第19話・ジュニアス来襲
「何者って、どういう意味ですか? 私の事は、みんなして、醜く太った豚女だとか、年増だとか、そんなふうに言っていたじゃないっ!」
そう言うと、確かに、とジュニアス王子は頷いた。
この人、本当に失礼な人だな。めちゃくちゃムカつく!
「だが、そうではない可能性がでてきたのだ」
「どういう事?」
話を聞くふりをして、私はアルバトスさんの家の方へと、ちらりと視線を送った。
アルバトスさんは魔法陣作成の作業中かもしれないけれど、ユーリは気づいてくれないかな。
それに、サーチートだ。私の騎士だの、使い魔だのって言ってたじゃない。
ねぇ、サーチート、今、私、すごくピンチみたいなの!
私の魔力で動いているっていうのなら、お願いだから気づいて、助けに来て!
その願いが届いたのか、
「オリエちゃん!」
という、サーチートの可愛い声が聞こえた。
声がした方に目を向けると、サーチートがこちらに走って来るのが見えた。
その後ろを、ユーリとアルバトスさんが追いかけて来る。
「オリエちゃんっ!」
サーチートは私の足元まで来ると、ジュニアス王子とノートンを見て、体の針を逆立てた。
ユーリとアルバトスさんは、私とサーチートを庇うように、私たちの前に立つ。
「兄上、何か御用ですか?」
低く緊張した声で、ユーリがジュニアス王子に問う。
ジュニアス王子は唇の端をくいと引き上げてユーリを見ると、
「何か用、か……。お前の様子を見に来た、とでも言っておこうか。呪いの毒は消えたようで、良かったな。美しき我が妹よ」
と言う。
慌てて飛び出してきたのだろう、ユーリは仮面をつけていなかった。
「ユリアナ、呪いが解けたなら、父上に報告するべきだろう。それは、いつ治ったのだ? この女がやったのか?」
ジュニアス王子は、私を指さして言った。
だけどユーリは、私を背に庇い、首を横に振る。
「いいえ、違います。これは、伯父上が治してくれたのです」
「アルバトス殿が? 今までできなかったのに? それは、おかしいだろう?」
「いえ、先日、もう一度家にある書物を全て調べ直し、見つけたのです。あの呪いの毒の消す方法を!」
「ほう……」
ユーリはそう言ったけど、ジュニアス王子もノートンも、疑っているのは明らかだった。
「まぁ、いい。さて、俺とノートンがここまで来た真の目的だが……その女に会いに来たのだ」
「何故?」
「それは、その女も、聖女である可能性がでてきたからな。それを確かめにきた」
「え?」
どういう事だろう?
今、ジュニアス王子は、私も聖女の可能性があるって言った。
この言い方って、もう一人のあの女の子も、私も、二人とも聖女という可能性があるっていう事?
「彼女は、違いますよ。それに、兄上にしてオブルリヒトにしても、あの若く美しい聖女殿が居れば、それで良いのではないですか? 兄上はこの人を、王宮から追い出したではないですか」
ユーリの言葉に、あぁ、とジュニアス王子は頷いた。
「確かにそうだ。認めよう。俺自身も、オブルリヒトも、金の獣の衣を纏い、この世界に召喚された、若く美しいジュンが居ればそれで良かったし、その女は召喚に巻き込まれただけの年増女のはずだった……。だが、そうではない可能性がでてきたのだ」
あの若くて綺麗な子は、ジュンって名前だったのか。
ジュニアス王子のは、ジュンって子の事を、かなり気に入っているようだった。
二人はやっぱり、そういう関係なのだろうか。
「兄上、その可能性って、何ですか?」
「それは、確かめれば済む事だ。そのために俺たちはここに来たのだからな。ノートン!」
ジュニアス王子がノートンへ合図を送ると、ノートンは頷き、腰に下げている鞄の中から何かを取り出した。
ノートンが取り出したものは、卓球のラケットくらいの大きさの手鏡で、それを見たアルバトスさんが、
「それは、時空の鏡……」
と呟いたのが聞こえた。
そのアルバトスさんの声はノートンにも聞こえたらしく、「あぁ、そうだ」と頷いた。
「さすがは、アルバトス、これが何かを知っているな!」
ノートンはそう言うと、持っていた手鏡を私へと向けた。
鏡の中に映る私は、前にサーチートがスマホで見せてくれたものと同じ、包帯を巻かれ、いろんな管を体につけた、元の世界の私の姿だった。
「なるほど、やはりあなたは元の世界で、まだ生きているわけですね」
鏡に映った私の姿を見たノートンはそう言うと、ジュニアス王子へと顔を向け、言った。
「ジュニアス様、この者は転生者ではなく、転移者です。しかも、同時に二つの世界に存在している、まれなケースです」
「なるほど……だから、まだその姿なのか」
ジュニアス王子はノートンの解説を聞いて頷いていたが、私にはさっぱりわからない。
転生者とか転移者とか、一体どう違うのだろう?
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