第41話・防御結界、箱庭(ミニチュア・ガーデン)


「では、箱庭の呪文の説明をします。この呪文は、一時的なものではなく、長期的な防御結界になります。そのために、あなたの無限の魔力が必要となってくるわけです。サーチートくん、オリエさんに、地図を見せてあげてください」


「はい、先生!」


 頷いたサーチートのお腹のスマホに、地図が映し出された。


「オリエちゃん、これが、シルヴィーク村の地図だよ」


 と、可愛い声でサーチートが説明をしてくれる。

 周りを森で囲まれた小さな村……それが、このシルヴィーク村だ。


「そして、これが箱庭を発動する範囲だよ」


 サーチートがそう言って、お腹のスマホを小さな手でチョンと触ると、シルヴィーク村を囲うように、いくつもの白く丸い点が現れた。


「この白い点は、何?」


「オリエさんが大量に作ってくれた、魔結晶です。箱庭の発動範囲になります」


 答えてくれたのは、アルバトスさんだった。


「今回の作戦には、あなたを元の世界に戻すために用意した魔結晶を、利用しました。あなたには、この魔結晶を点と考え、線で繋いでいくように結界を張ってもらう事になります。この地図で、だいたいのイメージが掴めると思うのですが、どうですか?」


「はい、なんとなく、イメージは掴めますけど、でも……」


 私がシルヴィーク村に行った回数は、ホンのわずかだ。

 村の配置がどんなふうなのかは、記憶があやふやだし、ましてや村の外に埋められた魔結晶の位置なんて、サーチートが見せてくれている地図だけでは正確にわからない。

 そんな状態で箱庭の結界は成功するのだろうかと言うと、大丈夫です、とアルバトスさんは頷いた。


「大丈夫ですよ、オリエさん。私が、サポートしますから」


「サポート?」


 はい、と頷いたアルバトスさんは、私の肩に手をかけ、「リンク」と唱え、続けて「スカイ・アイ」と唱える。

 すると、私の頭の中に、空からシルヴィーク村を見下ろしているような映像が広がった。

 きっとこれは、アルバトスさんが見ているものを、私に見せてくれているのだろう。


「オリエさん、見えていますか?」


「はい」


「これは、今のシルヴィーク村を、上空から見た所です。スカイ・アイという魔法で私が見ている景色を、あなたに見ていただいています。この映像に、あなたが作った魔結晶の位置を重ねます」


 村を囲う森の中に、白い光が見えた。

 サーチートが見せてくれた地図だけでなく、今の映像を見せてもらえた事で、距離感が掴めたような気がする。

 それにしても、アルバトスさんはすごい人だ。

 確か学者の家系って言っていたけれど、いろんな呪文を知っているだけでなく、実際に使えるなんて……この人は一体、何者なのだろう。






「あ……」


 森の中にある、シルヴィーク村へと続く道に、私はユーリとジャンくんの姿を見つけた。

 二人は、ギリギリ魔結晶で繋ぐ結界範囲内の内側に居て、シルヴィーク村へと続く道の先を見つめていた。

 道の先に、何があるのだろう?

 私の疑問はアルバトスさんに伝わったらしく、映像はユーリが見つめていた方向へと移動する。

 そこには、大勢の兵士たちを引き連れた、ジュニアスとノートンが迫ってきていた。


「アルバトスさんっ! ジュニアスたちがっ!」


「えぇ、思ったよりも、早かったですね」


 アルバトスさんにとっても、これは予想外の事だったらしい。


「急がなきゃ、このままだとユーリが、またジュニアスと戦う事になっちゃうっ!」


 私がそう言うと、そうですね、とアルバトスさんは頷いた。


「オリエちゃん、急がなきゃ!」


「うん、そうだね!」


「ねぇ、オリエちゃん、箱庭の呪文、こう唱えて! きっと効果があるから!」


「え? う、うんっ」


 私の手の中でひっくり返ってお腹……スマホを見せてくれたサーチートが、ドヤ顔で笑った。

 お腹のスマホには、私が唱えるべき呪文が表示されている。


「オリエちゃん、頑張って!」


 うん、と頷いて――私はサーチートのお腹に表示されている呪文を唱えた。


「真聖女、糸井織絵が祈る。聖なる防御結界で、このシルヴィーク村に害するものを拒み、穏やかな時間を与えたまえ……ミニチュア・ガーデン!」


 呪文を唱え、私はアルバトスさんが見せてくれている映像の中の、白い点を繋いでいく。

 この白い点に見えるものは、私が大量に作った魔結晶だ。

 そこから感じる自分の魔力を頼りに、私は頭の中で白い点を繋いでいく。

 そして白い点を繋ぎ終わった時、魔結晶は光り輝き、シルヴィーク村を囲うように白い光の壁を出現させた。

 そしてその光の壁が、ユーリを狙い、ジュニアスが投げた槍を弾いたのが見える。


「あの、アルバトスさん……成功、しましたよね?」


「えぇ」


「もう、大丈夫でしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ。オリエさん、ありがとうございました」


 アルバトスさんはそう言うと、私に頭を下げた。

 周りで見守っていてくれた村の人たちも、歓声を上げて喜んでくれている。

 きっとみんな、ジュニアスの報復を恐れていたんだろう。


「私の方こそ、いろいろとありがとうございます! あの、ちょっと行ってきます!」


 私はそう言うと、サーチートを抱えたまま、今ジュニアスを前にしているはずのユーリの元へと走り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る