第93話・いろいろ買い取りしてもらった


「ところでユリウスって言ったな、お前、こいつを何人で倒したんだ?」


「何人って……」


 私とユリウスは顔を見合わせた。

 街道で襲われている馬車を助けた時には、私やジャンくんたちも手伝ったけれど、この巨大熊に関しては、倒したのはユリウス一人だ。


「もしかすると、一人か? だとしたら、お前、すげぇ倒し方しているな」


 ギルドマスターは巨大熊の遺骸を見て苦笑する。

 片腕を失くし、腹を焼かれ、首を飛ばされて絶命した巨大熊。

 ユリウスは今までにもいろんな獣を狩ってきたけれど、この倒し方は結構すごい。

 まぁ、それだけこの巨大熊が、黒の魔結晶の影響を受けて、強くなっていたんだろうけど。


「で、この熊はどうする? うちで解体と買い取りをしてもらっていいか? でかい熊だから、でかい皮が採れそうだ。魔物化していたから、魔結晶はなくとも、魔石はあるだろう」


「あぁ、それでいい。解体と買い取りを頼む。それから、他にもいくつか買取を頼みたいんだが、大丈夫か?」


「おう、いいぞ。珍しいものか?」


「いや、そうでもない。素材だけのもある」


 わかった、ゴムレスさんが頷くのを確認すると、ユリウスはマジックバックからいろいろ解体前の魔物や獣、解体後の素材を取り出して解体台へと積み上げていった。

 私も一緒に出していいかと確認して、自分のマジックバックから、貯め込んだ素材や魔石を出していく。

 解体台の上にできた魔物や獣、そして素材の山を見て、ゴムレスさんもジルさんも、ヴォークさんも呆れたように私たちを見つめた。


「お前たち、よくこれだけ貯め込んでいたな」


 まぁ、この二か月、狩った獲物のお肉は食べちゃったけど、素材はハロン商会が買い取り限界になっちゃったせいで、売る所がなかったから、貯まる一方だったしね。


「全部買い取りで頼みたい。できない物は処分でも構わない」


「いや、きっちり買い取りさせてもらう。まぁ、獲物のランクとしては魔物化しているものが少ないから低めだが、素材に傷が少ない、状態の良い物が多い。魔石も小粒だが数が結構な数だ。全て買い取らせてもらうよ」


 ただ数が多いから査定に時間がかかりそうで、少なくとも明日まで待ってほしいのだという。

 だから私たちは、また明日この冒険者ギルドに来る事にした。

 ここでお金を受け取ってから買い物に行けばいいよね。

 高値がつくといいなぁ。


「黒魔結晶持ち込みの報酬だけは、先に払っておこう。やっとギルドで報酬が決まったんだ。金貨百枚、十万ルドだ」


 十万ルド……という事は、日本円で百万円くらいか。

 かなりの高額だけど、それだけ黒魔結晶はそれだけ危険な物だものね。

 被害も出るだろうし、それくらいの報酬が必要なのかもしれない。

 だけど、持ち込まれた黒魔結晶の消滅のためには、高レベルの神官が作る聖水が必要なんだよね。

 その聖水ってものすごく高そうなんだけど、それで冒険者ギルドの経営はやっていけるのだろうか。

 疑問に思った私がそれを尋ねると、ゴムレスさんは大丈夫だと頷いた。


「各国からの援助もあるからな。今回の黒魔結晶の件は、脅威度はSクラスとなった。当然、冒険者ギルドだけじゃなく、各国の兵も動く。だから安心して、黒魔結晶を持ち込んでくれればいい。それに、もしもの事態に備え、国が各村の防衛にも力を入れる事になったんだ。王都やビジードのような巨大な煉瓦の壁は築けなくても、木の柵よりは、丸太の壁の方が安心だろう」


 うん、確かにそうだよね。

 今回の魔物たちはスモル村までは行かなかったから良かったものの、腰くらいまでしかない柵で囲われただけの村じゃ、魔物たちが押し寄せたら一瞬で壊滅してしまうだろう。


「いい事だと思う。だが、それは、オブルリヒトもか?」


「オブルリヒトは――まぁ、いろいろと忙しいようだが、ルリアルーク王だと名乗りをあげるくらいだ、少しは動いてくれるだろうぜ。他国との兼ね合いもあるだろうからな」


 ゴムレスさんもジルさんもヴォークさんも、苦笑している。

 どうやらジュニアスに対し、思うところがあるようだ。

 もしかすると、ジュニアスの事を良く思っていないのかもしれない。

 まぁ、考えてみれば、ギルド側からすると、冒険者たちはみんなジュニアスが居る王都オブリ―ルへと向かっちゃったって言うから、迷惑な話かもしれないよね。

 そして、ジュニアスがルリアルーク王だと名乗るのなら、人々のために何かをしてほしいという気持ちがあるんだろう。

 ユリウスは、こういう重責が嫌だったのかもしれないね。

 私たちは素材を冒険者ギルドに預けた証明書のカードを貰うと、商都ビジードの冒険者ギルドを後にした。


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