第95話・酔っぱらいのその後


「あれ? 私、どうしたの?」


「オリエ、起きた? 気分はどう? 水、飲む?」


「え? う、うん……」


 気づいたら知らない場所で、私はユリウスの腕を枕にして眠っていたようだ。

 ユリウスは体を起こすと、二つのベッドの間に置いてあるサイドテーブルから水の入ったコップを取り、私を抱き起して渡してくれた。

 ぬるめの水を少しずつ飲みながら、私は自分の記憶を探る。

 私は一体どうしたのだろう?


「ユリウス、ここ、どこ?」


「ここは、ジャンたちが取ってくれた宿だよ」


「私、どうしちゃったの?」


「美味しい料理に美味しい酒、オリエは酔っぱらって寝ちゃったんだ。君は、本当に酒に弱いよね。そこがまた可愛いんだけど」


 うひゃあ、寝ちゃったかぁ。私、本当にお酒に弱いんだよね。

 飲むとすぐに赤くなるし、眠くなっちゃう。

 何か粗相をしなかっただろうかと、おそるおそる聞いてみると、どうやら粗相はしていなかったようで、安心した。


「ごめんね、迷惑かけちゃって……」


「いや、酔っぱらって眠った寝顔は可愛かったし、オリエは酒を飲む時は俺がそばに居る時だけにしてくれているから、それは別に構わないんだけど……」


「どうかした?」


「ただ、今日は二人きりじゃないなぁって……」


「え? どういう事?」


「もう一つのベッド、見て」


 ユリウスに言われた通り、隣のベッドに目を向けると、そこには小さな体で大きなベッドを独り占めにしたサーチートが、ぽこんとしたお腹を上にして、ぷしゅぷしゅと可愛くて面白い寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠っていた。


「サーチート?」


「うん」


 サーチートはシルヴィーク村を出てから、ジャンくんとモネちゃんと一緒に居る事が多かったけど、今日はどうしてこっちに居るんだろう?


「サーチートさ、オリエが寝ちゃった後も、思いきり飲み食いして、満足して寝ちゃったんだよね。そして、今日はジャンとモネに、よろしくお願いしますって言われて、預かった」


「サーチートを?」


「そう。ビジードでの買い物が終わったら、シルヴィーク村に戻る事になるだろ? だから、少しは二人だけにしてくださいって言われてさ」


 それで、ユリウスは食事の後、私とサーチートを連れて宿に戻って来たのだそうだ。

 ジャンくんとモネちゃんは恋人同士だけど、私とユリウスみたいに結婚しているわけじゃないし、シルヴィーク村に戻ったら、帰る家は別々だ。

 村は結界で守られてはいるけれど、閉鎖的な空間でもある。

 だから彼らは今回の買い出しで、恋人同士の甘い時間を過ごそうと思っていたのかもしれない。

 それなのに二人はずっとサーチートの面倒を見てくれていたから、なかなか二人きりになれなかったって事か。


「なんか二人には悪い事をしちゃったなぁ」


「まぁ、そんなに気にするほどの事でもないと思うけどね。サーチートを交えて、楽しんでもいたわけだし。とりあえず、明後日にはビジードを出ようという話をしておいたから、帰るまではジャンとモネを、できるだけ二人きりにさせてやろう。それから、明日はギルドで代金を受け取ったら、俺たちも買い物に行こう」


「うん、わかった」


 私は気持ちよく眠っているサーチートを眺めながら頷いた。

 サーチート、本当に気持ち良さそうに眠っているんだよね。

 やっぱりものすごく可愛いなぁ。

 でもこの子、どれだけ飲んで食べたんだろう?

 スモル村でもたくさん飲んで食べて、その後爆睡してたんだっけ?

 ほどほどにしなきゃいけないよって、注意しておかないといけないかも。

 まぁ、先に酔っぱらって寝ちゃった私が言える事じゃないかもしれないけどね。


「オリエ、サーチートばっかり見たら、妬ける」


 ヤキモチ妬きのユリウスは、サーチートにまでヤキモチを妬く。

 ユリウスって、ものすごくカッコいい人だし、大好きなんだけど、ものすごくヤキモチ妬きなので、ちょっと残念な人になっちゃってる。

 まぁそういうところも人間くさくて、大好きなんだけどね。

 ユリウスは私からコップを取り上げるとサイドテーブルに置き、私を抱えてまたベッドに横になった。

 それから、


「シルヴィーク村に帰ったら、サーチートはまた伯父上にべったりだろうから、それまでの我慢だ……」


 と少し拗ねたように言って、目を細めて笑う。

 私はそんな彼が可愛くて、愛しくて、そうだねって頷きながら逞しい体を強く抱きしめた。


「明後日帰るって言ったら、ジャンくんたち、素直に頷いた?」


 今日はサーチートが隣のベッドで寝ているから、えっちな事はしないらしい。

 その代わり、私とユリウスはサーチートを起こさないように、ベッドの中で二人くっついて、小声で話をしていた。


 ジャンくんとモネちゃんはもう少し商都ビジードに居たかったらしいけど、ユリウスは明後日には帰ると言い切ったらしい。

 そしてユリウスは、もしも二人がまだここに居たいというのなら、数日後に迎えに来てもいいという話もしたそうなのだけれど、ジャンくんとモネちゃんは、私たちと一緒にシルヴィーク村に戻るという決断をしたらしかった。


「本来の目的は、村のための買い出しだったからね。ジャンとモネも、それはちゃんとわかっているんだ。まぁ、今回は二人にもいろいろと迷惑をかけたから、今後も馬車替わりにはなろうとは思っているよ」


 そんな事を言ったユリウスに、私は吹き出してしまった。

 馬車替わりっていうのは、つまりテレポートでいろんな所に送っていくっていう意味なんだろうけど、それじゃあユリウスがテレポートの呪文が使えるって事が、ジャンくんとモネちゃんにばれちゃうと思うんだけど……まぁいいか、黙っておこう。


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