第48話・看病したかっただけなのに
ユリウスの様子を見に行くと、彼はベッドに横になって、苦しそうに呻いていた。
先程話をした時は、平気そうに見えていたけれど、本当は無理をしていたのかもしれない。
女性から男性へ、体が変わってるんだものね。
外見だけでなく、内蔵の方も変わっているのなら、私の時とは違うだろう。
私の場合は、ぶっちゃけおデブさんから分厚い肉がなくなったくらいだし、苦しかったのは元の自分を殺された直後だけだった。
その後は意識を失って五日間も寝ていたそうだから、その間にゆっくりと体は変わり、回復したのだと思う。
「ユリウス……」
苦しそうなユリウスの額に触れると、かなりの熱が出ているようだった。
熱でぬるくなったタオルを濡らして、再び額にあててあげると、うっすらと金色の瞳を開けて、嬉しそうに笑う。
「ユリウス、今度は、そばに居ていいかな」
そう尋ねると、ユリウスは頷いてくれた。
ゆっくりと伸ばされた手を取ると、熱い手が私の手を握りしめる。
そして。
「え?」
ぐい、と引っ張られ、気づくとベッドに引きずり込まれ、熱い体に包まれていた。
私はただただ混乱し、え? え? え? と、頭の中に、クエスチョンマークをまき散らす。
「あぁ、オリエは、体温が低くて、気持ちいい……」
逞しい腕にすっぽりと包まれて、耳元でそんな事を囁かれた。
これは、どういう状況だ?
熱が高いユリウスが、体温低めの私で自分の熱を冷ましたいだけ?
だけど、この状況はいかがなものだろう?
私、超イケメンに熱い体で抱き締められて、心臓が口から飛び出そうなくらい暴れてるんだけどー!
なんとか抜け出せないかと体をひねったんだけと、それを許さないというかのように、ユリウスの逞しい褐色の腕が体に巻き付けられて、放してくれない。
「オリエがそばに居ると……少し気が紛れる……心身共に、安らぐ事ができる……」
「そう、なの?」
「そうだよ。だって、ジュニアスに連れて行かれたときは、気が狂いそうになってた……だから、今は、落ち着く……オリエはここに居るんだって、安心、する……」
ユリウスはそう呟くと、そのまま眠りに落ちてしまったようだった。
言葉通り、少し落ち着いたのだろう、規則正しい寝息が首筋をくすぐる。
安心して眠りにつけたのなら、良かった。
それに私が必要だというのなら、このまま大人しくひんやり抱き枕になっていてもいいかもしれない。
今の私は、ただの抱き枕だ。
私はそう思いながら、自分の体に回されたユリウスの手に自分の手を重ねて、彼が少しでも回復するようにとヒールを唱え、目を閉じた。
「うわぁ、展開早すぎじゃない?」
「そうかも……。アルバトス様の心配していた通りね……」
誰かの話し声が聞こえて、私は目を覚ました。
まだ眠いから、目を擦りながら、誰の声だろうと必死に目を開く。
「あ、オリエさん、起きた?」
「ごめんね、起こしちゃって。アルバトス様が心配してたから、様子を見にきたんだけど、ごめんね、邪魔しちゃって」
声の主は、ジャンくんとモネちゃんだった。
アルバトスさんがしていた心配って、なんだろう?
あと、邪魔って何? 寝てたのを起こされたから?
あぁ、私、寝てたのか。いつの間に寝たんだろう?
すごく暖かくて、気持ちいいから、寝ちゃったのかな?
と考えて、私はこの場所が、アルバトスさんが貸してくれた部屋でないことに気がついた。
そして、自分の体に後ろから巻き付いた、逞しい腕にも。
「え? えぇっ?」
逞しい腕は、男性のものだ。誰の腕だろうと少し考えて、思い出した。
腕の主は、気持ち良さそうに、すうすうと寝息を立てて眠っている。
「オリエさん、その……すでに一線を……」
「ジャン!」
何かを言いかけたジャンくんを、モネちゃんが止めた。
ジャンくんは、一体何を言いかけたっけ?
確か、イッセンとか言ってたな……イッセンってなんだ?
首を傾げた私の後ろから、声がする。
「まだだ」
「え?」
首だけ後ろに向けて振り返ると、褐色の肌に銀色の髪をした、金色の瞳の男の人。
「ジャン、伯父上は大丈夫か」
「はい、だいぶ回復されました。今はうちの親父やモネの親父さんと、今後の事を話されています」
「わかった。今日は俺もそちらに向かうと、伯父上に伝えてくれ。それから、モネ」
「はい」
「すまないが、何着か服を用意してくれ。手持ちでは、少しきついんだ」
「わかりました。すぐにご用意してお持ちします」
ユリウスからの指示を受けたジャンくんとモネちゃんは、一礼すると部屋から出て行った。
ジャンくんとモネちゃんが出ていくと、ユリウスは私の体に腕を回したまま、はぁ、と深いため息をついた。
どうしたのかと聞いてみると、彼はしばらく黙って考え込んでいたが、思い切ったように口を開いた。
「オリエ、その……君は今俺の隣に居てくれるのは、君が俺のベッド潜り込んだっていう事でいいのかな?」
「は? 何言ってるの?」
私は体を捻り、ユリウスの方を見た。
そして、目の前の逞しい褐色の胸板を見て、急に恥ずかしくなってしまう。
だって、男の人の裸とか、見慣れていないんだものっ!
多分、今の私は、顔が真っ赤になっているだろう。
恥ずかしくなって、私は声を張り上げた。
「昨日、様子を見に来たの! そうしたら、ユリウスが腕を掴んで、引っ張り込んだんだよっ」
「そう、ごめんね。でも、抜け出そうとしたら、抜け出せたんじゃないの?」
「無理だよっ! だって、すごい力だったんだよ! 今のユリウスに、今の私が抵抗できるはずないじゃない! それに、私がそばにいたら落ち着くって、安心するって言うし、だからっ……」
「だから?」
「だから、大人しく抱き枕になって……そしてそのまま、寝ちゃったんだよ……」
私がそう答えると、ユリウスは顔を赤くして、幸せそうに笑った。
「つまり、オリエは俺の腕の中にいるのは、嫌じゃないっていう事でいいかな?」
「え?」
この人、いきなり何を言うの? と思ったけれど、私は少し迷いながらも頷いた。
だって、実際嫌じゃなかったから。
「じゃあ……俺は今後、君を口説くつもりでいたのだけれど、その事に希望を持っていいって事かな?」
「え?」
私が首を傾げると、ユリウスは苦笑する。
「昨日……いや、一昨日の夜だったかな? 言っただろ? 好きだって」
「え?」
「愛してるよ、オリエ。ジュニアスが君を連れて行った時、本当に気が狂うかと思った。君を無事に取り戻せて良かった……」
私、もしかして今、告白されている?
こんなにもカッコいい人から?
今まで告白なんてされた事がなかったから、素直に信じる事ができない。
だけどユリウスは真剣な、優しい表情で私を見つめていて、私には彼が嘘を言っているようには思えなかった。
「ごめん、驚かせたよね……。返事は、急がなくてもいいから。これからしばらくは、お互い忙しいだろうからね」
戸惑う私に、ユリウスは優しく笑って……そして気を使ってくれたのだろう、少しおどけた感じで、
「オリエ、お腹が減った。何か作って」
と言った。
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