第80話・魔物化した動物たち



 ゴヤの森に入ると、数分も経たないうちに魔物たちに囲まれてしまった。

 シルヴィーク村周りの森との違いに、驚いてしまう。

 もちろん、シルヴィーク村周りの森に魔物が居ないわけじゃないけれど、魔物と普通の動物のどちらが多いかと言えば、普通の動物の方が多いのだ。

 ユリウスが言っていたように、私が張った結界がシルヴィーク村の周りの森に影響しているのかもしれない。

 と、いろいろと回想している場合ではなかった。

 今私たちは、先程倒した以上の数の魔物たちに囲まれているのだ。


「ど、どうしましょう、ユリウス様……。囲まれちゃいましたよ?」


「どうって、ついてくると言ったのはお前たちだろう。後悔しているのなら、隙を作ってやるから、モネを連れて逃げろ!」


「え! に、逃げませんよ! でも、どうしましょう!」


 混乱しているジャンくんは、混乱はしているけれど、逃げるつもりはないらしい。

 ユリウスは苦笑すると、襲いかかってきた魔物たちをウインドウォールで吹き飛ばす。


「ユリウス!」


 ユリウスの放ったウインドウォールで吹き飛ばされた魔物たちは、周りの木々に体をぶつけ、気を失ったようだった。

 だけど数が多いから、すぐに他の魔物たちが私たちを囲むんだけど、注目すべきは吹き飛ばされて気を失った魔物たちだった。

 魔物化していたはずなのに、気を失った途端、魔物化が解けたというか、普通の動物たちに戻ったのだ。

 これはもしかすると、魔物化した動物たちを元に戻してあげる方法があるっていう事じゃないの?


「ユリウス! 私、この子たち、助けてあげたい!」


 私がそう叫ぶと、ユリウスは頷いてくれたけれど、ぐるりと囲まれて、襲われている状況にため息をつく。


「でも、数が多くてキリがない。普通の冒険者は逃げるはずだ」


 そう言ったユリウスは、飛びかかって来る魔物をウインドウォールで吹き飛ばしたけれど、数の多さにイライラとしているようだった。

 確かに、吹き飛ばしても次から次へと現れて、襲いかかってくるんだもんね。

 キリがないし、その内こちらの体力が尽きてしまうか、もしくは、ユリウスのウインドウォールで、吹き飛ばして気絶させるだけじゃ間に合わなくなって、倒さなくてはならなくなるかもしれない。

 せめて、こちらを襲ってこないように、動きを止める事ができたら!


「オリエちゃん、敵の動きを止めたいのなら、スパイダーネットの呪文だよ!」


「え?」


 私たちの足元をチョロチョロと走り回っていたサーチートが言った。

 どうして私が考えている事がわかったのだろうと考えていると、サーチートは私を見上げ、ドヤ顔をした。

 これ、私の考えている事は何だってわかってるんだよ、っていう顔だ。


「オリエちゃん、魔物たちを蜘蛛の巣で捕まえるイメージだよ! それで、スパイダーネットって唱えるんだ! そうしたら捕まえられるよ! オリエちゃんならできるよ!」


「蜘蛛の巣? スパイダーネット? わかった、やってみる!」


 サーチートができると言うのだから、きっとそうなのだろう。

 蜘蛛の巣はあまり好きではないけれど、私は頭の中に蜘蛛の巣を思い浮かべ、魔物たちを捕まえる様子を頭の中に思い描いた。そして、


「スパイダーネット!」


 と私が唱えると、私を中心に円を描くように、蜘蛛の巣模様の光が現れて、魔物たちを絡めとっていく。

 それは、木の上や空中に居る魔物にも届き、地面に描かれた蜘蛛の巣模様の光へと縫い付けた。


「オリエちゃん!次は浄化の呪文だよ!聖なる光の力で、魔物化した動物たちを助けるんだ! 魔物化した動物を助けたいという気持ちで、ホーリーライトって唱えてみて!」


「わかった! ホーリーライト!」


 サーチートの言葉通りに、呪文を唱える。

 すると、スパイダーネットの蜘蛛の巣模様の光がさらに強く輝いて、後には魔物化が解かれた動物たちが気を失っていた。


「やった、成功した!」


「オリエさん、すごいわ!」


 ジャンくんとモネちゃんが、歓喜の声を上げた。

 私も成功したのを目の当たりにして喜んだんだけど、まだだ、とユリウスが叫ぶように言う。


「まだ、根本的な問題が解決したわけじゃない。奴が、居る」


「奴?」


「あぁ、多分、奴を倒さない限り、この森の動物たちは、また魔物化するだろう」


 そう言ったユリウスは、森の奥を指さした。

 そこには、ホーリーライトの浄化の光を放つ蜘蛛の巣模様の地面の影響を全く受けずに、こちらへと歩いてくる巨大な熊の姿があった。

 以前ユリウスが倒した熊もとても大きかったけれど、それよりも大きい……三メートル……いや、三・五メートルはあるような気がする。

 そしてこの熊にはさらに、額に黒い角のようなものが生えており、体が大きいだけの熊とは違っていた。


「まさか、ホーンベア?」


 角のある熊を見たジャンくんが言った。

 だけどすぐにサーチートが、違う、と叫ぶ。


「ホーンベアは魔物だけど、あの熊は他の動物たちと同じように、無理矢理魔物に変えられた熊だよ! ホーンベアの角は、ねじれた角で、最初から生えているんだ! だけどあの熊の角は、黒い魔結晶だ! 誰かがあの熊の額に魔結晶を突き刺して、操っているんだよ!」


「操ってる? 一体誰が?」


「わかんないよ! でもきっと、そいつは悪い奴なんだ!」


 正体の知れない悪い奴――確かにそうなのだろう。

 だとしたら、あの巨大な熊も、その被害を受けた動物って事だよね。

 あの熊も、助けてあげたい……そう思った私は、その気持ちのまま、ホーリーライトを唱えた。だけど――。


「グアァァァァ!」


 黒い魔結晶を額に刺された巨大な熊は、叫びと共に浄化の光を跳ねのけ、その時の衝撃で私は吹き飛ばされて、森の木に体をぶつけてしまった。



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