第79話・いざ、ゴヤの森へ
スモル村の人たちに見送られ、村を出て街道沿いに商都ビジードの方に進むと、魔物に襲われている馬車を見かけた。
馬車は、王都オブリールへと向かっている馬車なのかな、冒険者らしい人たちが護衛についているようだけど、通常森で見かける鹿や兎、リスに似た魔物たちの数が多く、苦戦しているようだ。
あの魔物たちは、元は普通の可愛い動物たちだったという事だろうか。
「ここは引き受ける、行け!」
ユリウスが叫ぶと、馬車を守っていた冒険者らしい男の人が頷き、馭者の人に合図を送る。
馬車の前方に居た鹿に似た魔物が、ユリウスが放ったウインドウォールで吹き飛ばされると、すかさず馬車が動き出す。
「すまないっ! 感謝する!」
「あぁ、行ってくれ! 気を付けて!」
動き出した馬車を、なおも追おうとする魔物たちがいたけれど、私たちはその前に立ちはだかった。
「オリエ、ここ、広いから、思いきりやっていいよ」
「え?」
「さっきの馬車はもう行ったし、もうここには俺たちと魔物たちしかいない上、近くには障害物がない道だ」
そう言ったユリウスが、ウインドアロー、と唱えて腕を振るうと、見えない風の矢が魔物たちへと降り注いだ。
あ、そうか、ここ広いから、攻撃魔法使い放題って事か!
「じゃあ、ファイヤーボール!」
呪文を唱え、魔物たちが居る方向へと手を向けると、私の五本の指先に灯った炎が、魔物たちの方へと飛んでいって、魔物たちは炎に包まれて倒れていった。
上手くいったので調子に乗り、その後二度ほどファイヤーボールを連発すると、馬車を襲っていた魔物たちは私とユリウスの二人でほぼ倒す事ができた。
「魔法、上手くなったね」
「そうかな。でも、嬉しい」
ユリウスに褒められて、嬉しかった。
ユリウスについていけるように、もっと上手くなりたい。
「お二人とも、魔法が使えて、便利ですね。いいなぁ」
槍で魔物を突こうとして、何度か空振りしていたジャンくんが、羨ましそうに言った。
モネちゃんの方は、キラキラと瞳を輝かせ、
「ユリウス様、オリエさん、魔石とか素材とか、もらっちゃってもいいですか?」
と私たちに聞いてきて……いいよと頷くと、散らばった素材や魔石を嬉しそうに集め出した。
「さて、モネ、もういいかい?」
「はい、オッケーです。全て回収しました!」
モネちゃん&ジャンくん、魔物との戦闘後の素材回収完了。
すっごい嬉しそうな笑顔で頷いてくれた。
素材回収は私も手伝ったけど、この素材や魔石を売ったらいくらになるんだろう。
元の世界でロールプレイングゲームをしていた時、敵と戦って手に入れたアイテムを売ってお金にするの、楽しかったなぁ。
そういえば、現実世界でも、頑張って貯金していたなぁ。
お一人様だったから、老後のために頑張っていたんだけど、あのお金はどうなったんだろうな。
使う前に死んじゃって、ものすごく残念だ。
そんな事をぼんやり考えていると、
「じゃあ、そろそろ森に入るか」
とユリウスが言った。
彼は、私、ジャンくん、モネちゃんを順番に見つめると、戻るなら今だ、と続ける。
多分、森に入る前に多くの魔物に遭遇したから気を遣ってくれたんだろうけど、私たち三人は首を横に振った。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
街道を外れて三十分くらい歩くと、ゴヤの森へとたどり着いた。
森が近づくにつれ感じていたのだけれど、ものすごく気持ち悪さを感じる森だった。
この気持ち悪さを絵で表すとしたら、緑の森がどんどんどす黒く変わっていっているような感じ……この森には、何か良くないモノが居る感じがする。
「ねぇ、ユリウス。さっきの魔物は、この森の動物たちが魔物化したものだと思う?」
私がそう聞くと、多分ね、とユリウスは頷いた。
「それって、何かがこの森の動物たちを魔物化させたって事なのかな」
「その可能性は、十分にあると思う。それが、この森の洞窟に居るという魔物化した狂暴な熊なのか、他の何かなのかって事までは、わからないけれど。でも、原因を解決しなければ、この森は魔物が増え続けるんじゃないかな。今は森の動物だけだけど、他にも影響が出始める可能性もないとは言い切れないし」
「他の影響……」
「動物の次は、森の木、とかね。実際、そういう魔物だって居るだろう」
「うわぁ……」
森の木々が全て魔物化した想像をして、私はため息をついた。
確かに、元の世界に居た時にやっていたロールプレイングゲームでも、そういうモンスターは居たものね。
その時はゲームだと思ってやっていたけれど、今そんなものが現れたら、この異世界ルリアルークで生きている人たちは、大変な事になってしまう。
「シルヴィーク村近辺の森に、特に異常がないのは、もしかすると、君が張った結界の影響かもしれない。結界外としても、君の聖女としての力が、働いているんじゃないかな。昔に比べて、魔物は少なくなっている気がするからね」
ユリウスはそう言うと、これから足を踏み入れるゴヤの森を睨みつけるように見つめた。
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