第24話・ナディア様の話



「ナディア様、私はこちらの世界に召喚されてから、ユーリ……ユリアナ王女の元でお世話になっていたのですが、無理矢理こちらへ連れてこられました。ナディア様は、今のユリアナ王女やアルバトスさんの事を、何かご存知ではないですか?」


 私がそう尋ねると、ナディア様は少し考え込み、口を開く。


「わたくしは、直接お会いしていないので、詳しい事はわからないのですが、ユリアナ様はあなたを追いかけて、すぐに王宮まで来られていたと聞いています。お怪我もされていたとの事でした。だけど……ジュニアス様が、ユリアナ様を追い返されたそうです」


「えっ」


 教えてもらった情報を、一つずつ整理しよう。


 まず、自分が五日間も眠っていた事……驚いたし、知らない間に若返っていたりしたけれど、これはひとまず置いておく。


 次に、ユーリたちの事だ。

 きっと、私を助けるために、追いかけてきてくれたのだろう。

 だけど、追い返されてしまったという事は、私がユーリたちと連絡を取るのは、難しい事なのかもしれなかった。

 怪我をしていたとナディア様は言ったけど、どのくらいの怪我なんだろう。

 私を追いかけてきた時に、ジュニアスやノートンに、またひどい事をされたのではないかと、心配になる。


「ユリアナ王女たちの怪我の具合がどうだったかとか……ご存じの方は、いらっしゃいませんか?」


 私がそう言うと、ナディア様は、ちらりとアニーさんへと目を向けた。

 ナディア様の視線に頷き、アニーさんは前に進み出る。


「それは、私から……。ユリアナ様とアルバトス様は、王宮に来られた時には、外見的には、かすり傷くらいだったと思います。だけど、ジュニアス様に風の呪文で何度も吹き飛ばされて、建物に体を強く叩きつけらっしゃいました。最後にはユリアナ様は気を失われていて……命には、別状ないとは思うのですが……」


「そう、ですか……」


 ジュニアスが使った風の呪文……あのウインドウォールというものだろうか。

 風の壁で、対象を吹き飛ばす呪文か。

 くそう、ジュニアスめ! ユーリやアルバトスさんにひどい事をしやがって!

 あの男、いつか絶対にぶっとばしてやる!






「あの……盾の、聖女様……」


 恐る恐る、といった感じで、ナディア様が私に声をかけてきた。

 何でしょうと言って、ナディア様の言葉を待っていると、彼女はとんでもない事を言い始めた。


「あの……あなたも矛の聖女様と同じように、ジュニアス様と、その……」


 最後の方は声が小さくて、聞き取りづらかったけれど、なんとなくわかった。

 ナディア様は、私とジュニアスの関係を疑っているわけだ。


「そ、そんなのっ、絶対に、ありえません!」


 私はナディア様に、必死にそう言った。

 ナディア様には悪いけど、あのジュニアスとそういう関係になるなんて、真っ平ごめんだ!

 ジュニアスはユーリやアルバトスさんだけでなく、ジャンくんやモネちゃんにまでひどい事をした。

 それに何より、あの男は私を殺したのだ。

 実際に私を殺したのはノートンだけど、ジュニアスはそれを命令したのだ。


「絶対、嫌です! 絶対にあり得ませんから、ナディア様、どうか安心してください!」


「あ、ありがとう、ございます……」


 ナディア様はそう言うと、ほっとしたような表情をし、その綺麗な青い瞳から、ぽろりと涙を零した。

 あんなひどい男だけれど、この美しい人は、あの男を愛しているのかもしれない。

 あんな男、止めておいた方がいいですよ、と言いかけたけど、私はその言葉を飲み込んだ。

 ナディア様は多分、ジュニアスが何をしているか、どんな男かって事を理解した上で、あの男の事を愛しているのだ。


「ところで、盾とか矛の聖女って、一体何なのですか? 先程、アニーさんにも言ったんですけど、私の事は、オリエでいいです。というか、オリエって呼んでほしいです」


 ナディアさんもアニーさんも、私の事を盾の聖女と呼んでいる。

 この呼ばれ方は、一体何なのだろう?


「わかりました……あなたがそうお望みなら、そうお呼びすると致しましょう……。あの、オリエ様……」


「はい」


「盾の聖女とは、あなた様の事でございます。それから、矛の聖女は、もう一人の方……ジュン様の事ですわ。あの矛の聖女は攻撃呪文に優れてらっしゃって、聖女というよりも、勝利の女神のようだとジュニアス様はおっしゃっていました」


「はぁ……」


 ジュニアスが言っていたって、あの男、ナディア様という妻の前で、他の女の話をするの?


「ジュン様は……とても、自分に合う、素晴らしい女性なのだそうです……。わたくしと違って……」


 ナディア様はそう言うと、寂しそうに笑って俯いてしまった。

 ナディア様にこんな顔をさせるなんて、あの男、やっぱり許せん!


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