第84話・スモル村の救世主
スモル村に戻った私たちは、村長さんの家に向かい、巨大熊を倒した事を報告した。
本来なら倒した証拠としてマジックバックに入れてある死体を見せるべきだったのかもしれないけれど、今回の一件には森の動物を無理矢理魔物化させた何者かの存在がある事、巨大熊の額に突き刺さっていた黒い魔結晶が良くないものだという事、黒い魔結晶を含め巨大熊の素材は商都ビジードのギルドに渡そうと思っている事を説明し、サーチートが撮影した巨大熊の首の写真を見せ、村長さんに納得してもらった。
「まさか、本当に倒してくださるとは! しかも、それだけの後始末までしてくださるなんて、本当にありがとうございます!」
村長さんは涙目になりながらユリウスの手を握りしめ、何度もお礼を言った。
「あなたはこのスモル村の救世主です……本当に、本当にありがとうございます!」
「そんな、大した事では……」
「いえ、大した事ですよ! あなたがこの村を訪れてくれなかったら、一体どうなっていたか……。私たちは、今まで何人もの冒険者に断られ、ギルドにも見捨てられかけていたのですから」
村長さんはそう言うと、今夜は村全体でお礼をしたい、今日は宴会だと言い出した。
昨日もたくさんご馳走をいただいたけれど、せっかくそう言ってくれているのだからと、私たちはありがたくお言葉に甘える事にした。
「ユリウス?」
着替えのために宿屋の部屋に戻ってくると、ユリウスはふらふらとベッドに近づいたかと思うと、そのままばたりとベッドに倒れ込んだ。
今日は巨大熊と戦ったりして、実際にものすごく疲れてはいるとは思うけど、珍しいなぁと思う。
「ユリウス、もしかして、体の調子、悪い?」
「……いや、大丈夫、だ。ただ……」
「ん?」
「精神的に、ちょっと疲れた、かも……」
ユリウスはそう言うと、はぁ、と深いため息をついた。
精神的に疲れたっていうのは、やっぱり村の人たちの反応についてかな、と思う。
村長さんの家を出ると、ユリウスがゴヤの森の巨大熊を倒した事がすでに広がっていて、彼はいろんな人から、スモル村の救世主だとか、まるでルリアルーク王のようだと言われながら宿屋まで戻って来たのだ。
そして、最後が宿屋で待っていた子供たちだ。
テッドくんとコリーちゃんを含め、子供たちは全員大興奮で、キラキラした目でユリウスを見つめ、ルリアルーク王のようだと言い合ったのだ。
もちろん、みんな好意的に言ってくれているのだけれど、ユリウスは自分がルリアルーク王である事を嫌だと思っているから、そう言われるとしんどくなっちゃうんだろうね。
これからの宴会も、苦痛なのかもしれないな。
でも断りづらいし……頑張ってもらうしかないかなぁ。
ユリウスもそれを自覚しているのだろう、彼は起き上がると、服を脱ぎ始めた。
ぽんとベッドに脱ぎ捨てられたジャケットは、色は黒だから汚れはごまかせるかもしれないけれど、一撃を受けた肩のあたりが裂けてボロボロになっていた。
中に着ていたシャツも血だらけになっているし、洗っても落ちない可能性が高そうだ。
もう両方捨てちゃった方が良いかもしれない。
「ユリウス、まだ着替えってある?」
「あぁ、あと一枚くらいはなんとか」
ユリウスはマジックバックの中から、着替えのシャツを取り出した。
普通の綿のシャツで、この世界での旅や戦闘には向いてなさそうなシャツだ。
商都ビジードに着いたら、ちゃんとした装備を揃えてあげないとなぁと思う。
「じゃあ、このジャケットとシャツは、もう処分しちゃうね」
「あぁ、いいよ」
頷いたユリウスは、着替えを手にしてバスルームに向かおうとして、足を止める。そして、
「ユリウス?」
どうしたのかと思い見上げた私の前で、彼はその場に崩れ落ちてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます