第9話・レッツ、クッキング!


 さぁて、何を作ろうかねぇ。

 私は少し考え込んで、今日は簡単に済ませる事にした。

 貯蔵庫にパンが置いてあったので、これをいただく事にする。

 ユリアナ王女たちは、呪いの毒を受けてしまってからは、食欲が無いと言っていたからだろう、放っておかれたパンは少し固くなっていたので、早く食べた方がいいだろう。

 後はハムを焼いて、卵を焼いて――スープでも作るかな。

 適当にいろんな野菜をザクザク切って、鍋に放り込んで、ぐつぐつと煮る。

 切った野菜の中にトマトっぽいのがあったから(多分トマトなんだろう)、うっすらトマト味の野菜の旨味たっぷりのスープになるだろう。

 美味しそうだよね。


 台所は、かまどではなく、コンロだった。

 ガスでも電気でもないコンロ……多分、魔法のコンロなんだろうな。

 オーブンもあったけど、きっとこれも魔法のオーブン。

 どんなふうに魔法が使われているんだろうね。

 気になるけど、多分難しそうだから、便利で良かったって事で済ませてしまおう。

 霧吹きで軽く湿らせたパンをオーブンにつっこんで温めた後、たっぷりとバターを塗った。

 それからハムを焼いて、ハムから出た油で卵を焼いて、温めてバターを塗ったパンの上に乗せる。

 そうしているうちにスープも煮えて、塩コショウで味を調える。

 野菜たっぷりのスープはボリュームもあるし、体にも良さそうだし、あっさりしているから、いくらでも食べられそうだ。


「オリエちゃん!」


「何?」


「あっち……」


「え?」


 サーチートに声をかけられ、小さな手が指した方向――台所の入り口を見ると、ユリアナ王女とアルバトスさんが居た。

 どうやら様子を見に来てくれたらしい。


「美味しそうだね」


 と言ってもらえたのが嬉しくて、良かったら召し上がりますかと声をかけると、二人は頷いてくれた。

 食欲がないと言っていたけれど、少しでも食べる気になってくれたのなら、良かった。


 人間、食べられなくなったら終わりだと、常々私は思っている。

 逆に、例え病気だとしても、物を食べられるのなら、まだまだ頑張れるのではないかとも思うのだ。


 ユリアナ王女とアルバトスさんの分のパンを温め、自分の分と同じようにハムを焼いて卵を焼く。

 それからスープをよそって、私たちは三人と一匹で、「いただきます」と言って手を合わせた。


「このスープ、あっさりしているね。おかげで、食べられる。美味しいよ」


 食事を始めて、ユリアナ王女がそう言うと、隣に座ったアルバトスさんも頷いた。


「オリエさんは、料理がお上手なんですね」


 と言ってくれるけど、私はとんでもないと首を横に振った。


「食べられない物は作らないとは思いますが、決して上手なわけじゃないですよ」


「そうなの?」


「はい、そうです!」


 私は、力強く頷いた。

 私の料理なんて適当か、もしくはレシピを見なければ作れない。

 レシピを見ても、ズボラだから絶対に手の込んだ料理なんて作らないし……まぁなんとか食べられる物が作れるという程度だろう。

 その事を言うと、


「適当だとしても、それでもちゃんと食べられる物が作れるっていうのは、すごい事だと思うよ」


 とユリアナ王女は言ってくれて、その隣でアルバトスさんが頷いていた。


「だって、うちの伯父上は、レシピを見て作っても、おかしな食べ物になっちゃうんだから。だから、ちゃんと食べられる物が作れるっていうのは、すごい事だと思うよ」


「そう、ですか?」


「うん、そうだよ」


 深く頷くユリアナ王女の隣で、アルバトスさんも頷いていた。


「私は生まれてすぐの赤ん坊の頃に、伯父上に引き取られたのだけど、良く生きて来られたと思うよ」


「ええっ?」


 それ、どういう事なの?

 アルバトスさんを見ると、彼は苦笑していた。

 これは……聞かないでほしいって事なのかな? きっと、そうだよね。

 ちなみに、ユリアナ王女は料理が出来ないらしい。

 まぁ、今はお城に居るわけじゃないけど、王女様だもんね。


「でも、呪いの毒を受けてから、久しぶりにちゃんとした物を食べたよ。ずっと食べたいとは思わなかったけれど、食べてみると、体が食べたかったのかなぁって思う。オリエ、ありがとう」


 改めてお礼を言われて、私は恐縮した。

 私の適当料理に、そんなにお礼を言ってもらうほどではないと思うんだけどなぁ。

 でも、私は今後も自分が食べるために料理をするわけだし、二人が食べられそうなら、また一緒に食べたいなぁと思う。


「あの、私、さっきも言いましたが、あんまり料理が上手いというわけではありません。でも、多分食べられない物は作らないので、これからも私が作った物を、一緒に食べませんか? もちろん、食べられそうだったら、ですけど」


 そう申し出ると、ユリアナ王女とアルバトスさんは、「ありがとう」って言って、優しく笑って頷いてくれた。

 よし、あんまりお料理は得意じゃないけど、少しでも美味しい物を作れるように頑張ろう!

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