第22話・目覚め


 はて、ここはどこだろう?

 目を覚ました私は、周りを見回して、知らない場所に首を傾げる。

 私はベッドに寝かされていたんだけど、ここはアルバトスさんが貸してくれた部屋ではなかった。

 ベッドも調度品も、アルバトスさんが貸してくれた部屋のものよりも豪華な物ばかりで、見覚えのない部屋と物に、混乱する。


「サーチート!」


 自分の事を、騎士だの使い魔だのと言う相棒の名前を呼んでみるが、そばに居ないらしく、反応がない。

 またアルバトスさんにくっついて勉強をしているのかと思ったけれど、ここはアルバトスさんの家ではないようだし、離れた場所にいるのかもしれない。


 一体、何があったんだっけ?

 頭が少しぼうっとしたけれど、森で傷ついたジャンくんとモネちゃんに会ったのを思い出してから、私は全てを思い出した。

 鏡の魔道具を使って、元の世界の私の命が奪われてしまった事も、全て。

 そうかぁ、私、死んじゃったんだよね。

 この世界では、まだ生きているみたいだけど。


 一時的ではあるけれど、元の世界とこの異世界で、二人同時に存在していた私。

 このまま二人同時に存在し続けるっていうのは、できなかったのかもしれないとは思うけれど、まさか元の世界の私が、この異世界からの攻撃で死んでしまう事になるとは思っていなかった。

 自分の四十七年の人生を振り返り、良い人生だったのか、悪い人生だったのか、わからない。

 幸せか不幸かだなんて、人それぞれだけれど、私の人生はどうだったのだろう?

 でも、私なりに一生懸命生きてきたはずだ。

 そして、この異世界でも、私は私なりに一生懸命に生きていきたい。






 途中で気を失ってしまったから、よく覚えていないのだけれど、ユーリやアルバトスさん、怪我をしていたジャンくんとモネちゃんは大丈夫だろうか。

 ジャンくんとモネちゃんの怪我は、ヒールを唱えて、できる限りの手当てをしたと思うけど、ジュニアスやノートンがみんなを攻撃していたような気がする。


 で、今の私なんだけど、この場所はやっぱり、オブルリヒトの王宮なのだろうか。

 ジュニアスとノートンは、私をユーリの元から奪ってきたって事よね。

 一体私をどうするつもりなのだろう。

 ユーリやアルバトスさんが言っていたように、私をどこかに閉じ込めて、聖女の役目っていうのを背負わせるつもりなのだろうか。

 とりあえず、ここはオブルリヒトの王宮ではあるだろうけど、周りがどうなっているかを確認しようと思い、私は起き上がり、ベッドから降りて違和感に気づく。

 なんか、体が軽いのだ。

 ふと、自分の腕に視線を落として、驚いた。

 腕がね、すごく細いの。一体どういう事なのだろう?

 私は、部屋の調度品の一つである、姿見へと足を向けた。

 そして――。


「誰?」


 姿見に映った黒髪の細身の女の子に向かい、首を傾げたのだった。


「え?」


 私が首を傾げると、鏡の女の子も首を傾げる。

 一体どういう事だ?

 もしかしてこの女の子は、私って事か?

 頬をつねってみると、鏡の女の子も自分の頬をつねっていた。

 うわ、この女の子、私だ! マジか!

 女の子――今の私は、黒髪はそのまま、瞳の色はラピスラズリのような、濃い青になっていた。

 シミ一つ無い白い肌をしていて、以前の私についていた分厚い肉など、どこにもついておらず、華奢な美少女?だった。

 私は腰に手を当てる。細い! なんだこの腰の細さは!

 夢にまで見た、くびれではないか!


「やだ、嘘、くびれ! くびれがある! くびれー!」


 生まれて初めて手に入れたくびれに感動し、大はしゃぎしていると、ドアがノックされた。

 誰かは知らないけれど、返事を待たずにドアを開けるものだから、くびれを手に入れて大はしゃぎしている恥ずかしい姿を見られてしまった。

 相手はダークブラウンの髪に明るい緑の目の若い女の子で、侍女かメイドぽい?

 彼女は私の行動に一瞬あっけに取られていたようだったが、すぐに笑顔になり、こう言った。


「お目覚めになられましたのね。ようございました。私は、ナディア様の侍女で、アニーと申します」


「アニーさん、ですか」


「はい、アニーでございます」


 名乗ってくれたから、こちらも名乗るべきなのだろう。そう思った私は、自己紹介をした。


「糸井織絵です。よろしくお願いします」


 そう言ってペコリと頭を下げると、


「よ、よろしく、お願いします」


 アニーさんからは、微妙な反応が返ってきた。

 なんなのだろう、この反応は。挨拶をするところではなかったのだろうか。


「あの、アニーさん、ここは、どこですか?」


「オルブリヒト王国の、王宮の一室でございます」


「あの、私はどうして、ここにいるんですか?」


「それは……ジュニアス様が、あなたを連れて戻られたのでございます」


「そう、ですか……」


 やっぱりそうだったか……私は深いため息をついた。

 私がここに居て、サーチートやユーリがそばに居ないという事は、私はジュニアスに無理矢理連れて来られたのだろう。

 サーチートやユーリたちは無事だろうか?


「あの、盾の聖女様……」


「盾の聖女? それ、何ですか?」


「あなた様の事でございます」


「え?」


 盾の聖女? なんだろう、その呼び名は。初めて聞く呼び名だった。


「あの、オリエでいいです。盾の聖女とか……何の事やら、さっぱりわからないです……」


 私がそう言うと、アニーさんは頷いてくれた。


「では、オリエ様……」


「はい」


「お体の具合は、いかがですか? もしもよろしければ、食事の用意でも致しましょうか? そして……私の主人に会っていただきたいのですが……」


 アニーさんの主人って、さっき言ってた、ナディア様って人なのかな。

 一体誰なのだろう?

 すごく気になったけれど、会わせてくれるというのなら、焦る必要はないだろう。

 わかりましたと頷いて、私はアニーさんに食事を用意してもらう事にした。

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