第61話・初夜……と、翌朝


 家に戻ると、お風呂に入っておいでって言われて、バスルームに放り込まれた。

 この後の事を考えるとソワソワしてしまい、落ち着かない。

 少しでも落ち着こうと長風呂になって、のぼせる寸前でお風呂から出て、バスタオル一枚で涼んでいると、ユリウスに彼の部屋へと連れて行かれた。

 それからベッドに座らせて、お水が入ったコップを渡されて……。


「待ってて」


 と、耳元で囁かれ、私は睡魔に襲われながらも、必死に頷いた。

 そして待っているつもりだったけれど、そのまま少し眠っていたみたいで、目を覚ました時にはすぐそばにユリウスがいた。


「待っててって言ったのに……」


「ごめん……」


 謝ると、ユリウスは首を横に振った。

 私があまりにも眠そうだったから、寝るだろうと予感があったそうだ。

 そして、寝ていた時間は、ホンの三十分くらいらしい。


「寝ぼけてる?」


「そんな事、ないよ?」


 実は、少し寝ぼけている。だけどそれは口にしないでおいた。

 まだ眠いと言えば、彼はするのを止めてしまうような気がしたからだ。


「じゃあ、俺のものにしていい?」


「うん」


 頷くと、まだベッドに寝転んだままの私に、ユリウスが顔を近づけて来た。


「君は、俺のもの。だけど、俺も、君のものだけどね。俺の体も、心も、君にあげる。君に救われた命でもあるから、ね」


 私が救った命、か。確かに私は、ユリウスの命を救ったのだ。

 私がこの世界に召喚されなければ、彼と出会わなければ、彼の命はアルバトスさんと共に、呪いの毒によって消えてしまっていたのだろう。

 そう考えると、不思議な縁だと思うと同時に、この世界に来て良かった、彼に会えて良かった、と心から思う。


「触れていい?」


 と問われ、頷くと、金色の瞳を優しく細めたユリウスが、私の唇に自分のそれで触れた。

 最初は軽く触れただけだったのに、次の瞬間には唇が食べられてしまうんじゃないかと思った。

 びっくりして口を開けると、熱い舌が潜り込んできて、パニック状態になったのも一瞬で、頭がぼうっとなってくる。

 多分、このままわけがわからなくなるんだろうなぁと思いながら、私は必死にユリウスにしがみついた。


 神様、私をこの世界に喚んでくれて、ありがとう。

 そして、この人に出会わせてくれて、ありがとう。

 彼と出会えて、幸せです。

 彼を助けられて良かった。

 これからも、助けていきたいし、守っていきたい。

 いや、絶対に守っていく。

 そばに居て、ずっと、ずっと、ずっと。

 私の持てる力全てで、この人を……。






 翌朝。

 カーテンの隙間から漏れる微かな光で、私は目を覚ました。

 はて、ここはどこだろう、一体どうしたのだろうと考え込んで、自分が枕にしていた腕に気付き、全部思い出して赤面した。

 私は一晩中、逞しい腕の中にいた。

 一晩中離してもらえなかったし、なんかいろんな事をされた。

 仰向けにされたり、うつ伏せにされたり、立たされたり座らされたり、本当にいろんなことをされて、途中から全く覚えていない。

 一晩中私を離さなかった腕枕の主をそっと見上げると、彼は満足そうな顔で、幸せそうに眠っていた。

 いろいろとされて大混乱の夜で、腰もだるくて変な感じになっているけれど、ユリウスが満足してくれたのなら良かったと思う。

 起こさないように大人しくしながら、このカッコいい人の幸せそうな寝顔を堪能しよう。

 褐色の肌に、銀色の髪。今は閉じられているけれど、金色の瞳。

 本当にユリウスは、アニメキャラみたいな美形だよね。

 この人が私の彼氏なのだと思うと、顔がにやけて仕方がなかった。

 人生初彼氏がこんな超絶美形って、私、一生分どころか、来世の運まで使い切ってしまったんじゃないかな。

 あ、そういや、今の私って、来世状態なんだっけ?

 そして、昨日結婚式をしたから、ユリウスは彼氏ではなく、私の旦那様だった。


「夢じゃ、ないよねぇ……」


 幸せそうな顔で眠っているユリウスを起こさないように小さく呟いて、ふと結界は大丈夫かなと気になってしまった。

 以前サーチートが、この世界に来た私の力が強かったのは、私が清らかだったからって言っていたから、そうじゃなくなった今は、力が弱まったり、結界が消えてしまうんじゃないかって、気になってたんだよね。

 でも昨日は、愛する人ができたら、力が強くなるとも言っていた……あれは、どういう事なのだろう?

 とりあえず、騒ぎにはなっていないから、結界が消えてしまっているという事はなさそうかな。

 結界が消えたら、大騒ぎになっていそうだし、誰かが知らせに来てくれるだろうしね。

 でも、念のため、ステータスを確認しておこうかな。


「ステータス」


 ユリウスを起こさないように小声で唱えて、ステータスが見られる白い画面を確認して。


「ええっ?」


 私は、大声で叫んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る