居たジルさんが、にっこり笑って頷いた。


「はい、これがあなたの登録証よ」


 私のギルドカードに何かの操作をした後、ジルさんは五円玉みたいな色をした穴の空いたコインを、サーチートに渡す。


「このコインに、あなたがオリエさんの従魔だっていう証明が特殊な魔法で書かれているの。このコインを失くさないようにしてね。できるだけいつも身に着けていてもらいたいんだけど、どうする? この穴に鎖を通して、首にかけられるようにしてあげましょうか? それとも、どこかしまえるところはある? もしくは……少し痛いかもしれないけれど、体に埋め込む?」


 このコインは従魔である証明であると同時に、従魔が肌身離さず持っている事で、魔物使い……テイマーは、従魔と離れた時でも、従魔の位置を把握する事ができるらしい。

 サーチートは少し考え込んでいたけど、ジルさんにお願いして、穴に鎖を通してもらっていた。

 ペンダントのようにコインを首にかける事にしたらしい。


「従魔登録……ぼくがオリエちゃんのものだという証明……。

すごく、いいね。ぼくはオリエちゃんのものだけど、他の人から見ても、オリエちゃんのものだってわかるのは、いい事だよね!」


 コインを首にかけて、サーチートは少し照れたように私を見上げた。

 サーチートの胸元を飾る、キラキラしたコイン。

 材質は黄銅らしいけど、サーチートの白い胸に良く映える。


「いいね、そのコイン、すごくカッコいいよ。良く似合ってるよ」


 褒めてあげると、サーチートは、嬉しそうに笑った後、


「ぼくの名前は、サーチート。オリエちゃ~んの、スマホで従魔だよっ」


 と、また自己紹介ソングを歌い、踊り出して、私たちはホンのひと時、可愛いサーチートを見て、ほっこりしたのだった。


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