第5話・これからの生活


 簡単な自己紹介の後、私は再び馬車に乗せられ、ユリアナ王女とアルバトスさんが住む家に向かうことになった。

 二人が住む家は、私がオルブリヒトの兵士たちに殺されそうになった森の奥にあり、かなり大きな屋敷だった。なんとなく、図書館って感じ。

 実際、アルバトスさんのフェルトン家は代々学者の家系で、この屋敷にはかなりの量の書物が置いてあるらしい。まさしく、図書館だ。

 あと、屋敷の周りにはあまり使われてはいないようだったけれど、畑のようなスペースがあり、牛っぽい獣と鶏っぽい鳥のような家畜を飼っているようだった。

 馬車に乗せられる前、詳しい事は家に着いてからゆっくり話すという事だったけれど、私はユリアナ王女とアルバトスさんは、結構切羽詰まっていて、危ない状況なのではないかと思っている。

 何故なら、彼らの家に着くまでに小さな村があったのだけれど、彼らに気づいた村人たちが必死の形相で駆け寄ってきたからだ。


「ユーリ様、アルバトス様、どうでしたか? 聖女様に会えましたか? お身体は治していただけましたか?」


 そう言った村人――若い男性だった――に、アルバトスさんは静かに首を横に振った。聖女様でも無理だったよ、と告げる。


「そんなっ」


「なんて事! 聖女様でも、あの呪いの毒を消す事ができないのかっ」


 どうやらみんな、ユリアナ王女とアルバトスさんの呪いの毒の事を心配していたみたいだ。

 聖女でも無理だったってアルバトスさんは説明しているけど、確か、ユリアナ王女がそれ以前の問題だったって言っていなかったっけ?

 聖女は治療をしなかったはず。それなら、まだ治療すれば治せる可能性があるんじゃないのかな。

 まぁ、今の私がそんな事を村人たちに告げるわけにはいかないんだけど。


「オリエ、君にはこれからここで暮らしてもらうつもりだ。この世界で生きていけるように、私と伯父で精一杯のサポートはさせてもらうから。まぁ、急な事だったので、部屋の掃除が行き届いていないのだけど、それは勘弁してほしい」


 苦笑しながらそう言ったユリアナ王女に、私は頷いた。

 掃除とか洗濯とかあんまり得意じゃないけど、なんとかなるだろう。

 この国の王子に騙されて、兵士たちに殺されそうになった事を考えれば、屋根がある家に住まわせてもらえるなんて、夢のようだ。


「あと、食事の事なんだけど、貯蔵庫に食料は置いてあるから、好きなように作って食べてほしい。私と伯父は、この体になってから、あんまり食欲がないんだ。だから、君の好きなようにしてくれていいから」


 貯蔵庫と台所に案内され、私は頷いた。

 貯蔵庫のスペースは大きく三つに分かれていて、常温スペースとひんやりしたスペース、そして氷のように冷たいスペースになっていた。

 どんな仕組みになっているのかはわからないけれど、冷蔵庫みたいだ。

 あと、ユリアナ王女は一通り屋敷の説明をしてくれて、着替えに使ってと、何枚か服を渡してくれた。

 渡された服は、多分ユリアナ王女のものなのだろうけど、かなり大きなチュニックだった。

 おかげでぽっちゃりタイプの私でも楽々と着られるんだけど、このサイズはユリアナ王女にも大きいんじゃないかな?


「さて、これでここでの生活の事は、一通り説明したと思うんだけど、何か説明はあるかな?」


 ユリアナ王女の問いに、私は首を横に振った。

 わからない事があれば、その都度また聞きたいと言うと、ユリアナ王女もアルバトスさんも、わかったと頷いてくれた。


「でも、聞きたい事があるんです」


「ん? 何、かな?」


 こてん、と首を傾げるユリアナ王女は、とても可愛らしかった。

 家に戻ってきたからなのだろう、ユリアナ王女もアルバトスさんも、顔を覆っていた仮面を外している。

 二人の顔にある呪いの毒の痣は、顔の半分超えていた。

 二人とも綺麗な顔立ちをしているのに、とても残念だ。


「あの、その呪いの毒の痣の事を、教えてくれませんか?」


 私がそう尋ねると、ユリアナ王女はまた首を傾げた。

 どうして? と、聞かれる。


「それは、お二人がこの世界での私の恩人だからです。だから、もしも私に何かできることがあったらって思って……」


 ユリアナ王女とアルバトスさんは、互いに顔を見合わせて考え込んでいたようだったが、やがて頷いた。


「最初に言っておくけど、あんまり楽しい話じゃないよ。それでもいい?」


「はい」


「わかった。では、続けよう。ここに来るまでに、小さな村があっただろう? シルヴィーク村というのだけれど、あの村の者に、このフェルトン家は昔から世話になっていてね、この呪いの毒の痣はあの村が魔物に襲われた時に守ろうとして、受けてしまったんだ。多分、この痣が体全部に行き渡ると、私と伯父上は死んでしまうのだろうね」


 何でもない事のように、ユリアナ王女は言った。

 私は、やはり二人の体の状態は、切羽詰まっていたのだと確信した。

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