第33話・売られた喧嘩を買ってみた


 やった! 先に手を出させてやった! ざまぁみろ!

 とか思ったけれど、ジュンの放ったファイヤーボールは、私目がけて飛んできているわけで、私のピンチは続いている。

 まずはこれを、なんとかしなくてはいけない。

 当たったら火傷しそうだし、死んじゃうかもしれない。

 だから、防ぐ。魔法の盾で防ごう――雷の盾だってあるのだから、当然他も盾もあるだろう。

 なので、飛んでくるファイヤーボールに向かって手を突き出し、


「ウォーターシールド!」


 と叫ぶ。すると、突き出した手の先に水の盾のようなものが現れ、私に向かって飛んできていたファイヤーボールを、かき消してくれた。

 ウォーターシールド、成功だ!


「ほう、見事だな」


 というジュニアスの声が、耳に届く。褒められたようだが、全く嬉しくない。

 ジュンは、まさか私がファイヤーボールを防げるとは思っていなかったのだろう、


「生意気なっ!」


 と叫ぶと、再びファイヤーボールを連発してきた。

 私はまたウォーターシールドで自分の周りを防御しつつ、私からそれて違う方向に飛んでいくファイヤーボールに向かって、


「ウォーターボール!」


 と呪文を唱え、そちらの方向を指差した。

 私の指先から現れたウォーターボールは、ジュンのファイヤーボールに命中し、消滅させる。

 良かった、成功して。それたファイヤーボールの先には、ナディア様とアニーさんが居たんだよね。危ないところだったわ。


「どうして? どうしてあんたが、ウォーターボールを使えるの? あんたは、盾の聖女なんでしょ? 盾の聖女は、攻撃系の魔法が使えないはずじゃないの? あり得ないでしょっ!」


 あり得ないと言われても、そんなの知らない。

 だって、使えないはずって言われても、最初からステータスにはすべての呪文が使えるって書いてあるし、もしも盾の聖女っていうのが、攻撃魔法が使えないのだとしたら、私はやはりその盾の聖女とは違うという事なのだ。


「私は、盾の聖女じゃない。私のステータスには、盾の聖女って書いてない」


 と言っても、何て書いてあるかなんて、言うつもりはないけど。


「あなたのステータスには、矛の聖女って書いてあるの? ステータスって唱えれば、見られるんだよ。知らない?」


 私がそう言うと、ジュンは顔を真っ赤にし、叫ぶように言う。


「わ、私のステータスには、矛の聖女って書いてあるわよっ!」


「そう?」


 本当かどうか疑わしかったけれど、特に追及するつもりはなかった。

 だって、どうだっていい事だから。






「お前こそが、真の聖女だったか」


 ジュニアスがそう言うと、


「違う! 違います、ジュニアス様!」


 とジュンが叫んだ。

 真聖女……確かに私のステータスにはそう書いてあったけれど、私は何も言わなかった。

 言ったら、ものすごく面倒な事になると思う。


「ジュニアス様! その女じゃない! 私が本当の……私はその女に、力を奪われているだけです!」


 ジュンは、どうしても聖女になりたいようだったけど、力を奪ったとか、そんなの私は知らない。


「その女を殺して、力を奪い返しさえすれば……」


「いや、もういい。この女はこの国に、いや、俺の野望に必要な女だ。いくらお前でも、この女への手出しは許さん」


「ジュニアス様!」


 ジュニアスに私に手を出すなと言われたジュンは、とてもショックを受けたようだった。

 だけど、これで一安心かと問われると、そうではない。

 今度は、ジュニアスやノートン、それから大勢の兵士たちに囲まれる事となってしまった。


「オリエ、だったな。俺のものになれ。俺に仕えろ」


「嫌だ」


 私は首を横に振った。

 するとジュニアスはニヤリと笑って、指をパチンと鳴らし、兵士たちに合図を送る。

 ジュニアスの合図を受けた兵士たちは、私に剣や槍などの武器を向けた。

 これは……ジュニアスの言う事を聞かないと、殺すって事?

 ジュンを相手にしていた時よりも、面倒な事になっちゃってるんじゃない?


「なぁ、オリエ……。お前のその力、俺は大変すばらしいものだと思っている……。だから、もう一度言う。俺のものになれ」


「嫌よっ」


 私は再度、首を横に振った。

 二度拒絶してしまったから、私は殺されてしまうのだろうか――そう思ったけれど、私の存在は彼の中でかなり利用価値が高かったらしく、兵士たちに、


「殺さずに、捕らえろ」


 と命令をしただけだった。

 だけど、ここで捕らえられては、もう逃げ出す事はできないだろう。

 多分、どこかに閉じ込められて全ての自由を奪われ、ジュニアスの言う事を無理矢理聞かされるのだろう。

 そして、それでもいう事を聞かなければ、今度こそ殺されてしまうのかもしれない。

 私は、何としてもここから逃げ出さなくてはと思った。

 だけど、それは私一人では無理だった。

 だから、仲間を――相棒を喚ぶ事にする。


「おいで! 召喚、サーチート!」


 ジュンに燃やされてしまった、両親との写真の裏に書き込まれていたのは、


『オリエへ。「召喚」と唱え、サーチートを呼べ』


 というものだった。

 多分、このメッセージを書き込んでくれたのはユーリで、ジュンのせいで遅くなってしまったけれど、私はユーリからのメッセージを実行した。

 すると、足元に淡い光を放つ円が浮かび上がり、その中から何かが――懐かしい可愛い子が飛び出してくる。


「オリエちゃーんっ!」


 そう言ってとびついてきたハリネズミのぬいぐるみを、私はしっかりとキャッチした。


「オリエちゃーんっ! 心配してたんだよーうっ!」


 サーチートは私の服をべちょべちょにするくらい、わんわん泣いて、私もサーチートと再会できたのが嬉しくって、ちょっと泣いてしまった。


 サーチート、やっと会えたね。

 私もずっと、会いたかったよ。

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