第49話・ユリウスのお披露目
「ねぇ、ユリウス……もしかして、なんだけど、昨日より成長した?」
朝ごはんを食べる前に気付いたんだけど、ユリウスの体は昨日よりも少し大きくなっているように見えた。
多分、二センチか三センチは大きくなっているような気がする。
だって、昨日着ていたシャツやズボンが、ピチピチになっていたのだ。
「成長、したね。でも、もう落ち着いたと思う。心配をかけて悪かったね。あと、こんな恰好でごめん。手持ちの服は、全部こんな感じなんだ」
「ううん、大丈夫だよ。私は、ユリウスが元気になったのなら、それでいいから」
ユリウスが元気になったのは、本当だと思う。
昨日の朝とは比べ物にならないくらい、今日の彼は食欲旺盛だったからだ。
良く食べるっていう事は、元気な証拠だと私は思っている。
「服の事なんだけどね」
「何だい?」
「ユリアナの時、大き目の服……男物ばかり着ていたのは、いつ体が変わっても大丈夫なようにしていたの?」
私の問いに、そうだよ、とユリウスは頷いた。
「考えてみてごらんよ。女物の服を着ていて、突然体が変わったら、大変だと思わないか?」
確かにそうかもしれない……私は想像してしまい、思わず吹き出してしまった。
「笑いごとじゃないんだよ、オリエ。そんなに簡単にあの人が死ぬはずはないとは思っていたけれど、もしもの事があるからね。だから、ドレスや着飾る事は避けていたんだ」
そう言えば、ドレスは着ない、着飾る事は好きではない、みたいな事を、以前言っていたよね。
あの時は、着飾ったら美人だろうな、もったいないなぁ、なんて事を思っていたけど、こんな理由があったなんて、夢にも思わなかった。
「失礼しまーす、ユリウス様、服をお持ちしましたー」
モネちゃんがユリウスの服を持ってきたのは、朝食の片付けを終えた頃だった。
「助かったよ、モネ。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
今の体に合った服へと着替えたユリウスを見て、私はやっぱり彼はカッコいいなぁなんて思っていた。
無造作に髪を結んだ彼は、
「髪も切らなきゃなぁ」
と、小さく呟く。
ユリアナはストレートの髪を背中の真ん中あたりまで長くしていたから、今のユリウスは、アニメの美形キャラのような銀髪の長髪だ。
このままでもいいんじゃないかと思ったけれど、ユリウスは切る気満々のようだった。
まぁ、髪を短くしてもカッコいいだろうけど。
「さて、顔を見せに行くかぁ」
「うん。みんな心配してると思うよ」
「そうだね、たくさん心配しているだろうな……。でも今度は、驚かせてしまうね」
苦笑するユリウスに、そうかもね、と私も頷いた。
なんてったってユリアナ王女が、男の人になっちゃったんだもんね。
みんなびっくりするんだろうなぁ。
「ジャンくんとモネちゃんは、ユリウスの事、知っていたの?」
私が尋ねると、ジャンくんとモネちゃんは頷いた。
二人とも、お父さんから聞いていたらしい。
ジャンくんのお父さんは、このシルヴィーク村の村長だし、モネちゃんのお父さんは、冒険者登録もできるハロン商店の経営者だ。
このシルヴィーク村でユリウスを育てるために、アルバトスさんが協力を求めたのだろう。
「ユリウス様の事は、うちやモネのところの他は、一部の大人だけが知っているらしいです。でも、ほとんどの人が知らないだろうから……すごく驚くと思います……」
「男は号泣、女は黄色い声を上げる光景が目に浮かぶわ」
ジャンくんとモネちゃんは、そう言うと苦笑した。
確かに、美人のユリアナ王女が消えて、こんなにカッコいいユリウスが現れたら、男の子は泣いちゃうし、女の子は大騒ぎだろうね。
ユリウス、モテるんだろうなぁ。
そんな事を思いながら彼を見上げると、ユリウスは少し疲れたような顔で、ふう、とため息をついた。
「えーっ! ユリアナ様が、本当は男ー?」
ユリウスの事を知ったシルヴィーク村の人たちは、予想通りみんな驚いていた。
ここにくる前にモネちゃんが言っていたように、本当に男性は号泣し、女性は大騒ぎだ。
そしてちらほらと、
「ユリウス様って、まるで伝説の創世王みたい」
「本当よね、素敵だわ」
と言う声が聞こえてくるんだけど、あれは何の事なのかな。
ちょっと気になる。
「え? ユリアナちゃん、男の子だったの?」
サーチートはユリウスに興味津々で、彼の肩に駆け上がると、顔をじっと見つめる。
「あのユリアナちゃんが男の子だなんて、信じられないけど、君は確かにユリアナちゃんに似ているよね。じゃあ、本当にユリアナちゃんは、男の子なの?」
ユリウスはサーチートに詰め寄られ、少し困っているようだった。
そんな彼が助けを求めたのは、彼が最も信頼している人で、助けを求められた人は穏やかな声で、サーチートに言った。
「そうですよ、サーチートくん。この子は間違いなく、ユリアナだった者です。ある事情から、魔法をかけて、女の子として育てていました。今は魔法が解けて男性体になり、今後はユリアナ・オブルリヒトではなく、ユリウス・フェルトンとして生きていきます。ユリアナだった時と同じように、仲良くしてあげてもらえませんか?」
「はい、わかりましたぁ。そうかぁ、よくわからないけど、きっと何か大変な事があったんだね。でも大丈夫だよ、ぼくは、君がユリアナちゃんでも、ユリウスくんでも、仲良くするから安心してね」
アルバトスさんの言葉を受け入れたサーチートは、ユリウスに小さな手を差し出した。
どうやら、握手のつもりらしい。
ユリウスは表情を緩めると、サーチートの小さな手に、褐色の人差し指を差し出した。
「ありがとう、サーチート。これからもよろしく」
「うん、よろしくね、ユリウスくん」
サーチートとユリウスが握手をする姿は、とてもほのぼのとしていて、見ていてほっこりした。
他の村人たちも同じだったんだろう、
「そうですよ、姿形が違っていようが、ユリアナ様……いや、ユリウス様には、村を救っていただいた御恩があります。あなたが何者であろうが、俺たちは受け入れますよ!」
「そうよ! ユリアナ様もカッコ良かったけど、ユリウス様って、本当に素敵だわ! 私、ファンになっちゃいます!」
と、ユリウスをあっさりと受け入れた。
「ヒューヒュー、ユリウスくんは、モテるなぁー。羨ましいぜ、このやろー!」
肩に乗ったお調子者のハリネズミにからかわれ、ユリウスは少し頬を赤くして、照れたように笑った。
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