第21話・夢
夢を見ていた。元の世界の夢だ。
多分これは、元の世界での、私の最後の記憶だ。
仕事帰りにコンビニに寄ったのは、一週間頑張って仕事をしたご褒美に、甘い物でも買おうかと思ったからだ。
土日の休みは、家でゆっくりのんびりするつもりだ。
撮り溜めしていたドラマとアニメを見て、ゴロゴロする――なんて幸せな休日なのだろう。
そんな休みの使い方はもったいないと言う人も居るけれど、私にとってこれは幸せな事なのだから、それでいいのだ。
目的の甘い物を買ってコンビニを出たところで、私は誰かとぶつかって、転んでしまった。
ぶつかった相手はヒョウ柄の服を着たお姉さん……ではなく、おばさんだった。
彼女は細くて、私みたいにみっともなく太ってはいなかったけれど、高いヒールを履いて、ミニスカートを穿いて、ものすごくファンデーションを塗りこんでいて、明らかに若作りしているように見える。
メイクを取ったら、絶対に別人って言われそうな女の人――多分、私と同年代か、年上だろう。
「何してくれんのよ、アンタ!」
若作りのヒョウ柄の服を着たおばさん(多分)に、怒鳴られてしまった。
いや、ぶつかってきたのは、アンタの方だと思ったけれど、とりあえずスミマセンと言って、立ち上がる。
ヒョウ柄おばさんは、何かすごく焦っているみたいで、私と同じように立ち上がると、すぐにこの場を去ろうとしたんだけど、
「おい、居たぞ!」
という男の人の声が聞こえた瞬間、どん、と私を突き飛ばした。
突き飛ばされた私は、わけがわからないまま、後ろによろめいて、誰かにまたぶつかる。
その時に、腰のあたりに痛みが。
一体、どうしたのだろう?
「きゃあーっ!」
近くに居た女性が、悲鳴を上げた。
そして、その場に倒れた私は、自分が後ろから誰かに腰のあたりを刺されてしまった事を知る。
「くそ、あいつ、他人を身代わりにしやがったっ」
私を刺したと思われる男が、そんな事を言ったのを、私は刺された腰の痛みを堪えながら聞いていた。
この男が言った「あいつ」とは、先程のヒョウ柄のおばさんの事だろうか。
あのヒョウ柄のおばさんは、私を突き飛ばした後、私の事を一瞬見つめたが、すぐに背を向けて走り去っていた。
「待て、コラァ!」
私を刺した男が、倒れた私を飛び越えて、走っていく。
地面に倒れたまま、私は、男が何か光る物――多分、刃物だ――を振り上げながら、ヒョウ柄の服を着たおばさんを追いかけていくのを、ぼんやりと見ていた。
それから、ヒョウ柄のおばさんは、すぐに捕まって、男が手にした光る物を、何度も何度も振り下ろされていた。
あの光る物は、ナイフか、包丁か……どちらにしてもあのおばさんは、めちゃくちゃ刺されているようだった。
あの人大丈夫かな、あれだけ刺されたら死んじゃうんじゃないかな。
「あの、大丈夫ですか!」
力なくぼんやりと、目の前で繰り広げられる惨劇を見ていた私に、かけられた声。
「救急車を呼びましたからね! しっかりしてください!」
周りに居た人たちが、私のために救急車を呼んでくれたようだった。
だけど、刺された腰が痛くて、頭がぼんやりして、何も言えなかった。
多分、刺された事による出血多量が原因だろう。
「しっかり! もうすぐ救急車来るから、しっかり!」
周りの人たちが、何度も何度もそう言って励ましてくれたけれど、私はそれに応える事ができずに、意識を手放してしまった。
あぁ、そうか。
こんな事があったから、私は包帯を巻かれて、いろんな管をつけられて、病院に入院していたんだね。
そして私は、意識不明のまま、異世界から攻撃されて……本当に死んでしまったのだ――。
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