人類撲滅完了まであと1日

 現地時間 12時0分

 残り作戦時間 12時間


 地球爆発スイッチを押してしまおうか迷い始めてから、もう6時間が経過した。人間たちはどうやら昼食を摂る時間のようで、辺りには多数の人間たちが闊歩している。


 約6時間前までは私も真剣に残された時間でどうすれば人類を撲滅できるのかを考えていた。しかし、その時の侵略許容度と実物の人間を見て全てがバカらしく思えてしまった。


 人類へ与えた損害

 0.000000000000000000000034487651%


 約6時間前から少しだけ値は変化しているものの、残り時間を考えれば無意味な数字だ。この作戦時間が過ぎてしまった後だって、あの鉄塔の上に設置した機械が稼働し続けられるわけでもない。


 それに、人間たちだ。なんだ、あの規格外の大きさは。こんなこと他のエージェントからは聞いていなかったぞ。私だってこの歳までに宇宙中の様々な星や生物を見てきたが、ここまで巨大な生物がいるのは地球だけだ。この星はやはり何かがおかしい。


 …この地球爆発スイッチを押してしまえば、私は一瞬で宇宙船に転送され自動操縦で地球から離脱することが可能だ。だがそんなことをすれば私のバカンスが…。いや、でも押さなければ今度は私の命が…。


 私は今、究極の選択に迫られている…


 ピピッ 非常 ニ 多数 ノ 有機生命体 ヲ 感知 シマシタ


 なんだというのだ。こんな時に。今度はどんな猛獣が現れると言うんだ。


 ん?なんだ?脊椎動物ではない…。これは、バグ…?今までのような猛獣とは違い小さいが、めちゃめちゃ数が多くないか?


 スキャンバイザー!




 昆虫 トビイロシワアリ


 とんでもない数だ!それに、いくらイエネコやハシブトガラスに比べて小さいとは言え、私が宇宙で見てきたいろいろなバグに比べれば相当デカい!


 その鋭い顎に噛まれればものの数分で私はバラバラにされて食べられてしまうだろう。そんな死に方は絶対に嫌だ!


「うおおおお!」


 ピュン!


 ジュッ!


 ピュン!


 ジュッ!


 このトビイロシワアリとかいうバグになら光線銃は通用する。しかしこの数には対応しきれない!逃げるしかない!


 エアスラスターがない今、頼れるのは己の足だけだ。しかし、そんなに私が美味しそうなのか?他にも餌になりそうなものはいくらでもあるだろ!どうしてわざわざ私を狙ってくるのか!





 …


「はあ…、はあ…。ふう…」


 どうやらもう追ってきてはいないな。途中で手榴弾を投げなければ危うく追いつかれるところだった。


 まったく…、マザー・イヴがどういうつもりで人類撲滅を計画したのかはわからないが、もしこの地球に移住するためだとしたら私は反対だ。こんな危険な生物で溢れる星になど住めるわけがない。


 現地時間 13時15分

 残り作戦時間 10時間45分


 もう残り時間も少ない…。やはり地球爆発スイッチを押してマザー・イヴにバレる前にトンズラこいて田舎に帰ろう。悔しいが、彼女とのバカンスは諦めよう。彼女だって私が死ぬよりも職を失ってでも生きている方がいいと思うに決まっている。


 さあ地球爆発スイッチを…。あれ、こっちのポケットだったかな。いやこっちか。ああ、胸ポケットだったか。あれ?


 ないなあ?


 もしかして、さっきのバグに追いかけられている途中に落とした…?


 いや、落ち着け私。無我夢中で走り回っていたとは言え、それほど複雑な道は走ってきたいないはず。その道を戻ればきっとどこかに落ちているはずだ。




 …


 結構な時間、探し回ったが…、どこにも地球爆発スイッチがない…。


 現地時間 14時45分

 残り作戦時間 9時間15分


 このまま地球爆発スイッチが見つからなければ、私は死ぬしかない…!い、いやだ!


 ピピッ 有機生命体 ヲ 感知 シマシタ


 まだ何か来るというのか?もう少しは私のことを考えてくれ!またあのバグの群れか?


 ん?その物陰からはみ出て見えるのは…、毛皮?まさか、またあのイエネコとかいう猛獣か?しかしやつならばこの光線銃で…。いや、少し小さいな。どれ、スキャンバイザー。




 哺乳類 ドブネズミ


 イエネコに比べれば半分以下の大きさだな。それでも私よりもはるかに大きいが。おや?ドブネズミが手に持つ光るそれは…。


 地球爆発スイッチ!


 お前が持っていたのか!返せ!それはお前の餌じゃあない!こら!齧ろうとするな!壊れたらどうする!


 そ、そうだ、光線銃の光でも追いかけていろ!それ!


 ピュン!


 …


 あれ?も、もう一度だ!それ!


 ピュン!


 …


 こいつは光線銃の光に反応しないのか?このままでは地球爆発スイッチが食われるか壊されてしまうぞ!


 地球爆発スイッチさえ押すことができれば私は宇宙船に転送される…。これは賭けだが、捨て身のタックルを食らわせ地球爆発スイッチを押すしかない!無傷では済まないかもしれないが、宇宙船に戻りさえすればこちらのものだ!行くぞ!


「キェェェエエエ!!!」


 私の上げた奇声でドブネズミに気が付かれたようだが、関係ない!そうだこっちを向け!その地球爆発スイッチを押させろ!


 キキィーッ!


 ぬわっ!なんと鋭い前歯だ!間一髪のところで避けられたが…。あれを避けているようでは地球爆発スイッチを押すことはできない…。今度は肉を斬らせて地球爆発スイッチを押す!


 キィッ!


 ぎゃあああ!い、痛い!ドブネズミの前歯が私の腕に食い込んでいる!スーツが少しは防いでくれるかと思っていたが、この一撃で耐久度が0になるとは!スーツがオシャカになった!


 だ、だが!すぐそこには地球爆発スイッチが!ぬおおおお!届け!私の右手えええ!




 ポチ


 シュン




 …


 こ、ここは…、宇宙船?戻ってこれたのか?そうか、私は地球爆発スイッチを押せたのか!は、ははは!やったぞ!助かったんだ!


 オートパイロット ヲ 起動 シマシタ

 地球爆発 マデ アト


 そうだった、後は自動操縦で地球を脱出するんだったな。なんせこんなスイッチを押すことを想定していなかったからな。帰還はコンピューターに任せて、私は治療キットで左腕の治療をせねばな。


 ノコリ 10 ビョウ


 宇宙船はもはや地球の大気圏を突破したのか。どうせならここから地球が木っ端微塵になるところでも拝ませてもらおうか。


 9


 8


 7



 6



 5



 4




 3




 2




 1






 …


 人類へ与えた損害

 0.000000000000000000000042567669%









 100.0%




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