第62話・ステータス
「え? 何、これ……え? どういう事?」
混乱し、ジタバタしていると、眠っていたユリウスが目を覚ましてしまった。
「オリエ、どうした? 大きな声を出して……何かあった?」
「あ、ユリウス、おはよう。ごめんね、起こして……でもっ……」
私がちらりと開いたままのステータスの白い画面へと目を向けると、
「ステータスに、何かあった?」
とユリウスは言う。
距離的に、ステータスの画面を開いたままだと中身が見えそうなものだけれど、ステータスが本人にしか見えないというのは、本当のようだった。
簡単に見られちゃったらプライバシーの侵害だけど、今みたいにわからない事がある時は、ちょっと面倒かもしれない。
「ステータスって、本当に本人にしかわからないんだね」
「あぁ、そうだよ。だから、嘘をつかれてもわからない」
「嘘?」
「そう、嘘。どっかの馬鹿は、自分のステータスには、ルリアルークの王って書いてあるって自慢気に言ってたよ。それはお前の願望だろうっての」
「何それ、もしかして、ジュニアスの事?」
ユリウスは嫌そうな表情で、こくりと頷いた。
ユリウスって、本当にジュニアスの事が嫌いだよね。
そういや、あのジュンって人も、自分のステータスについて嘘をついていそうな気がする。
ジュンが聖女って、絶対にあり得ないと思うんだよね。
「ジュニアスがルリアルークの王って言うのは、嫌だなぁ」
「大丈夫、あいつじゃないのは確かだから。あいつは自分でそう言いふらしてるだけだよ」
「良かった……。ジュニアスがルリアルーク王って、本当に嫌だよ」
私は新しくなった自分のステータスを見て、ため息をついた。
名前:糸井織絵
年齢:二十歳
職業:神聖女 ルリアルーク王の妻
魔力:∞
魔法:全て使える
能力的には、何も変わらない。
でも、何なんだろうね、この「神聖女」っていう職業は。
そして、新しく増えた、「ルリアルーク王の妻」ってのも、一体何なんだ。
ルリアルーク王の妻っていう事は、私の旦那様がルリアルーク王って事になるんだよね?
だとしたら……ユリウスこそが真のルリアルーク王って事?
「あのね、ユリウス……私のステータスに、新しい事が書かれててね……」
「何?」
「ルリアルーク王の妻って書かれてるんだけど……」
「え?」
ユリウスはよほど驚いたらしく、跳び起きた。
それから私の顔をじっと見つめ、ステータス、と唱え、自分のステータスを確認している。
試しにこっそりとユリウスのステータスを覗いてみたけれど、白い画面しか見えず、そこに書かれているはずの文字を見る事はできなかった。
このルリアルークでは、個人のプライバシーはしっかりと守られているらしい。
「オリエ……君は、神聖女なの?」
「え?」
「俺のステータスには、神聖女の夫って書いてある」
「え? じゃあ、やっぱりユリウスって……」
ルリアルーク王なの?
そう続けると、ユリウスは俯き、
「ちょっと……いろいろと話さなきゃいけないようだね」
と言い、深い息をついた。
「確かに、俺のステータスには、ルリアルーク王と書いてあるよ」
ユリウスはそう言うと、苦笑した。
「この事を誰かに話すのは、君が初めてだよ。子供の頃から、ステータスに書かれている事は、絶対に誰にも言っちゃいけないって、きつく伯父上に言われていたからね」
何故アルバトスさんがそう言ったのか――それは、どういう理由かはわからないけれど、アルバトスさんはユリウスのステータスに何が書かれていたかを、知っていたという事なのだろう。
「俺さ、初めて自分のステータスを見た時は、大喜びしたよ。子供の頃は俺だって創世王に憧れていたからね。創世王と同じ色を持って生まれた事もあって、本当に嬉しかった。だけど……すぐに熱は冷めたし、絶望した。自分の生い立ちを考えると、なれるはずがないって思ったんだ」
はぁ、とユリウスは深い息をついた。
子供の頃の絶望感を思い出したようだった。
「考えてみてよ。俺は、男でありながら、女として生まれてきた。これは、母が俺を守るためにそうして、伯父上へと引き継いだ秘密だ。伯父上が死んだら魔法は解ける事にはなるけれど、それっていつの事だ? 俺は、自分をそだててくれた伯父上には長生きしてほしかった。だけどそれは俺がずっと女として生きていかなければいけないという事になる。子供ながらにその現実に気付いた時、俺はこのステータスに書かれた事が、嫌で仕方なくなったんだ。その気持ちは、男に戻った今も変わらない。今は、なんて面倒なんだって思っている。ルリアルーク王だなんて、そんな大層なものになりたくなんかないし、こんな姿はいらない。好きでこんな姿に生まれたわけじゃないんだ」
俺は、母上と伯父上の色が良かったんだと、ユリウスはまたブツブツと言った。
「とにかく、ステータスにそう書いてあっても、俺にはどうすればいいかわからないし、そんなものになりたくもないんだ。ただの村人であり、ただの冒険者でいいんだ。でも……」
「でも?」
「でもね。神聖女である君の夫でいるために、そうでないといけないと言うのなら……どうすればいいのかはわからないけれど、ステータスに書かれているものにならないといけないのかなと、今は思っている……」
そう言ったユリウスは、私を見つめると、
「俺は、オリエの事を、他の誰に渡したくないんだ……」
と、切なげに呟いた。
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