第58話・それはとても素敵な事
「ユリウスくん、オリエちゃんの事が好きなの?」
「え?」
突然何を言い出すのかと私は驚いたが、質問されたユリウスも同じだったのだろう、見上げた彼は一目でわかるくらい赤面し、「あぁ、好きだよ」と頷いた。
いつの間にか、私たちの周りに村の人たちが集まってきていて、ユリウスの言葉を聞いて、「おおっ!」と声を上げる。
「オリエちゃんはどう? オリエちゃんも、ユリウスくんの事が好きなの?」
みんなの注目を集めて恥ずかしくなった私は、もう止めてと叫びそうになった。
だけど、こんなに周りに大勢の人たちがいるというのに、子供なのか、空気が読めないのか、サーチートは止まらなかった。
「私も、ユリウスの事が好きだよ」
私が頷くと、サーチートは目を輝かせ、
「なんて素敵なんだろう!」
と叫ぶように言った。
「オリエちゃん、これはとても素敵な事だよ! ぼくが言っている事、わかる?」
「サーチート、それは、後から聞いちゃダメかな? 今じゃないとダメなのかな?」
この子は、とんでもない事を口走るのではないだろうか。
口を塞いで止めようと思ったけれど、今サーチートはアルバトスさんの腕の中で、私には止める事ができなかった。
「オリエちゃん、前のオリエちゃんには、愛する人が居なかったでしょ。だからオリエちゃんは清らかなまま、強い魔力を持ってこちらの世界に来る事ができたんだ」
「ちょっ……サーチート!」
ドコが清らかなのかは言ってはいないけれど、大勢の人たちに注目されて、恥ずかしくて仕方がない。
だけど、私の恥ずかしい気持ちに気付く事ができないサーチートは、さらに続ける。
「でもね、オリエちゃんに愛する人ができて、オリエちゃんとその人が結ばれたとしたら……それはオリエちゃんの力を、もっともっと強くするんだ。愛の力って、とってもすごいんだよ。だから、オリエちゃんに好きな人ができた事が、ぼくは本当に嬉しいし、素敵な事だと思っているんだよ」
「サーチート……」
いろいろとぶちまけられちゃった気分でもあるけれど、サーチートは私とユリウスを祝福してくれているだけのようだ。
それなら今、私がサーチートに言うべき事はお礼かなと思って、
「ありがとう、サーチート」
と言うと、ユリウスが私の腰を優しく引き寄せ、言った。
「サーチート、オリエを必ず幸せにするからね」
「うん、ユリウスくん、オリエちゃんをよろしくね!」
感極まったのか、サーチートはつぶらな黒い瞳を潤ませていた。
なんとなく、「お嬢さんを僕にください」みたいな感じになっている気がする。
でもまぁ、サーチートは私の家族みたいなものだもんね。
この流れだと、私はアルバトスさんに何かを言うべきなのかもしれない。
アルバトスさんへと視線を向けると、アルバトスさんはサーチートを抱っこしたまま、穏やかに微笑みながら私たちを見つめていた。
何も言わなくてもいい、わかっている、と言ってもらっているようだった。
「ユリウス様、オリエ様、とってもお似合いですよ!」
「えぇ、お二人とも、とても素敵だわ!」
「おめでとう、良かったですね!」
大勢の人に祝福されて、幸せだなぁと思った。
自分の隣に誰かが居て、私を大切にするって言ってもらえて、それを大勢の人に祝福してもらえる日が自分に来るなんて、信じられないような事だった。
「あ、ありがとうっ……」
思わず私は涙ぐんでしまった。
それを見たサーチートが、名案を思い付いたと目を輝かせる。
「じゃあ、結婚式をしようよ! みんなも居るし、ご馳走もあるし、ちょうどいいと思うんだ!」
「え?」
突然、何を突然言い出すのかと、私は驚いた。
思いついた事をそのまま口にしちゃうあたりが、サーチートが子供みたいなところだ。
「け、結婚?」
「そうだよ! ユリウスくんは、オリエちゃんが好きなんでしょ? オリエちゃんだって、ユリウスくんが好きなんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「みんな、良かったね、お似合いだねって言ってくれてる。じゃあ、もう結婚して、二人は番になるしかないってぼくは思うよ」
そうだそうだ、いいぞサーチート、と村の人たちが声を上げ、サーチートはアルバトスさんの腕の中でちっちゃな両手を広げ、ドヤ顔で村の人たちに応えている。
どうしたものかと隣に立つユリウスを見上げると、彼は少し不機嫌そうな表情をしていた。
「まるで、見せ物みたいになってきたなぁ……」
「ユリウス……」
ユリウスは、村の人たちに囃し立てられるのが、嫌だったのかもしれない。
ただでさえ彼は、性別が変わった事、髪を切った事などで、今日一日村の人たちから注目されていたのだ。
不機嫌になるのも当然かもしれなかった。
「ごめんね、ユリウス……」
「でも、どうせ見せ物になるって言うのなら、とことんまで見せ物になってみようか」
「え?」
どういう意味だろう?
ユリウスの顔を見つめると、彼は優しく微笑んで。
私の腰に回していた腕を解き、私の両手を大きな両手で包み込むようにすると、私の前で片膝をついた。
ユリウスの行動に、私は、え? え? と狼狽える。
「ルリアルークに召喚された、聖なる乙女よ。あなたに最初に会ったその日から、私はあなたに惹かれていました」
「え?」
最初に会った頃って、年増の豚女って言われて、オブルリヒトの王宮から追い出された時だよ? そんなの、信じられないよ。
「嘘じゃないよ、本当だよ」
私の心の声が聞こえたかのように、ユリウスが優しく綺麗な金色の瞳を細めて、微笑む。そして――。
「あなたを心から愛しています。どうか、私と結婚してください」
手の甲に口づけ、私を見つめ、ユリウスは言った。
私は驚いて、驚きすぎて、パニック状態で、顔を赤くしたままユリウスを見つめ、魚のように口をぱくぱくとさせていた。
「オリエ、さっき、とことん見せ物になってみようかって言ったけれど、これは俺の本心だからね」
「ユリウス……」
「サーチートやみんなに乗せられたってのもあるけれど、俺は君を他の男に渡すつもりは毛頭ないから」
先程私を優しく見つめた金色の瞳は、今は肉食獣のように、ギラギラと光って見えた。
この人は、金色の瞳を持った獣だ。そして、私は彼から逃げられない。
ううん、逃げたくない。ずっとこの人のそばにいたい。
「うん、私も、好き。愛しています。こんな私ですが、どうか貰ってください」
「もちろんだ。どんな君も愛してる」
ユリウスは頷くと、立ち上がり腕を広げる。これは、おいでっていう事だよね。じゃあ、思い切って行っちゃおう!
そして、私がユリウスの腕の中に飛び込んだ瞬間、周りの人たちから、今までで一番大きな歓声が上がった。
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