第78話・一人で行かせるわけない



 熊の魔物討伐の依頼を受けた私たちは、一度宿に戻って、装備を整える事にした。

 装備って言っても、私はハロン商会で買った、よく切れるナイフを腰のベルトに装備したくらいなんだけど。

 このナイフ、よく切れるから、獲物の解体やアウトドア時にとても役に立っている。

 だけど、実戦では使った事はないんだよなぁ。

 私の場合、杖とかロッド系を買った方がいいのだろうか。

 それとも、ショートソードとか、弓?

 商都ビジードに着いたら、いろいろと見てみようと思っていたら、サーチートが私の服をつんつんと引っ張った。


「なぁに、どうしたの?」


 と聞くと、サーチートは嬉しそうに笑い、言う。


「どんなところに行ったとしても、オリエちゃんはぼくが居たら、無敵だからね!」


 つまり、私の装備武器? は、サーチートという事か。

 そうだね、と言って小さな体を抱き締める。

 確かに、サーチートが居れば、私は無敵かもしれない。

 サーチートは私に、いろんな事を教えてくれるから。


「ユリウスは、今日は剣を持っていくんだね」


 ユリウスは、腰に二本のロングソードを下げ、ベルトに私と同じようにナイフを装備していた。

 これは、以前シルヴィーク村でユリウスがハロン商店で買ったものだった。


「さすがにいつもみたいに丸腰で向かったら、この村の人たちが心配するだろうからさ」


 どうやらスモル村の人たちのための、見せ武器というわけらしい。

 確かに、丸腰で魔物退治に出かけたら、村の人たちがびっくりしちゃうよね。


「ところでさ、オリエ……」


「何?」


「もしかして、なんだけど……ベルトにナイフを装備して、オリエも一緒に来るつもり?」


「え? そうだけど、どうして?」


「危ないかもしれないから、オリエはここに居てよ。どうやら、シルヴィーク村の周りの森とは違うみたいだし」


 何を言っているのだ、この人は、と私は思った。


「危ないって言うのなら、そんなところにユリウス一人を行かせるわけにはいかないよ。だから、私もついていく。ユリウスみたいに強くないかもしれないけれど、何かできる事があると思う。ほら、回復とか」


 だから絶対について行くと言ったら、渋々という感じではあったけれど、絶対に危ない事はしないで、と念を押した上で、ユリウスは頷いてくれた。

 でも、危ない事は、ユリウスだってしないでほしい。


「大丈夫だよ、ユリウスくん。ぼくが一緒のオリエちゃんは無敵なんだよ。なんてったって、オリエちゃんは大聖女なんだから」


「そう、かぁ……無敵かぁ……」


 サーチートは、私の事をまだ大聖女って思っているんだね。

 私、それから二つくらいランクアップしているみたいなんだけど……うん、多分、知らせなくてもいいよね。

 多分、ユリウスもその事に気付いたんだと思う。金色の瞳を細めて、サーチートを優しく見つめた。


「大丈夫だよ、ユリウスくん。アルバトス先生からいろいろ教えてもらったぼくに任せてよ!」


「あぁ、ありがとう」


 サーチートって、お調子者なんだけど、やっぱり健気なんだよね。






 宿の部屋を出ると、槍を持ったジャンくんと、弓を持ったモネちゃんが居た。

 私とユリウスが二人声を揃えて、


「もしかして、ついてくる気?」


 と聞くと、ジャンくんとモネちゃんは、もちろんだと頷いた。


「ユリウス様とオリエさんを、危ない目に遭わせるわけにはいかないでしょう! もちろん、俺もついていきますよ!」


「私もついていきます!」


「いや、危ない目に遭う可能性があるなら、逆にお前たちは来なくていいよ」


 ユリウスは深い息をつき、言った。私もそう思う。

 ジャンくんもモネちゃんも、私よりは戦闘慣れしているかもしれないけど、ね。


「危なくなったら、俺が盾になりますから、ユリウス様はオリエさんと一緒に逃げてくださいね!」


「いや、俺が盾になるから、お前がモネを連れて逃げろよ。というか、本当についてくるな。多分、大丈夫だから」


「嫌だ、ついていく!」


「あのなぁ……」


 ジャンくんは絶対についてくるつもりらしい。そしてそれは、モネちゃんもだ。


「ジャン、ユリウス様が心配でたまらないんですよ。いつもは人間離れしてるとか言ってるけど、場所が変われば出てくる動物や魔物も変わって来るからって」


「確かにそうかもしれないけど、ユリウスが危ないのなら、相当ヤバいって事だよ? その時、モネちゃんはちゃんと逃げてくれるの?」


「もちろんです! そんな事になったら、私がジャンを引きずって逃げますから!」


 モネちゃんはそう言うと、ぱちんと可愛くウインクをした。

 この子、しっかりしてるなぁ。いや、違うか、ちゃっかりかもしれない。


「ところでモネちゃん、ジャンくんが背負っているのって、あのリュックだよね?」


 ユリウスと言い争いを続けているジャンくんの背中には、体積が半分以下になったリュックサックがあった。

 モネちゃんはにんまりと笑うと、そうですよ、と言う。


「昨日、この村の雑貨屋さんと、旅の商人の方に素材を売ったので、荷物が減ったんです。だから、また詰め込む事ができるんですよ!」


「そ、そう……良かった、ね」


「はい!」


 二人がゴヤの森へとついてくると言った理由……ユリウスの事を心配してくれているのは本当の事だろうけど、新しい素材を回収するのが目的なのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る