第82話・人間離れした力
「ユリウス! 血が!」
早く手当をしないと、ヒールをかけないと、と思い、彼に駆け寄ろうとする私を、ジャンくんとモネちゃんが二人がかりで抱え込むようにして止めようとする。
「ちょっと、邪魔しないで!」
なんとか振りほどこうとするけど、ジャンくんたちも必死なようで、放してくれなかった。
「オリエさん! ユリウス様は大丈夫です! なんてったって、今のあの人は人間離れしていますから!」
「そうですよ! オリエさん、ユリウス様を信じて! 今は少しここから離れましょう! ユリウス様の邪魔になります!」
「でも! ユリウス、すごいに怪我してるっ!」
ユリウスは、まだ肩に巨大熊の爪を食い込ませたまま、巨大熊の右腕に両手を添えていた。
巨大熊の攻撃を受け、裂けたジャケットの下に着ている白いシャツが真っ赤に染まっているのを見て、私は気を失いそうになる。
早く彼にヒールをかけてあげないと!
「あの一撃を受けて、あれで済んでるんだから、大丈夫って言ってるんですよ! 普通なら、あの一撃で間違いなく死にます! えぇい、失礼しますよっ! ユリウス様、後から八つ当たりしないでくださいよっ!」
「ちょっと! ぎゃあっ!」
最終手段に出たのだろう、ジャンくんは私を担ぎ上げ、走り出した。
私はじたばた暴れたが、ジャンくんは足を止めずに走り続け、サーチートを抱いたモネちゃんが追いかけて来る。
「オリエちゃん、落ち着いて! ジャンくんの言う通り、ユリウスくんはきっと大丈夫だよ! いつも狩りに行く時、強化魔法で体を強化しているでしょ! 今もきっと、それで防御しているよ!」
慰めてくれたつもりなんだろう、モネちゃんに抱っこされたサーチートが言った。
確かにその通りだとは思うけど、それでもユリウスはあんなひどい怪我をして、ピンチは今も続いているのだ。
ユリウスの左肩に右手の爪を食い込ませたまま、巨大熊は左腕を振り上げた。
右手でユリウスの体を固定して、逃がさないつもりだ。
「ユリウス!」
巨大熊の左腕が振り下ろされる。
いくら強化魔法で体を強化していたとしても、動けなければまともに攻撃を受けてしまうだろう。
だけど、巨大熊は最後まで左腕を振り下ろさなかった。
振り下ろす途中で絶叫し、ユリウスから離れたのだ。
「な、何?」
辺りに焦げ臭いにおいが漂っていて、巨大熊は右腕を庇うように左腕で押さえていた。
「痛いか? じゃあ、斬り落としてやるよ」
ユリウスは右手を前に出すと、ウインドアローと呪文を唱える。
風の矢が雨のように巨大熊を襲った。
巨大熊は左腕で防御をしたけど、風の矢が収まった時には、ユリウスは腰に下げていたロングソードを引き抜き、無防備になった巨大熊の右腕を斬りつけていた。
巨大熊が絶叫し、左腕を振り回して威嚇する。
だがユリウスは素早く巨大熊の抵抗を避け、再び巨大熊の右腕を狙って斬りつけた。
ガキンという音の後、ごとんと巨大熊の太い腕が落ちた。
密着して火属性の魔法を使ったのか、落ちた腕は、ひどく焼けただれている。
そしてガキンという音は、巨大熊の右腕を斬りつけた時に、ユリウスのロングソードが折れてしまった時の音だ。
「やっぱり、折れたか……」
ユリウスはそう言うと、片腕を失い、怒り狂って襲い掛かってきた巨大熊の開いた口に向かって、折れた剣のグリップを投げつけた。
ユリウスの投げた剣は巨大熊の口へと吸い込まれ、ちょうど鍔の部分が縦になって、口が閉じられなくなってしまう。
「苦しそうだな。だけど、お前はオリエを狙い、攻撃をした……絶対に許さないっ」
ユリウスはそう言うと、もう一本のロングソードを引き抜き、巨大熊へと斬りかかる。
もちろん巨大熊の方は暴れたけれど、ユリウスはまたその攻撃を避け、熊の腹部を狙い、何度も斬りつけた。
「あっ……」
十数回攻撃を加えたところで、ガキン、と音を立てて、ロングソードがまた折れてしまう。
だけどそれはユリウスにとって想定内の事だったようで、グリップ部分を投げ捨てると巨大熊の懐に潜り込み、斬りつけた腹部へと拳をめり込ませ、叫ぶ。
「ヒートニードル!」
「ウグアァァァ!」
腹部にユリウスの拳をめり込ませたまま、巨大熊が絶叫した。
逃げたいのだろう、巨大熊は体をよじったが、ユリウスは拳を巨大熊の腹部にめり込ませたまま、もう一度ヒートニードルと呪文を唱える。
その呪文がどんなものなのかというのは想像しかできないけど、その呪文を受けたものは、熱くて尖がったもので抉られるような痛みを受けるのではないだろうか。
考えただけでも、ぞっとする。
「痛いか? でも、絶対に許さない……。もう一発お見舞いしてやるよっ」
一発どころか、ユリウスはその後五発はヒートニードルを連発し、巨大熊が後ろに倒れかけたところで、腹部にめり込ませていた拳を引き抜き、巨大熊の首を蹴り飛ばした。
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