第94話・美味しいお酒と美味しいご飯、そしてお約束
冒険者ギルドを出た私たちは、サーチートに連絡し、サーチート、ジャンくん、モネちゃんと合流してごはんを食べに行く事にした。
ジャンくんたちは先に今夜の宿を取っていてくれて、宿に荷物を置いて身軽になっていた。
「宿の人で美味い店を聞いたら、ここを教えてもらいました。俺とモネの行きつけの店に案内できないのが残念ですが、結構いけるらしいです」
ジャンくんとモネちゃんは、何度もこの商都ビジードに来た事があるらしい。
だから二人には行きつけのお店ってのがあるらしいんだけど、彼らの行きつけのお店だと、話しかけらる可能性があるから、ゆっくりできないかもしれないという事で、新しいお店を探してくれたのだそうだ。
だけど……結論から言うと、私たちは向かったお店でゆっくりする事はできなかった。
お店に居たお客さんも従業員の人たちも、みんなユリウスに注目していたからだ。
「なんか、すまないな。俺がこんな姿なばっかりに……食事もゆっくりできない」
ユリウスはそう言うと、お酒の入ったジョッキを一気に煽り、深いため息をついた。
ユリウスは基本的にお酒を飲まない人だから珍しいなぁと思っていると、これだけ注目されるとさすがにストレスが溜まったらしく、自棄になって開き直ったらしい。
「もう、どうせここじゃゆっくり話もできない。それなら、思いきり酒と食事を楽しもう」
「うん!」
「代金の事は気にしなくていい。オリエも、サーチートも、ジャンも、モネも、好きなだけ飲んで食べてくれ」
「はい、ありがとうございます!」
ジャンくんとモネちゃんは、さっそくお酒のお替りを頼んでいた。
今、みんなで飲んでいるのはエールっていうお酒で、こっちの世界でのビール的なものみたいなんだけど、ビールみたいに苦くなくて、甘くて飲みやすい。
「ジャン、俺のも頼んでくれ」
「ジャンくん、ぼくもー!」
「はーい、お姉さん、エール二つお替りねー!」
みんな、ペース早いなぁ。
確かにこのエールっていうお酒、美味しいし飲みやすいし、ぐいぐいいけちゃうよね。
でも、私はごはんの方も気になった。
「串焼き、美味しい~。こっちのウルフシチューも、すっごいお肉柔らかくなってる!」
ツノウサギの串焼き、塩もタレもどっちも美味しい。
実はツノウサギはメジャーな魔物らしいんだけど、うちではあんまり食卓に上らないんだよね。
理由は、ユリウス曰く、ツノウサギの方でユリウスを危険人物と認定しているらしく、近づいて来ないからだとか。
わざわざ追いかけて獲ってきてもうらうほどじゃないって思ってたんだけど、美味しいからこれからは自分で狩りに行こうかな。
逆に狼の方は、ユリウスを見かけると襲ってくるらしいので、たくさん狩って来る。
だから、ウルフシチューは私もよく作るんだけど、狼のお肉って、こんなに柔らかくならないんだよね。
やっぱり私が作るのは、煮込み時間が足りないって事なのかな。それとも下処理かな?
また試行錯誤しながら、いろいろと試してみよう。
レッドブルとオークのステーキも美味しかった。
実は、どちらもまだお目にかかった事がないから想像でしかないんだけど、レッドブルっていうのは牛で、オークはファンタジー系で有名な豚だから、牛と豚とステーキって事なんだろうね。
「どれも美味しい!」
どの料理も美味しくて、お酒も飲みやすいから、もりもり食べちゃった!
ちょっと食べ過ぎちゃったかなぁ……元の私みたいに太らないように、気を付けないといけないね。
ふと視線を感じて隣を見ると、ユリウスが優しく金色の瞳を細めて私を見つめていた。
「オリエが幸せそうにごはんを食べてるの、俺、すごく好きなんだよね」
「え?」
優しいのにどこか熱をはらんだ目で見つめられ、顔が熱くなった。
お酒もだいぶ飲んじゃったし、多分、今の私の顔は、真っ赤になってるんだろうな。
「本当、俺のオリエは可愛いなぁ」
「んっ……」
ユリウスの手が私へと伸びて、親指が私の口元を拭った。
料理が美味しくてもりもり食べちゃったから、口元にソースがついていたみたいなんだけど、ユリウスったらソースを拭ってくれた後、それをぺろって舐めちゃって……。
「ぎゃあっ」
という色気のない叫び声を上げた私と、
「きゃーっ!」
という黄色い悲鳴。
なんだなんだと周りを見ると、このお店に居る人たちみんなが、私とユリウスを見つめていた。
「ちょ、ちょっとっ」
「ほら、オリエは俺のもの、俺はオリエのもの、って、見せつけておかないとダメだろ?」
恥ずかしげもなくそう言ったユリウスは悪戯っぽく笑うと、私に顔を近づけた。
ちゅ、と頬に当たる唇。
こんな大勢の前で何するのこの人、と思った私は反論をしようと思ったんだけど、口当たりが良くてたくさん飲んだお酒のせいで、頭の中で星がくるくると回って意識を失ってしまった。
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