第52話・結界説明会
アルバトスさんは、モネちゃんのお父さんが経営する、ハロン商店の隣にある食堂に居た。
「アルバトス先生ー、オリエちゃんたちを連れてきたよー」
「はい、サーチートくん、ありがとうございます。オリエさん、ユリウス、こちらへ」
サーチートはアルバトスさんの元に駆けていくと、当然のようにアルバトスさんの腕に収まった。
あの子、アルバトスさんに迷惑をかけていないかな?
お調子者だから、ちょっと心配になってしまう。
心配そうにサーチートを見ていたのに気が付いたのだろう、アルバトスさんは優しく笑い、言った。
「大丈夫ですよ、オリエさん。サーチートくんは、とてもたくさんお手伝いをしてくれる、私の自慢の生徒ですよ」
「そ、それならいいんですけど……」
「はい、大丈夫ですよ」
どうして私が考えている事がわかったのだろう。
やっぱりアルバトスさんって、すごい人だなぁ。
「オリエちゃん、こっちこっち!」
アルバトスさんに抱っこされながらサーチートが手招きするので、私とユリウスはアルバトスさんとサーチートのそばへと向かった。
この食堂は時々集会所のように使われているらしく、テーブルが中央に集められて、テーブルの上には大きな地図が広げられていた。
ここに集まっている人たちは、ジャンくんやモネちゃん、そして二人のお父さんの他、それぞれの家の大黒柱的な人たちだ。
「みなさん、今日は集まっていただき、ありがとうございます。これから、今後の事についての説明と、相談をしたいと思います。まずは、ご存じの方もおられるとは思いますが、自己紹介から。私はアルバトス・フェルトン、その銀髪の彼が、元ユリアナ・オブルリヒトのユリウス・フェルトン、こちらの可愛いハリネズミくんが、サーチートくん、そしてこの黒髪の女性が、この世界に召喚された、聖女であるオリエさんです。この村の結界は、オリエさんの魔力によって張られました」
集まった人たちが、おお、と声を上げ、多くの視線が私に集まった。
ユリウスの事で頭がいっぱいになっていたけど、そう言えば、私の事を知っている人って、少ないのだった。
知っているとしても、以前の太っていた私の姿だろう。
「オリエさんが張った結界は、結界外からの攻撃を防ぐ事ができます。そのため、この村に攻めてこようとしていたオブルリヒト兵を、退ける事ができました。だけど……私たちがこの結界の外に出る事も、できなくなってしまいました。村のみなさんを守るためとはいえこんな状況下になった事を、まずはお詫びします。申し訳ありませんでした」
アルバトスさんはテーブルの上にサーチートを降ろすと、ここに集まった村の人たちに頭を下げた。
それに倣い、ユリウスもサーチートも頭を下げ、私も彼らに続く。
この村がこんな状況下に陥ったのは、私が原因だ。
申し訳ないという想いが、胸に広がった。
「大丈夫だ、アルバトス先生。俺たちは前から、オブルリヒトのジュニアス王子には良い感情を持っていない。あの王子は、何をするかわからないからな」
村人の一人が声を上げて、他の人たちも頷いた。
「俺たちみんな、アルバトス先生たちには、守ってもらったって思ってるよ?」
「そうですよ! アルバトス様たちは、俺たちを守ってくれたんですよ!」
ジュニアスって、ずいぶん評判悪いな。何をするかわからないとか言われてるよ。
それに、村の人たちはみんな感謝しているようだった。
私はほっと息をついたけど――だけど、とアルバトスさんは言った。
「みなさん、ありがとうございます。そう言っていただいて、とても嬉しいです。だけど、これからどうなるのかっていう不安もありますよね?」
「それは……」
村の人たちは、みんな俯いてしまった。
アルバトスさんは、
「それが普通ですよ」
と言って優しく緑の瞳を細めて笑うと、
「では、みなさんができるだけ不安にならないよう、いろんな事を説明いたしましょう」
と言った。
「まず、この結界の説明からしましょうか。先程も言いましたが、この結界は結界外からの攻撃を防ぐ事ができますが、私たちがこの結界の外に出る事も、できなくなっています。結界の範囲は、こちらの地図をご覧ください」
アルバトスさんはテーブルに広げた地図に、ペンで大きく丸をつける。
私はこの地図に似たものを見た事があった。
箱庭の魔法を使う前に、サーチートとアルバトスさんが見せてくれた地図や景色と同じものだ。
「この地図につけた丸が、結界の範囲になります。見ての通り、結界の範囲は村だけでなく、多少の森も含まれています。つまり、森に住む動物や植物も多少は含まれてはいるので、その中で狩りや植物の採取は行う事ができます。この結界は、この村に害するものを拒むようになっていますので、川魚や害意のない動物たちは結界内に入って来るでしょう」
村の人たちが、ほっと息をつくのがわかった。
アルバトスさんはきっと、結界を張った後もこの村の人たちが生活できるようにと考えていたんだ。
前に、ユリウスがアルバトスさんの事を、天才って言っていた。
あの切羽詰まった状態で、先の事を考えていたなんて、すごい人だと改めて思う。
「そして、先程結界の外には出られないと言いましたが、鍵があれば可能です」
「鍵?」
「はい、鍵です。それがあれば、この結界を出入りする事ができます。そしてそれは、この結界の術者であるオリエさんが作る事ができます」
アルバトスさんは、ちらりと視線を私に向けて言った。
魔結晶だって、ポーションだって、たくさん作ってきた。
私に作れるというのだから、きっと作れるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます