第43話・消えたユーリ
「ユーリ様! オリエ様!」
シルヴィーク村に戻ると、ジャンくんのお父さんに大声で呼ばれた。
「どうした! 何かあったのか!」
「アルバトス様が、お倒れになりました!」
私たちは慌ててアルバトスさんの元へと向かった。
箱庭の呪文の事を教えてくれたり、サポートをしてくれたり、元気そうだったから忘れていたけれど、アルバトスさんの心臓は一度止まっているんだった。
「伯父上、大丈夫ですか?」
シルヴィーク村の宿屋の一室に、アルバトスさんは寝かされていた。
ユーリが声をかけると、アルバトスさんは安心したように笑って、
「無理をし過ぎましたかねぇ」
と、のんびりと言う。
「そうですね、だいぶ無理をしましたね。だけど、そのおかげでシルヴィーク村を守ることができました。ありがとうございます。でも、これからも伯父上にはいろいろと働いてもらわなければなりません。だから、しばらくの間は体を休めて、体の回復につとめてください」
ユーリがそう言うと、えぇ、とアルバトスさんは頷いた。
「オリエ、伯父上の事、頼めるかな。あと、いろいろとあって、村の人たちの中で、体調を崩す人がいるかもしれない。そういう人を、みてあげてほしいんだ」
「わかった、任せて! 他にもできる事があったら、なんだってするよ!」
私が頷くと、ありがとうってお礼を言って、ユーリは村長であるジャンくんのお父さんや、モネちゃんのお父さんと共に、アルバトスさんが横になっている部屋から出ていった。
それから、ものすごく疲れていたんだろう、アルバトスさんはすぐに眠りにつき、私はアルバトスさんの看病をしていたはずなのに、いつの間にか眠っていたようで、気が付いたら夜になっていた。
だから目が覚めた時、
「よく眠っていましたね」
と声をかけられて、ものすごく恥ずかしかった。
アルバトスさんはベッドで起き上がっていて、膝に乗せていたサーチートの頭を優しく撫でていた。
アルバトスさんに撫でられて、サーチートは幸せそうに眠っている。
「サーチートくんは、今日、とても頑張ってくれましたから……。オリエさんも、今日は大変だったでしょう。疲れていて当然ですよ」
確かに、今日は大変だったなぁと、私は一日を思い返す。
オブルリヒトの王様と話をして、ジュニアスから荷物を受け取って、写真のメッセージに気付いて、ジュンと戦って、サーチートを召喚して、ユーリとアルバトスさんが助けに来てくれて――本当に大変で、濃い一日だった。
「ユーリは、今も何かしているんでしょうか?」
アルバトスさんが体を休めているから、ジャンくんのお父さんやモネちゃんのお父さんたちと今後の事についての話をしているのだろうけど、いい加減ユーリも休んだ方がいいんじゃないかなと思う。
「ユーリも、もう休んでいると思いますよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。先程、ドルスさんが――ジャンくんのお父さんで、この村の村長さんなのですが、彼が教えてくれました。村には箱庭による影響はなく、それを確認した後、ユーリは家に戻ったそうです」
ちなみに、ジャンくんのお父さんであるドルスさんがこの事を伝えに来てくれた時、私はグースカと寝こけていたらしく、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
でも、ふと疑問に思った。
家に戻って休むのなら、ユーリはどうして私に声をかけてくれなかったのだろう?
いくら私が寝ていたとしても、起こしてくれたら良かったのに。
「明日……オリエさんにはいろいろとお伝えしなければならない事があります」
「え? 何ですか?」
一体何の事だろう? ものすごく気になってしまった。
「もしかして、ユーリの事ですか? ユーリに、何かあったんですか?」
胸が、嫌な感じに大きく鳴った。
無意識だったけど、大きな声を出してしまっていたようで、アルバトスさんの膝で眠っていたサーチートが起きてしまった。
サーチートには申し訳なかったけれど、私は不安に思った事を、そのままアルバトスさんにぶつけた。
「アルバトスさん、ユーリに何があったんですか?」
「ユーリは大丈夫です。オリエさん、今日はもう遅いですから、明日、いろいろと説明をします」
「どうして、明日なんですか? それに、本当にユーリは大丈夫なんですか?」
アルバトスさんは、ユーリの事で、私に何かを隠しているのだと思った。
そして、何を隠しているのかはわからないけれど、今私にそれを教えてくれる気がないのだとも。
「オリエちゃん、どうしたの? 何かあったの?」
アルバトスさんの膝の上で、まだ眠そうなサーチートが首を傾げる。
「うん、ちょっと、アルバトスさんのおうちに帰ってくる。サーチートは、アルバトスさんとここに居てくれるかな」
私がそう言うと、サーチートは眠いのだろう、目をしぱしぱさせながら、こっくりと頷き、ころんとひっくり返ってお腹を見せた。
現れたスマホ画面に、文字が浮かぶ。
「オリエちゃん、夜に出歩くと、危ないよ。これはね、光の玉を作る呪文と、ぼくとオリエちゃんを繋ぐ呪文だよ。唱えてぼくの名前を呼んだら、ぼくとオリエちゃんは、いつだってお話できるからね」
サーチートのお腹のスマホ画面に浮かぶ、二つの呪文。
ライトと、テレパシー。どちらも便利そうだ。
「ありがとうね、サーチート」
「うん、いいよぉ~。気を付けて行ってきてねぇ~」
サーチートは、眠くてたまらなかったのだろう、小さな手をぴこぴこ振ると、幸せそうな表情で眠りについた。
サーチートが眠りにつくと、どういう仕組みなのかはわからないけれど、スマホ画面が消えてしまった。
「本当に、可愛らしい子ですねぇ」
気持ちよさそうに眠るサーチートの白いお腹を撫で、アルバトスさんが言った。
「オリエさん、お願いですから、ユーリの元に向かうのは、明日の朝まで待ってもらえないでしょうか?」
先程までとは違い、アルバトスさんは頭を下げてまで、私に頼んできた。
何か理由があるのかもしれないとは思ったけれど、私は首を横に振った。
もしも今、ユーリが苦しんでいるのだとしたら、放っておく事はできないからだ。
「ごめんなさい、行きます」
そう言い切ると、アルバトスさんは、わかりましたと頷き、今度は、
「あの子の事をよろしくお願いします」
私に頭を下げた。
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