人類撲滅完了
気分が優れない。
地球が木っ端微塵になるという生涯で一度でも見られるかという光景を目にしたというのに、私の気分は沈み切っている。
どうやら自動操縦はマザー・イヴの部屋に到着するよう設定されているようで、この自動操縦をオフにすることができない。帰還後、誰にも会わずにバックレようという私の計画は脆くも崩れ去ってしまった…。
マザー・イヴに何を言われるのだろう。重役審問にもかけられず即刻処刑されてしまうだろうか?
あああああ!もう到着してしまう!いやだ!
プシュゥゥゥ…
エアロックが勝手に…、それにハッチと階段も。もういないふりをするしかない!
…
「What's?何をしているのかしら?さぁ!早く降りてらっしゃい!You!ハリアァァァップ!」
マザー・イヴが呼んでいる…。隠れ続けても同じか…。ならば少しでも低姿勢で同情を誘う方が得策か?
「アーラ!やっと出てきましたわねスピードスターちゃん!」
もはやコードネームを訂正する気も起きない。
「あ、ああ。我らがマザー・イヴよ、どうか私の話を少しで聞いていただけないでしょうか…?」
「いいえスピードスターちゃん。このムゥヴィを見ればアテクシがYouから聞く話なんてアーリませんわ!」
や、やはり…
「地球爆発スイッチを押したことで地球は…」
「BON!!!」
ッ!顔がちけーよ!すごい圧!
「粉々に…、アッパウダーパウダーになってしまいましたのよ!」
「このムゥヴィを重役会議で流したら…」
もうそんなところまで話が行っているのか!やはり重役審問をすっ飛ばして私はここでひねり潰されるのか…。
「チョー大盛り上がりでしたの!うっふん」
ん??
「ドクターも地球爆発スイッチを作った甲斐があったと大喜び…アッビッグハァッピィな様子でしたわ!マザーブレインなんて興奮しすぎてガラス容器にヒビが入ってしまったくらいですのよ!漏れた液の臭いこと!」
おーん??何か変だズェ…?
「あのう、マザー・イヴ。私は作戦を失敗させてしまったのですよね?」
「…Why?なぜ?どうしてそうだと思うのです?作戦通り人類はお掃除されちゃいましたのよ?」
「それはそうですが…。私はサブタスクを守れず地球ごと消し去ってしまいました」
「アーハン、そんなことを気にしていましたの?ノンノン!あんなものは建前ですのよ!あれを書いておかないと重役会議で通らないだけですわ!」
「地球に到着でき次第すぐに作戦完了できるはずでしたのに、3日もかけたのはそんなことを気にしていたからだったのねスピードスターちゃん」
「…」
「No problem!何の問題もありませんのよ!」
「元地球があった場所にはおニューの、地球を設置する手はずになってますの。ここからはアタクシたち重役の仕事。Youは予定通り休暇に入って問題ナッシング!」
「は、はあ」
「んじゃ、ソユコトでスピードスターちゃんの彼女ちゃんにもシ、ク、ヨ、ロ!アディオス!」
…
結局、私はあの作戦を最後にエージェントを引退した。彼女はそんな私を見捨てず、辺境の惑星で農家になりたいという私について来てくれた。
決して華やかな生活ではないが、今は彼女と結婚し子宝にも恵まれた。私にはこのささやかな幸せがあれば十分だ。
この星はいい。空気は澄んでいて自然が綺麗だ。そしてなにより巨大生物がいない。
そういえば最近、非常に良く出来た宇宙船の模型のようなものが私の畑に落ちていたが、これを見ているとなんだかエージェント時代を思い出すなあ…。
人類撲滅特派員 エージェント55号 水谷威矢 @iwontwater3251
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