第64話・導き手



「そう言えばオリエさん、あなた、やっぱり神聖女なんですか?」


 結婚式から一週間くらいして、アルバトスさんから聞かれた私は驚いた。

 今、ユリウスは結界の外に狩りに出ていて、サーチートは村のパトロール中で、私はアルバトスさんと二人きりだった。


「え、えっと、なんで、ですか?」


 どうしてわかったんだろう?

 ユリウスと相談をして、私たちのステータスに書かれている事は、どんなに親しい人にだって内緒にしようという事になった。

 私のステータスは、こちらの世界に来てすぐに、大聖女だった事はサーチートが漏らしてしまったけれど、その後の事は多分何も言っていないはずだ。

 だけど、話をしていないだけで、サーチートは私のステータスが変わった事を知っていて、アルバトスさんに言っている可能性もある。

 一体どういう事だろうと考えていると、アルバトスさんは苦笑し、


「驚かせてしまったみたいで、すみません」


 と謝ってきた。


「あなたがユリウスのそばに居てくれるのを見てね、そうなのかなって思ったんですよ。あなたは、あの子が持っている創世王の絵本の神聖女と同じ姿をしていますしね」


 私はユリウスから見せてもらった絵本を思い出した。

 確かにあの絵本には、褐色の肌、銀色の髪、金色の瞳をした創世王のそばに、白い肌、黒い髪、青い瞳をした神聖女が寄り添っていた。


「アルバトスさんって、ユリウスの事、どこまで知っているんですか?」


 私は思い切って、疑問に思っている事を聞いてみる事にした。

 ユリウスもサーチートも居ないから、ゆっくり話ができるチャンスだ。


「ユリウスの事ですか? それは、あの子のステータスの事、という意味でよろしいですか?」


「はい」


「結論から言うと、私はあの子が生まれる前から、あの子が何者なのかを知っていました」


「どういう事ですか?」


 ユリウスが生まれる前から、ユリウスが何者なのか知っていた?

 それってどう言う意味なんだろう?

 アルバトスさんは優しく笑うと、穏やかな表情と声で、続けた。


「答えは簡単です。私の双子の妹……つまり、ユリウスの母親ですね、彼女のステータスに、ルリアルーク王の母、と書かれていたのですよ。だから私は、妹があの子をその身に宿した時、生まれてくる子供がルリアルーク王だという事を、知っていたのです」


 バラバラになっていたパズルのピースが、繋がって形になっていくような気がした。

 母として、授かった自分の子供を守りたいという気持ちだけでなく、生まれてくる子がルリアルーク王でもあるから、ユリウスのお母さんはその命をかけてユリウスを産み、アルバトスさんは彼女に協力したんだ。


「私のステータスにも、同じような事が書かれていました。私のステータスには、ルリアルーク王の導き手と書かれていたんです。だから、私はユリウスが何者であるのかを、最初から知っていたんですよ」


 ちなみに、この事はユリウスには秘密にしています、と続け、アルバトスさんはウインクした。






「ステータスに書かれている事が全てであるとは限りません。その人の生き方によって、努力によって、ステータスは変化しますから。むしろ、私たちのステータスの方が、特殊なんだと思います」


 アルバトスさんはそう言うと、簡単な例で説明してくれた。


「例えば、ジャンくんのステータスには、シルヴィーク村の村長の息子、と書かれている可能性が高いです。このままいくと、彼のステータスは、シルヴィーク村の村長、になるでしょう。だけどジャンくんがシルヴィーク村の村長ではなく、冒険者を選んだ時は、冒険者……例えば戦士という職業に変わるでしょう」


 わかりやすい説明だと思った。

 確かに、ステータスに書かれている職業って、普通はそういうものだと思う。

 ジャンくんの戦士姿は、ちょっと想像つかなかったけれど。


「私のステータスにも、学者、と書かれているんですよ。その他に、ルリアルーク王の導き手と書かれているんです。こういうものが全ての人に書いてあるのかはわかりませんが……運命的なものを感じますよね」


「わかります! 私のステータスにも……あっ……」


 私のステータスにも、ルリアルーク王の妻、と書かれていると言いかけたけど、これは黙っておいたほうがいいだろう。

 途中で口を閉ざした私を、アルバトスさんは穏やかな眼差しで見つめた。


「ユリウスがルリアルーク王だという事に気付いている人は、おそらく居ないでしょう。いや、もしかするとオブルリヒト王は何かを感じていたかもしれませんが、ジュニアス王子がいいカモフラージュになってくれました」


「それ、どういう事ですか?」


「オブルリヒト王のステータスには、ルリアルーク王の父、と書かれていたらしいのです。他人のステータスを見る事ができないので、真偽のほどはわかりませんが、実際彼はルリアルーク王の父ですし……だけど、彼にはどの子がそうであるのかまでは、わからなかったでしょう」


 オブルリヒトの王様には、ユリウスとジュニアスの他、まだ二人居るらしかった。

 残りの二人は、一人は今のお妃様の子供で、もう一人は側室の子供らしい。

 あの王様、あんなにユリウスのお母さんの事を愛してたって言っていたくせに、結局奥さんは三人も居たのか。

 なんとなくがっかりしてしまったのは、男の人っていうのは、何人も奥さんを持ちたがるものなのかと思ってしまったからだ。

 ユリウスには……私一人だけにしておいてほしいなぁ。

 嫌われないように、飽きられないように、努力をしないといけないかなぁ。


「ユリウスは女の子として育てましたから、対象から除外されていたはずです。だから、オブルリヒト王は、ジュニアス王子がそうなのだと思っているでしょうね。ジュニアス王子も、そうだと言っていたらしいですし」


 ユリウスが、ジュニアスは自分がルリアルーク王だと言いふらしているって言ってたっけ。

 アルバトスさんの推理通り、オブルリヒトの王様は、きっとジュニアスがルリアルーク王なのだと思っていそうだ。

 この事、ユリウスは不快だろうけど、ジュニアスが役に立つ事もあるんだなぁって思った。



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