第14話・いろいろチャレンジ


 翌日、朝食の時に、ユーリから今日はどうするのかと聞かれた私は、昨日サーチートから呪文の事をいろいろと聞いたので、それを試してみたい事を伝えた。

 今朝のごはんも食べてくれたユーリとアルバトスさんは頷き、ユーリが私に付き合ってくれる事になった。

 そして、


「オリエちゃん、ぼくたち、お互いやるべき事をしよう!」


 ドヤ顔でそう言ったサーチートに送り出され、私はユーリと共に森へと向かったのだった。




「ファイヤーボール!」


 覚えたての呪文を、森の中で見かけた魔物へ向かって叫ぶ。

 見かけた魔物は、大人の男性が思いきり手を広げたくらいの、蝶のような魔物だった。

 魔アゲハだよ、とユーリが教えてくれる。

 私が放ったファイヤーボールは、見事に魔アゲハに命中し、魔アゲハは空中で燃え尽き、魔アゲハの代わりにぽとりと何かが地面に落ちる。


「やったね、オリエ。初めて使ったんだろ? すごいね!」


「ありがとう!」


 褒められて、ガッツポーズをする私。

 だけど炎系の魔法は、気を付けないと火事になっちゃうんじゃないかと、ちょっと不安になる。


「魔法のコントロールが上手くなると、命中率も上がるし、狙った対象以外には広がらないようにする事もできるよ」


 へぇ、そんな事ができるようになるんだ。

 こりゃ、もっと練習しなきゃいけないなぁ。


「はい、これがオリエの今回の報酬だね」


 ユーリは、魔アゲハが燃え尽きたあたりの地面から何かを拾うと、私に渡してくれた。

 ユーリがくれたのは、小さな白い石のようなものだった。


「これが、魔石。魔物を倒した時に、稀に手に入れる事ができる、魔力を持った石。魔アゲハは燃えて素材が取れなかったから、魔石が手に入ってラッキーだったね」


「これが……」


 魔物を倒した時に、稀に手に入れられる魔石。

 確か、この世界の動力源的な物だったはず。


「ねぇ、ユーリ。これ、モネちゃんのところのお店で買い取ってもらえるかな? 買い取ってもらえるなら、いくらくらいになるんだろう?」


「さぁ、どうかな。それ一つじゃ、銅貨一枚にもならないかもしれないな」


「そうなの?」


「そうだよ」


 ちなみに、銅貨一枚では安いお菓子か飲み物くらいしか買えないらしい。

 子供のお小遣い程度だ。

 そうかぁ。どこの世界でも、お金を稼ぐって大変って事だな。

 魔法の練習がてら、気長にやろう。






「あ、これ、薬草じゃない? こっちは、毒消し草?」


 昨日の夜、サーチートに見せてもらった草と同じような草を見つけた私は、ユーリに聞いてみた。


「うん、そうだよ。よく知ってるね」


「昨日、サーチートが、私に教えてくれたの。これ、摘んで帰ってもいいかな。ポーションとかも作ってみたいなぁって思ってるんだけど……」


「いいんじゃないかな。家にいろいろと道具があるから、作ってみたらいいよ」


「ありがとう」


 それからユーリに手伝ってもらって、私は近くに生えていた薬草や毒消し草を集めた。


「あのハリネズミくん、勉強好きだね。君も、だけど」


「いろいろと、試してみたいんだよね。できる事を、増やしたい」


 実は、ちょっとゲーム感覚で、楽しんでいるところもあるんだけど、やっぱりユーリやアルバトスさんの呪いの毒を消してあげたい気持ちが強い。

 本当かどうかは謎だけど、ステータスが大聖女の私が作ったポーションなら、通常よりも効果があるかもしれないし。


「あのね、ユーリ。サーチートはアルバトスさんから、魔法の事も薬草の事も教えてもらっていてね、私はそれをサーチートから教えてもらったんだけど……まだ魔法初心者だし、上手くできるとは全然思っていないんだけど……異常回復呪文、試させてくれないかな……」


 私がそう言うと、ユーリは苦笑して、「気にしなくていいのに」と言った。

 だけどその後、


「オリエは、優しいね」


 と言って、つけていた手袋を取り、青紫の痣に覆われた腕を、私へと差し出してくれる。


「ありがとう」


 お礼を言って、私はユーリの腕に、そっと手を触れ握りしめた。

 異常回復呪文は、リカバー。

 元に戻れと願いながら、その呪文を唱える。

 すると頭の中に、めちゃくちゃにもつれた糸のような物のイメージが広がった。

 何なの、これ。

 驚いて、私は思わず握っていたユーリの手を放してしまった。


「オリエ、どうかした?」


 心配そうな声がかかる。

 私は首を横に振り、何でもないと言って、もう一度ユーリの腕に手を伸ばす。

 もう一度リカバーを唱えると、頭の中にまたもつれた糸のような物イメージが広がった。

 解毒の邪魔をしているのが呪いなのだとしたら、あのもつれた糸が呪いという事なのだろうか。


「オリエ、オリエ、大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


「何かあったか?」


 私はユーリに、リカバーを唱えると、もつれた糸のような物が見える事を伝えた。

 そして、これが呪いなのではないかという事も。


「あの糸を、切るか、もしくは解く事ができたら、解毒できるんじゃないかって思ったんだけど……」


「なるほど」


「ユーリ、私、やってみるよ」


 私はもう一度リカバーを唱えようとしたんだけど、ユーリに止められた。


「試すの、家に帰ってからにしないか? 今の話、伯父上にも話した方がいい……」


 ユーリの言う事は、もっともな事だった。

 私は摘んだ薬草や毒消し草を抱えると、ユーリと共に家へと足を向けた。

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