第23話・ナディア様


 食事が終わると、アニーさんは部屋にあったワードローブの中を確認して、私に服を選んでくれた。

 これから人に会うのだから、その格好では失礼にあたるというのが、彼女の言い分で、今私が着ている服は、寝衣のような物だったらしい。

 体を締め付けない、ゆったりとしたデザインだったので、楽でいいなぁと思っていたのだけれど、寝衣というなら仕方がないと、私はアニーさんが選んでくれた服へと着替えた。


 アニーさんが選んでくれた服は、水色のドレスのようなワンピースだった。

 細かいレースがたくさんついていて、可愛すぎて私には無理って思ったけれど、鏡を見ると、今の私には良く似合っていた。


「では、参りましょう」


「はい」


 右も左もわからないので、素直にアニーさんについていく。

 これから会うのが誰なのかはわからないけど、アニーさんはご飯をくれたので、いい人という事にした。


「アニー様、この者の外出は控えさせるようにと、ノートン様より言われております!」


 部屋から出ると、部屋の外には兵士が二人いた。

 彼らは森の中で私を殺そうとしていた兵士のうちの二人で、私は思わず身構える。

 だが彼らは私を見ると、「えっ! お、お前っ」と言って驚き、頬を染めた。

 何なんだろう? 以前殺そうとした私が王宮に居るから、気不味いのか。

 それとも、アニーさんの可愛らしさに照れているのか。


「この方にお会いしたいと、ナディア様が仰せなのです。あなた方は、ナディア様にここまで来いと言うおつもりですか?」


 アニーさんは兵士たちに、ぴしゃりと言い放つ。

 うぉ、アニーさん、カッコいい!

 兵士たちは何も言い返す事ができないまま、二人して俯いてしまう。


「では、オリエ様、行きましょう」


「はいっ!」


 歩き始めたアニーさんについて、私も歩き出す。

 いやぁ、アニーさんって、しっかりした人だなぁ。

 王宮の侍女さんって、みんなこんなにしっかりしているのだろうか。


「オリエ様、こちらですわ」


 やがて、アニーさんはある部屋の前で足を止めた。


「今からオリエ様が会われる方は、私にとって命よりも大切な方なのです。もしもあの方に危害を加えようものなら、あなたが何者だとしても許しませんので、くれぐれも失礼のないように、お願いいたします」


「わ、わかりましたっ……」


 アニーさんが、命よりも大切だと思っている人か。

 私が頷くと、それを確認したアニーさんは、静かにドアをノックした。






「ナディア様、失礼いたします」


 アニーさんがそう言うと、中から小さな声で、「どうぞ」と返ってきた。

 アニーさんに続き、私は恐る恐る部屋の中へと入って行く。


「ナディア様、オリエ様をお連れしました」


 アニーさんがそう言って、綺麗にお辞儀をする。

 私もアニーさんに倣ってお辞儀をして……顔を上げた瞬間、目の前に居た女性の姿を、うっとりと見つめた。


 目の前の女性――ナディア様は、とても美しい方だった。

 白い肌に、金色の髪、サファイアのような青い瞳……耳がとんがっていたら、間違いなくエルフだと思うくらい、彼女は美しく神々しかった。

 この異世界に来てから、男女共に美形ばかりだと思うけれど、ナディア様は間違いなくトップクラスで、タイプは違うけど、ユーリと一位を争う美女だ。

 そしてこの美女は私を見つめると、可愛らしい綺麗な声で、とんでもない事を告げたのだ。


「初めまして、盾の聖女様……。わたくしの名前は、ナディア・オルブリヒト……ジュニアス・オブルリヒト様の妻、です」


「えーっ!」


 驚き、思わず叫んでしまった。

 私の声に驚いたのだろう、目の前のナディア様が、びくりと体を震わせた。


「オリエ様っ」


 咎めるようなアニーさんの声に、私は我に返ったけれど、まだ落ち着く事はできなかった。

 だって、ジュニアスの妻だって! この綺麗で優しそうなナディアさんが!

 あんな男に、この人は絶対にもったいないよ!


「盾の聖女様、お、お元気そうで、良かったですわ」


 小さな声でそう言うと、ナディア様は優しく微笑んだ。


「ジュニアス様が、あなたをこちらに連れて戻られてから、あなたは五日間、ずっとお眠りになっていたと聞いています。だから……お元気になられて、良かったですわ」


「い、五日間も、私、寝ていたんですか?」


 また驚いて、声が大きくなってしまったようだった。

 ナディア様はまたびくりと震え、私はまたアニーさんに睨まれてしまったのだけど、驚かずにはいられなかった。

 だって、五日間って、そんなに経っているのなら、サーチートやユーリはどうなったのだろう?

 まさか処刑されたとか……いくらなんでも、それはないよね。


「とりあえず、お掛けになってください。お茶のご準備を致しますわ」


 アニーさんの言葉に、私は頷いた。

 お茶をいただいて、少し落ち着かねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る