第47話・テレパシー


 話を終えた後、ユリウスはまだ体調が良くないようで、「だるい」と呟くと、テーブルに突っ伏した。


「ちょっと横になってきたら? 何かあったら、起こしてあげるから」


「そうだね、そうさせてもらおうかな」


 ユリウスは素直に頷くと、立ち上がろうとしてふらついた。

 慌てて立ち上がって体を支えると、彼の体は熱があるのか、とても熱かった。

 大丈夫かと問うと、困ったように笑うから、多分、あまり大丈夫ではないのだろう。


「ごめん、無理させていたかも。部屋まで送るね」


「あー……ありが、とう……」


 拒まれるかと思ったけれど、ユリウスは素直に頷いてくれた。

 ただ、今の彼は私よりもだいぶ背が高く体格も良いので、ユリウス一人の方がちゃんと歩けたのではないかと思うほど、ふらふらしながら部屋へと向かう。


「時々様子を見に来るから、横になっててね」


 ユリウスをベッドに寝かせた後、濡れたタオルを用意して、ユリウスの額に乗せる。

 ユリウスは気持ち良さそうに目を細めて、そのまま大人しく目を閉じた。

 多分、ユリウスの体には、まだまだ休息が必要なんだろうな。

 あとからまた様子を見に来る事にしよう。


『オリエちゃーん、もしもし、オリエちゃーんっ』


「へ?」


 ユリウスの部屋から出て台所に戻ると、サーチートの声が聞こえた。

 サーチートがこの家に来ているのかと思い、私は周りをキョロキョロと見回したんだけど、サーチートの姿はない。

 少しして、サーチートの声が、耳から聞こえるものではなく、直接頭の中に響いている事に気が付いた。

 これはもしかして、サーチートが教えてくれた、テレパシーという魔法?


『もしもーし、オリエちゃーん、聞こえますかー? テレパシーの魔法だよー! テレパシーって唱えて、ぼくの名前を呼んでね~』


 やっぱりそうだったか!

 私はテレパシーと唱え、続けてサーチートの名前を呼んだ。


『もしもしー、オリエちゃん、聞こえるぅ?』


「聞こえるよー、サーチート。このテレパシーって呪文、すごく便利だね!」


「へへーん、そうでしょう! これをオリエちゃんに教えたぼく、すごいよねー!」


 ドヤ顔をするサーチートが頭に浮かび、私は吹き出しそうになるのをなんとか我慢して、すごいすごいと誉めてあげた。


「サーチート、何かあった?」


『ううん、こっちは大丈夫だよー。アルバトス先生も少しずつ元気になってるし」


 それは良かったなぁ。

 サーチートによると、アルバトスさんは食事もしっかり摂っているらしい。

 ゆっくり休んで、元気になってほしいな。


『でもね、オリエちゃんは戻って来ないし、連絡もないから、心配だなーって思って。アルバトス先生も、口にはしていないけど、ユーリちゃんの事を心配していると思うんだ。オリエちゃん、何かあった? 大丈夫? ぼく、そっちに行った方がいい?』


 そう言えば、こっちに来てから連絡をしていなかった事を思い出す。


「大丈夫だよ、心配かけてごめんね。ユリ……ユーリの体調がね、まだあんまり良くないの。お熱があるから、私はもう少しこっちに居るね。明日には、私は一度そっちに戻るよ。アルバトスさんに、そう言っておいてくれるかな」


 私がそう言うと、わかったとサーチートは答えてくれた。


『あのね、アルバトス先生から、オリエちゃんに伝えてって言われてる事があるんだ。オリエちゃんがこっちに戻ったら、鍵を作りたいから、協力してほしいんだって』


「え? わ、わかった……でも……」


 でも、鍵って何だ? 何の鍵?


『この結界……箱庭の出入りが自由にになる鍵だよ』


「え? そんな事できるの?」


『そうみたいだよ~。ぼくもまだ、詳しい事は教えてもらっていないんだけどね。オリエちゃんが戻った時に、詳しい説明をするって言っていたよ』


 でも、箱庭の結界の外には、オブルリヒトの兵士たちが居るんじゃないかな?

 危なくないのだろうかという疑問が残るけど、アルバトスさんにはいろいろと考えがあるんだろう。


「わかった。じゃあ、戻ったらお手伝いするって、アルバトスさんに伝えてくれるかな?」


『うん、わかったー。じゃあぼくは、引き続き先生にいろいろと聞いて、オリエちゃんのために勉強しておくねー』


 サーチートはそう言うと、テレパシーを終えた。

 テレパシーか、本当に便利な呪文だなぁ。

 それにしても、いろいろとやらなければならない事があるみたいだ。

 できるだけの事はしたいし、頑張ろう。

 きっとアルバトスさんも心配してるだろうし、ユリウスの体調、明日には良くなっていればいいんだけど。

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