第57話・創世の王
村に戻ると、ご馳走が準備されていた。
大量に手に入ったお肉で、村のみんなで用意してくれたらしい。
熊はなんとなくわかるけど、この世界では、狼のお肉も食用になるんだね。
テーブルには焼いたり煮込んだり、いろんな料理が並んでいる。
ユリウスが着替え行にっていた間に、彼が武器も持たずに狼や熊と戦い、勝ってしまった話は、村の人たち全員に広がったようで、みんなユリウスが戻って来るのを楽しみにしていたらしい。
おまけに髪を短く切って戻ってきたものだから、村中大騒ぎで、ユリウスは戻って来るなり、村の人に連れて行かれてしまった。
ユリウスは自分で言っていた通り、頭に青いバンダナを巻いていたんだけど、すぐにバンダナを奪われて短くなった髪を披露していた。
「ユリウス様ーっ!」
「髪、髪がーっ!」
うん、驚くよね、わかるわかる。
それに、自分で言うのもなんだけど、しゃきっと思いきり切ってしまったものの、最終的にはいい感じに整える事ができたんだよね。
髪を切ったユリウスは、もう一人の凛々しい青年でしかなかった。
私は少し離れたところから、ユリウスを囲んで大騒ぎしている様子を見ていたんだけど、老若男女、みんなユリウスを見る目が輝いていた。
これは、ユリウスがカッコいいから?
それとも、他に何か理由があるんだろうか?
「オリエちゃ~ん、お帰りなさ~い。オリエちゃんがユリウスくんの髪の毛、切ってあげたの?」
ちょこちょこと近寄ってきたサーチートを抱き上げて、「そうだよ」と私は頷いた。
「上手に切れたねぇ。ぼくのオリエちゃんは、手先が器用ですごいねぇ~」
「ふふ、褒めてくれてありがとう~。上手にカットできて良かったよ~」
「あのね、オリエちゃん、お腹減っているんじゃない? ご馳走いっぱいだよぉ~。どのお料理も美味しいんだよ~」
サーチートはキラキラと目を輝かせて、嬉しそうに説明をしてくれた。
「そうなの? なんで知ってるの?」
「それはね、味見させてもらったからだよ! 全部美味しいんだよ! オリエちゃん、絶対に気に入るよ!」
「へぇ、そうなんだぁ~」
料理の味見、させてもらったのか。この子のコミュ力すごいな。
私は人見知りする方だから、ものすごく羨ましい。
どうやらサーチートは、すっかり村の人たちと仲良くなっているようだった。
「村の人たちね、ご馳走を作っている時、みんなユリウスくんの話をしていたんだよ。創世の王様の再来だって言ってさー。今のユリウスくんを見たら、気になっちゃうの、仕方ないよねぇ~」
「創世の王様? 一体何の事?」
質問すると、サーチートは不思議そうに首を傾げた。
「あれ? オリエちゃん、もしかして知らない?」
「うん、多分、知らないと思う。何の事かな?」
「あのね、この世界の創世の王様は、ユリウスくんと同じ姿をしているんだよ」
「え? どういう事?」
「つまり、ユリウスくんの姿っていうか、ユリウスくんの色――つまり、褐色の肌、銀色の髪、金色の瞳がね、この世界の創世の王様と同じという事さ。創世の王様は、この世界の人にとって、憧れの人なんだって。だからみんな、ユリウス君が気になっているんだと思うよ」
「そう、なんだ……」
そう言えば、ジュニアスがオブルリヒトの王様の色を持ったユリウスの事を、ずっと憎かったって言っていた。
あれは、自分のお父さんと同じ色だというだけでなく、創生の王様と同じ色っていう意味でもあったという事か。
だけど、ユリウスは自分の容姿を好きではないようだった。
伯父であるアルバトスさんと同じ色が良かったって、さっきも言っていたし、ユリウスにとって自分の纏う色は、何の価値もないのかもしれない。
むしろ、迷惑だと思っていそうだ。
「オリエさん、食べていますか? 飲み物はいかがですか?」
トレイに飲み物や料理をのせたアルバトスさんが、私とサーチートの前に、トレイを差し出した。
「オリエさん、あの子の髪を、切ってくださったのですね。とてもすっきりしていて、いいと思います。あの子はずっと、髪を切りたがっていましたから。ありがとうございます」
飲み物が入ったコップを差し出しながら、アルバトスさんは私にお礼を言った。
本当は切りたくなかったですけど、と呟くと、綺麗に伸ばしていましたもんねぇ、とアルバトスさんは苦笑した。
「あ、美味しい」
アルバトスさんが渡してくれた飲み物は、少し甘めのオレンジ水のようなもので、美味しくてさっぱりしていた。
それは良かったです、と微笑んだアルバトスさんは、ところで、と続ける。
「ところで、オリエさんとサーチートくんは、何のお話をされていたのですか?」
「創生の王様の話だよ。ユリウスくんの姿が、創世の王様と同じなんだって、オリエちゃんに教えてあげていたんだよ」
アルバトスさんの問いに答えたのは、サーチートだった。
アルバトスさんは、「そうですか」と穏やかに微笑むと、「でも」と続ける。
「でもね、サーチートくん。彼――ユリウスは、その話題は好きではないかもしれません」
さすが、ユリウスを育てた人だ。彼の事を良く分かっている。
「えぇ? そうなの? なんでだろう? この世界の人たちは、みんな創世の王様に憧れているって思っていたのに……」
サーチートは不思議そうな表情で、首を傾げた。
そうか、サーチートにはわからないんだね。
この子はユリウスの事情を、詳しく知らないのかもしれないし、子供みたいな子だから、気づく事ができないのかもしれない。
「ねぇ、サーチート。ユリウスに言ってしまう前に、彼がこの話題を好きじゃないって事がわかって良かったね」
とサーチートに言うと、うん、とサーチートは頷いた。
「でもね、オリエちゃん。ぼくらが言わなくっても、他の人が言っちゃうかもしれないよ?」
「そうだね、でも、私たちが言わなければ、その分ユリウスは、ほっとするかもしれないね」
私がそう言うと、サーチートは納得したのか、こくんと小さく頷いた。
もしかするとサーチートは、創世の王様について、彼と同じ色を持つユリウスと、王様の事についていろいろと話をしたかったのかもしれない。
もしもそうなら、ちょっと可哀想な事をしてしまったけれど、ユリウスと気まずくなるよりは良かったんじゃないかと私は思った。
「サーチートは、優しい子だね」
「オリエちゃんもね」
「どちらも、本当に優しい子ですよ」
アルバトスさんはそう言うと、腕を伸ばし、私の腕からサーチートを抱き上げて、優しく体を撫でた。
そして私を見つめると、
「本当はね、オリエさんの頭も撫でたい気持ちなんですが、またあの子が妬きそうなので……」
「あの子って……ユリウスの事ですか?」
私が問いかけると、アルバトスさんは苦笑しながら頷いた。
「えぇ、そうですよ。あの子があんなに嫉妬深いとは、思いませんでしたよ」
そう言ったアルバトスさんは、視線を私からそらした。
「何の話? 俺の話、してた?」
振り返ると、いつの間にか私たちから数メートルほどの位置にユリウスが居て、彼は私の隣へと移動すると、私の腰に大きな手を添え、引き寄せる。
「ユ、ユリウス……」
腰を抱かれた私は照れて赤くなり、それを見たサーチートは、可愛い声で爆弾発言をした。
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