第11話・シルヴィーク村に行こう
翌日、朝食を食べた後、サーチートはアルバトスさんと勉強、私はユリアナ王女とシルヴィーク村へ行く事になった。
ユリアナ王女が、お昼ごはんはシルヴィーク村で食べようと提案してくれたのだ。すごく楽しみ!
家でお留守番をするサーチートとアルバトスさんには、ハムと卵のサンドイッチを用意して、出かける。
「ユリアナ王女、シルヴィーク村までは、どのくらいかかりますか?」
そう尋ねると、ユリアナ王女は少し考え込んで、
「君の足なら、歩いて二十分くらいじゃないかな」
と答えてくれた。
私の足で二十分かぁ、ちょっと遠いか、いい運動って感じかな。
余談だけど、この世界の時間の感覚って、日本と同じ二十四時制なので、わかりやすくてありがたいんだよね。
「村まで馬で行こうか? 買い物したら、荷物もあるだろうし」
「ありがたいけど、乗れないですよ」
「私の馬に、乗せてあげるよ?」
「いや、転がり落ちる予感しかしないです」
丁重にお断りすると、わかった、とユリアナ王女は頷いてくれた。
なので、二人でのんびりと、シルヴィーク村までの道のりを歩く。
「ねぇ、オリエ」
「はい?」
「私の事なんだけど、名前の後に、王女ってつけるの、やめてほしいんだけど」
「え? でもっ……じゃあ、なんて呼んだら……」
「ユリ……いや、今は、ユーリでいいよ」
「ユーリ様?」
「いや、ただのユーリ。様は、いらない」
でも、ユリアナ王女は、この国の王女様だしなぁと考えていると、
「とりあえず王女っていうのは、止めてほしいんだよね」
と彼女は繰り返した。何故か、ものすごく嫌そうだ。
じゃあ、ご本人の希望でもあるし、そうさせてもらおうかな。
「そうかぁ、じゃあ……ユーリって呼ばせてもらおうかなぁ」
そう伝えると、ユーリはとても嬉しそうに笑った。
彼女はとてもいい子だし、すごく綺麗な子だ。
だから、体を覆う青紫色の呪いの毒から、解放してあげたい。
「ユーリ様!」
シルヴィーク村に着くと、ユーリに駆け寄って来る若い男女が居た。
明るいブラウンの髪に、ダークグリーンの瞳をした男の子と、ピンクの髪に水色の瞳をした女の子。
彼らは昨日もユーリたちがこの村を通りかかった時に、駆け寄ってきた人たちだ。
多分、年齢は十代後半から二十代前半で、ユーリと同年代だろう。
ユーリは村に入る前に、顔を隠すために仮面をつけていた。
今日の仮面は、顔全体を覆うものではなく、額から鼻のあたりまで覆っているもので、口元だけが見えているタイプのものだ。
口元まで広がった青紫色の痣を見て、女性が口元を押さえた。
「ユーリ様、お体は大丈夫なのですかっ!」
叫ぶように言った女性に、ユーリは頷いた。
「大丈夫だ。今さらバタバタしても仕方ないだろう。残りの人生、好きなように過ごすよ。それよりも……」
ユーリはちらりと私へと視線を向けると、目の前の二人の男女に向かい、ぐい、と背中を押してくれた。
「彼女は、オリエ。オブルリヒトの聖女召喚の儀に巻き込まれて、こちらの世界に来てしまったんだ。私と伯父上でお世話をする事になってね……今日は彼女の服を買いに来た。お前たちにも、彼女の力になってもらいたい。オリエ、この二人は、この村の村長の息子のジャン・ホフマンと、何でも売ってるハロン商店の娘の、モネ・ハロンだ」
「は、初めまして、糸井織絵です」
私が挨拶をすると、ジャンくんとモネちゃんも挨拶をしてくれた。
モネちゃんが、
「オリエさん、服ならうちの店で買ってください。いろいろと置いていますから」
と言ってくれたので、私たちはモネちゃんの家の、ハロン商店へと向かう事になった。
「オリエさん、どんな服にします?」
「いや、私、この体格なんで、着られたらなんでもいい人だから……」
太っちょの女にとって、洋服選びはサイズがあるかどうかなのだ。
だけどモネちゃんは首を横に振り、
「何言っているんですか、オリエさん! うちの店にはいろんな物が置いてありますからね! オリエさんに似合う服を選びましょう!」
と言って、いろいろと服を持って来てくれた。
この世界の服って、ものすごくゆったりしていて、私のような太っちょ体形の人でも着られそうな服がたくさんあった。
モネちゃんがいろいろとアドバイスをしてくれて、私は淡いオレンジのチュニックワンピースと、黒のレギンス、太目のベルトを買った。
あとは無難に、白のシャツと茶色のベスト。
私がこの世界に召喚された時の、ジーンズと組み合わせればいいだろう。
ちなみにお金は、ジュニアス王子がくれたお金で購入した。
一時はオブルリヒトの兵士に取られかけたけど、ユーリが取り戻してくれたお金を、当初の目的通りに有効活用してやったのだ。
「いい買い物はできたかい?」
ユーリは私をハロン商店に連れて来た後は、私をモネちゃんに預けて、ジャンくんと話していたようだった。
「うん、すごく可愛いチュニックワンピースを買っちゃったよ! どう?」
オレンジのチュニックワンピースは、買ってそのまま着ていく事にした。
久しぶりに可愛い服を買ってテンションが上がってしまい、ユーリの前でくるんと回ってみせる。
おばさんが何やってるんだか、とちょっと思ったけど、彼女は頷き、似合っていると言ってくれた。
かぁ、と顔が熱くなったのは、ユーリみたいな美人に褒められたからだろう。
でも、ユーリってすごい美人だけど、すごくカッコいいんだよね。
普段着ている服もオーバーサーズの男物だし、仮面もつけているし、男装の麗人って感じ。
喋り方も女性っぽくないから、ちょっとドキドキしちゃうんだよね。
「ユーリって、いつもかなり大きめの男物を着ているよね。ドレスとかは着ないの?」
王女様なのだから、きっとドレスを着る機会もあるだろう。
今は呪いの毒のせいでこんな体になっているけれど、美人だしナイスバディだから、何を着て似合うんだろうなぁ。
そんな事を思っていたんだけど、ユーリは首を横に振った。
「ドレスはね、着ないよ。私は着飾るのが好きじゃないんだ」
「え? そうなの?」
「あぁ、そうなんだ。そんな事よりも、お嬢さん、この村の食堂で、食事でもいかがですか?」
「やだ、ユーリ、カッコいい! でも、お嬢さんじゃないよ! おばさんだよ!」
だけど、差し出された手を取らない選択肢はなかった。
ユーリの手袋をした手に自分の手を重ねると、
「いいえ、お嬢さんですよ。では、私がエスコート致しましょう」
なんて、ユーリが言って……テンションが上がった私は、多分先程以上に真っ赤になりながら、頷いた。
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