第59話・結婚式


「オリエさん、ドレスの用意まではできないけれど、これをつけて!」


 モネちゃんが用意してくれたのは、ベールだった。

 ふわりと頭にかけられた。真っ白なベール。とても綺麗だ。


「お姉ちゃん、これあげる」


「わぁ、ありがとう」


 子供たちが、小さくて可愛いブーケを渡してくれる。

 村に咲いていた花を摘んできてくれたみたいだ。


「見て、ユリウス、すごく可愛いブーケだよ」


 ユリウスを見上げ、貰ったブーケを見せてあげると、


「うん、可愛いね」


 と頷いてくれた。


「それから君は、すごく綺麗だね」


「え?」


 照れたように、ユリウスが笑う。

 ありがとう、と言って、私も笑った。

 ユリウスが赤くなっているように、私の顔も赤くなっているだろう。


「さぁさぁ、準備はできたね! さぁ、結婚式をしちゃおう!」


 サーチートはそう言うと、アルバトスさんの腕から近くのテーブルへと飛び降りた。

 それからちっちゃな手をパチパチと叩くと、


「さぁさぁ、ぼくが神父様の役をしてあげるよ! 二人とも、ぼくの前に並んで立って!」


 と、この場を仕切り始める。

 なんでサーチートがこの場を仕切るんだ、なんでアルバトスさんじゃなくて、サーチートが神父様役なんだ、と思いながらも、私とユリウスはサーチートに従った。

 だって、面白くて可愛いんだもん。

 私もユリウスも、必死に笑うのを堪えてる。


「ほらほら、村の人たちは、オリエちゃんとユリウスくんを囲んでね!」


 村の人たちも同じ気持ちなんだろう、笑いを堪えながらサーチートに従っていた。

 サーチートはみんなが自分の言う事を聞いているものだから、ドヤ顔してるんだけど、それがまたおかしくって仕方がない。


「はい、じゃあ、結婚式を始めるよ! えーっと、ユリウスくん、君はオリエちゃんの事を、お嫁さんにしますか?」


 結婚式の神父様が何を言うのかっていうのは正確には知らないけれど、たぶんものすごく省略しているサーチートに、ぶっとユリウスが吹き出した。

 私もつられて吹き出して、だけど二人して、笑い出すのだけはなんとか堪える。

 サーチートは、多分真面目にやっているのだ。

 その気持ちを考えると、笑うわけにはいかない……と、私もユリウスも、一応思っている。


「お、お嫁さんにします……。俺……いや、私の残りの命をかけて、彼女を愛し抜く事を、誓います……」


 途中で笑いを収めたユリウスは、私を見つめると、優しく微笑んだ。

 私たちの周りを囲んでいる村の人たちから、「おおっ」と声が上がったのは、ユリウスが笑いを収めた事と、私への想いを口にした事の、両方への声だろう。

 

「オリエちゃんっ! オリエちゃんはどうなの? ユリウスくんをお婿さんにする? それとも、しない?」


 どうしてここで、しないという選択肢が出てくるんだ?

 興奮したサーチートの聞き方は、もう神父様のそれではなかったけれど、私は笑わずに頷いた。


「うん、お婿さんにします。私は、これから何があろうと、ユリウスと一緒に居ますっ」


 私の言葉を聞いたサーチートは、目をキラキラさせて、


「やったぁ!」


 と叫び、万歳した。

 可愛らしい姿だけど、全く神父様っぽくない。

 一体何故神父様役に立候補したんだろう。

 だけど、ものすごく喜んでもらえて、私も嬉しかった。

 笑いばかり起きる結婚式だけれど、とても幸せだ。


「じゃあ、じゃあ、チューしなきゃ! 結婚式の最後は、チューをするんだよね! 誓いのチューだよ!」


「え?」


 チューだと? 確かにそうだけど、でもっ……。

 こんな大勢の前で? いや、結婚式なんだから、そうかもしれないけれど……。

 多分、初めてのチュー、だぞ?


「うん、そうだね!」


 周りを見回した私の頭に、ユリウスの長い腕が伸ばされる。

 それから、ベールをそっと上げて、


「オリエ、行くよ?」


 と、私に声をかけてくれる。


「わ、わかった、いいよ! どんとこい!」


 と答えたものの、チューする時って、行くよ、いいよ、って感じなんだっけ?

 しかも、どんとこいってなんだ、なんて事を考えていると、ユリウスの整った顔が近づいてきた。


「オリエ、目、閉じて」


「うんっ」


 思わず目を閉じると、唇ではなく頬に、ふにゅん、と柔らかなものが当たる。

 びっくりして目を開けると、悪戯っぽく笑うユリウスの顔があって、耳元で囁いた。


「みんなに見せたくないから、本番は後でね」


「え? う、うんっ……」


 後で? それは一体……。

 くい、と首を傾げると、もう一度頬に唇を寄せられる。

 それから、


「俺にもして?」


 と甘えたように言われて、私は慌ててユリウスの首に腕を廻し、彼の頬に唇を寄せた。

 それから、力強い腕に軽々とお姫様みたいに抱き上げられた瞬間、


「さぁ、お祝いだよー! みんなでご馳走を食べようよー!」


 とサーチートが叫んで、そのまま宴会に突入してしまった。


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