第34話・再会
「召喚が使えるとは大したものだが、そんな間抜けな獣を喚びだして、どうするつもりだ?」
召喚魔法を使ったけれど、喚びだしたのは小さなサーチート。
サーチートを以前に見てはいるものの、間抜けな姿しか見ていないジュニアスはそう言ったが、サーチートに刺された事がある兵士たちは、
「ジュニアス様、あの魔物は危険です!」
と騒ぎ立てていた。
その兵士たちの声が聞こえたのだろう、サーチートは私の腕から飛び降りると、体の針を逆立て、兵士たちにドヤ顔で笑いかける。
私は顔を引きつらせた。
どうしてこの子は、こんなにもお調子者なんだろう。
まぁ、そのあたりも含めて可愛らしくはあるんだけどね。
「オリエちゃんをいじめると、ぼくがチクチクアタックをお見舞いするぞ!」
ドヤ顔でサーチートがそう言うと、
「ははっ、それは、勘弁してもらいたいものだな」
笑いながらジュニアスが、指先をサーチートの小さな体へと向けた。
ジュニアスが小さく何かを唱えると、彼の指先が起こした風が、サーチートへと向かう。
サーチートの小さな体はその風を受けると、コロコロと地面を転がり、私は転がったサーチートを慌てて回収した。
サーチート、今はチクチクアタック、止めておいたほうがいいよ。
「さて、オリエ。もう一度言おうか。張り切って召喚したその生き物は、少し風が吹けば地を転がってしまうようだが、それでどうするつもりなのだ?」
確かに、どうしようか。
私が言葉に詰まっていると、代わりに答えたのは、サーチートだった。
「大丈夫だよ! ぼくとオリエちゃんが一緒に居れば、何だってできるんだ!」
サーチートはその体のどこから出したのかはわからないけれど、棒のようなものを握っていて、私を見つめ、言う。
「オリエちゃん、これに火をつけて!」
「え? わ、わかった!」
言われるままに、サーチートが持つその棒へと、小さくファイアと唱えて火を点けると、棒の先に灯った炎が一度大きく燃え上がり、気が付くとそばに誰かが居た。
「サーチートくん、 偉かったですね。ちゃんと役目を果たしましたね」
と言った男の人の声を、私は知っていた。
「先生!」
と言って、私の腕から飛び出したサーチートが、その人へと飛びついた。
「待たせてしまったね、オリエ」
ぽん、と私の肩に手を置いた人の声も、私は知っている。
「迎えに来たよ、オリエ。やっと君に会えた」
ユーリはそう言うと、綺麗な金色の瞳を細めて、優しく笑った。
「何のつもりだ、ユリアナ! 一体どうやってここへ……お前には、王宮に入る許可を出してはいないぞ!」
腰に下げていた剣を引き抜き、鋭い剣先をユーリに向けて、ジュニアスが言った。
「あなたの許可など、どうでもいい。私は、オリエを迎えに来ただけだ」
私を背に庇い、ユーリが言い放つ。
私は嬉しくて、安心して、ユーリの背中に自分のおでこをくっつけた。
ユーリ、本当に私を迎えにきてくれて、ありがとう……。
「ユリアナ! その女は聖女だ。連れて行くとなれば、これは間違いなく国家反逆罪だぞ。オリエ、ユリアナたちと行けば、ユリアナもアルバトスも犯罪者だ。地の果てまで追いかけて、必ず殺す! それに、そいつらが住むシルヴィーク村の住人も、同罪だ。一人残らず、皆殺しにしてやる!」
「え? そんなっ……」
ユーリとアルバトスさんだけじゃなく、シルヴィーク村のみんなを殺すって、そんなのひど過ぎる……。
「なぁ、オリエ、わかるだろう? ユリアナたちと、シルヴィーク村を守るためには、ここに残って、私のものになればいいんだ……」
権力を笠に、ジュニアスは汚い手を使ってきた。
だけど、ユーリやアルバトスさん、シルヴィーク村のみんなが殺されるのは嫌だった。
だからジュニアスの言葉に従うべきかと迷っていると、
「オリエがジュニアスの元に行っても、ジュニアスは私や伯父上を殺すと思うよ」
と淡々とユーリが言った。
「村のみんなだって、そうだ。だから、君が本気でジュニアスのものになりたいというなら別だけど、そうでないなら、私たちに君の運命を、かけてくれないか?」
「ユーリ……」
「もちろん、私たちも何も考えずにここに来ているわけではないさ」
ユーリはそう言うと、ちらりとアルバトスさんへと目を向けた。
アルバトスさんは優しく緑の瞳を細めて笑って、頷いてくれる。
私は、ジュニアスのものになんかなりたくなかった。
私は、サーチートやユーリ、アルバトスさんの元に居たい。
「わかった! 迎えにきてくれてありがとう、ユーリ、アルバトスさん!」
頷くと、ユーリが嬉しそうに笑う。
ユーリが笑うと、私も嬉しかった。
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