第10話・オリエの力
ご飯を食べて、お風呂をいただいてからは、私はサーチートと一緒に、貸してもらった部屋のベッドで、横になっていた。
なんかいろいろ、疲れたなぁ。
思えば、こちらの世界に来てからは、心細いし、緊張の連続だったような気がする。
「オリエちゃん、お部屋を貸してもらえて、良かったねぇ。ユリアナ王女も、アルバトスさんも、いい人だねぇ」
寝転んだ私の胸のあたりに、サーチートは居た。
にこにこ笑ってご機嫌なのが、可愛い。
どうしてこんなにご機嫌なのかと尋ねると、
「オリエちゃんとお話しできるのが、嬉しいんだよ。元の世界では、僕はただのスマホケースのぬいぐるみだけど、こちらの世界では、動けるし、お話もできるんだ!」
「そっかぁ。サーチートは、私の事が大好きなんだね!」
「うん、そうなんだよ! ぼくはオリエちゃんが大好きなんだ!」
可愛いなぁ、と思って、ぐりぐり撫でて、ふと思った。
この子は一体、どうして動いて話せるのだろう?
それに、今はサーチートのお腹の中にしまわれているスマホだって、充電していないのに、どうして使えるのだろう?
「サーチートって、どうして動けるの? もしかして、この家にあったコンロやオーブンみたいに、魔石とか、魔結晶で動いているの?」
この家にある便利な道具――コンロやオーブン、湯沸かし器なんかは、やはり魔法の力で動いているらしかった。
魔物たちを倒した時にまれにドロップする、魔石とか魔結晶っていう物が動力源らしくて、私が元居た世界で言うと、電池みたいな使い方をしているらしい。
ちなみに魔石や魔結晶は、魔法に長けた者は作り出す事も可能らしく、ユリアナ王女もアルバトスさんも、自ら作り出し、そして魔力チャージまでできるらしい。
だから、サーチートの中にも魔石や魔結晶があって、それで動いているのかなぁと思ったのだけれど、サーチートは首を横に振り、違うよ、と言った。
「ぼくはね、オリエちゃんの魔力のおかげで、動いたり喋ったりする力を得る事ができたんだよ。今のぼくはね、オリエちゃんの使い魔みたいなものなんだよ」
「使い魔……魔力……。ねぇ、私に魔力なんてあるの?」
そう尋ねると、サーチートは真面目な顔をして、こくりと頷いた。
「あるよ。だってオリエちゃん、ぼくを治してくれたじゃないか」
確かに、今日サーチートを抱きしめて、ヒールと唱え続けたら、サーチートの体の傷は治っていた。
そう考えると、やはり私には本当に魔力というものがあるのかもしれない。
「オリエちゃんにはね、とてもたくさんの魔力があるんだよ。なんてったって、オリエちゃんは、大聖女なんだから」
「は?」
何を言い出すのだこの子は、と思いながら、私はサーチートを見つめた。
聖女は若くて美しいものだったはず。
だから、私が聖女だっていうのは、絶対にありえないはずなのに。
「そんな事、言わないで。オリエちゃんは本当に大聖女なんだよ。嘘だと思うなら、ステータスを見ればいいよ!」
「ステータス?」
どんどんゲームみたいになってきたなぁと思いつつ、私は自分のステータスを見る事にした。
ステータスを見るには、「ステータス」と、そのまま口にすれば良いらしい。
「ステータス!」
サーチートに言われるままに口にすると、目の前に突然文字が浮かんだ白い画面みたいなのが現れた。
どれどれ、どんな事が書いてあるのかな、と……。
名前:糸井織絵
年齢:四十七歳
職業:大聖女
魔力:∞
魔法:全て使える
「はぁ? なんじゃこりゃー!」
思わず叫んでしまい、今が夜だという事を思い出して、私は慌てて口を押えた。
サーチートを見ると、
「ね、大聖女って書いてあったでしょ」
と、悪戯っぽく笑って言った。
サーチートが言うには、このステータスっていうのは、基本的に自分だけにしか見えないものらしい。
相手のステータスを見る呪文のようなものがあるらしいが、私の魔力量や魔法レベルから考えて、他の人間に見られる事はないだろうとの事だった。
「オリエちゃんの魔力量が多いのはね、オリエちゃんがものすごーく清らかだからなんだよ~」
「清らか?」
一体どういう意味なのかわからず、私は首を傾げた。
「うん、清らかだからだよ。だってオリエちゃんは、清らかな体だからね~」
私をチラチラと見ながら、少し頬を染めるサーチート。
何が清らかなのかと思えば、そういう事かー!
「サーチート! それ、誰にも言っちゃ駄目! 私とサーチートの、二人だけの秘密にしよう! ね! サーチート、秘密ね!」
そう言うと、二人だけの秘密、というあたりが気に入ったのか、頬を染めたままサーチートはこくこくと頷いた。
「でも、私が本当に大聖女で、このステータス通り、全ての魔法が使えるのなら、私がユリアナ王女とアルバトスさんを助けてあげる事ができるのかな」
「うん、できると思うよ!」
「でも、私は、呪いの解き方とか、全く知らないし……」
「だからね、ぼくがいるんだよ。ぼくは明日から、アルバトス先生にいろいろと教えてもらうから!」
そうか、そうだよね。
私は一人じゃないし、わからない事はサーチートが勉強して、私に教えてくれるんだ。
「じゃあ、サーチートはしっかり勉強をして、私にいろんな事を教えてね! 私も、少しでもあの二人に元気になってもらえるように、頑張ってごはんを作るよ! 元の世界に戻る前に、私たちであの二人を絶対に助けよう!」
「うん、そうしよう!」
私とサーチートは互いの顔を見つめると、うん、と頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます