第17話・魔結晶


 ユーリとアルバトスさんの呪いの毒を消して、私が元の世界に戻るのを早めようと決めた後、アルバトスさんの家を、ジャンくんとモネちゃんが訪ねてきた。

 ユーリとアルバトスさんが食事をするようになったから、新鮮な食材を届けに来てくれたのだ。


 ジャンくんとモネちゃんは、私がユーリとアルバトスさんの呪いの毒を消す事ができた事を知ると、涙を流して喜んでくれた。

 私は二人に何度もお礼を言われて、二人は私こそが本物の聖女だったのだと言って……それを聞いた私たちは、苦笑するしかなかった。


 アルバトスさんは、ジャンくんとモネちゃんに、今の私の状況を説明してくれた。

 そして、自分とユーリの痣が消えた事を、まだ誰にも言わないように口止めして、私を元の世界に戻すために協力してほしいと頼み込む。

 ジャンくんとモネちゃんは、もちろん何でも協力すると頷いてくれたけれど……せっかく仲良くなれたのに、もうお別れなのが寂しいとも言ってくれた。

 私も同じ気持ちで、ちょっと泣いてしまった。




 四人と一匹で相談をし、私を元の世界に戻すための役割分担を決めた。

 魔結晶の作り方は、ユーリが教えてくれる事になった。

 サーチートはアルバトスさんにくっついて、私を元の世界に送るための、魔法陣の作成をするらしい。

 そして、そのための材料の調達を、ジャンくんとモネちゃんが担当する事になった。

 魔法陣の作成は、三メートル四方の白い布に魔法陣を描く事で代用するらしい。

 最初は、庭に魔法陣を描くための台座を用意してくれるつもりだったらしいのだけど、時間がないから白い布に描く事にしたのだそうだ。

 アルバトスさん曰く、ジュニアス王子たちに私が本物の聖女だという事に気付かれない内に行わなければならないため、時間との勝負らしい。

 それでも、布に魔法陣を描くのも、私が必要な量の魔結晶を用意するのも、時間がかかるかもしれない事を考慮して、実行日は三日後という事になった。

 三日の間に、魔法陣作成組は魔法陣を、そして魔結晶製造組は必要な量の魔結晶を用意しなくてはならないのだ。


 魔結晶なんて物が私に作れるのかな、なんて言っている場合ではない。

 みんなの優しさに応えるためにも、なんとしても、三日間で魔結晶を作らなければならないのだ!






「手のひらに魔力を集中させて、形をイメージして、魔力を凝縮して固めるんだ……」


 魔結晶作りのユーリの説明は、それだけだった。

 説明ってそれだけ? て、思わず心の中で突っ込んだけど、多分ユーリは説明が下手なタイプなのだろう。


「試しに作ってみるから、見てて」


 そう言ったユーリの褐色の手のひらを見つめていると、その手のひらに、ぽわんと淡い緑色の光が灯ったように見えた。

 それから淡い緑の光はどんどん色が濃くなっていって、ユーリの手の中で高さ三センチくらいの三角錐の結晶体になった。これが、魔結晶らしい。


「緑色なんだね」


 と言うと、


「私は、風魔法が得意だからね。風属性の色が出たのだと思う」


 とユーリは言った。


「得意な属性ってあるの?」


「あぁ、あるよ。私は炎も地の呪文も得意な方かな。伯父上は、水と風、地の属性が得意だし」


「そうかぁ」


 私にも、得意な属性っていうのがあるのかな。

 そんな事を思いながら、ユーリに言われた通り、魔結晶を作る。

 すると、小さいけれど案外簡単にできてしまった。

 もしかして私、すごいんじゃない? と興奮気味に言うと、すごいね、とユーリも驚いているようだった。


「でも、色がないねぇ」


 私が作った魔結晶は、無色透明の三角錐だった。


「本当だ……魔結晶は、色が濃いほど上質って言われているんだけど、オリエ

のは色がないね」


「じゃあ、もしかして、失敗作って事? 使えない?」


 ユーリは少し考え込み、私の作った魔結晶をまじまじと見つめ、首を横に振った。


「いや、違う……とても上質な物だと思うよ。色がついていないのは、聖女の魔力のせいじゃないかな。その……穢れてなく透き通っていて、とても綺麗な魔結晶だ……」


「穢れてない……」


 以前のサーチートの会話を思い出し、少し複雑な気持ちになる。

 でも、上質な物ができているのなら、安心した。


「魔結晶の種類にはこだわらなくてもいいの?」


「あぁ、構わない。今回は戦闘に使うわけでもないからね。種類にはこだわらなくていいから、量が必要なんだ」


「うん、わかった」


 どのくらいの魔結晶が必要なのかはわからないけれど、今の私は魔結晶を山ほど作ればいいという事なのだろう。

 ステータスによれば、私の魔力は無限なのだそうだ。

 それなら、たくさん作れるはずだ。

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