人類撲滅完了まであと3日

 確かに、宇宙船の荷物が嫌に少ないとは思っていたが、本当に作戦期間が3日間だけだったとは…、迂闊だった。地球に来る前にしっかりと確認するべきだった。


 生命維持装置に残されたエネルギーはきっかり3日間分だけ。本当に3日で人類の撲滅なんてできると思ってたのか?マザー・イヴよ。


 そういえば私のことをしきりにスピードスターと間違えていたが、もしかすると本来はスピードスターが行う作戦だったのでは?いやいや、流石のスピードスターでも3日間で人類撲滅は無理だろう。あいつ頭悪いし。


 えー…。押しちゃう?地球爆発スイッチ。これを押せば3日なんて言わず、秒で人類撲滅が完了するんだけどなあー。まあそんなことすると私はクビ決定だろうけども。記憶を消されて宇宙空間にポイだ。というかそもそもなんでこんなスイッチあるんだ。


 ただ、こんなことをぐちぐち言っていても仕方ないな。私はプロだ。人類撲滅特派員、エージェント55号だ。


 まずは装備を確認しよう。

・小型軽質量砲 質量のある小さな弾丸を撃ち出す原始的な兵器。弾丸の調達が容易


・収束光線照射銃 我々エージェントの標準的かつ主力兵器と言える装備。莫大な熱量を持つ光線を照射する


・バイオガス変換器 地球上の種々の気体を吸引し、人間にとって有害なガスを生成する


・スキャンバイザー バイザーの視野内に映った物の情報を表示してくれるスグレモノ。地球の侵略状況も表示してくれる


 …他にもいくつかあるが、とりあえず身を守ったり、効率的に人類にダメージを与えるのに必要になる道具はこれらだろうな。


 よし。まずは状況の確認しよう。


 スキャンバイザー起動中…


 よしよし。問題なく地球上の情報が表示されているな。


 現地時間 0時15分

 残り作戦時間、71時間45分

 

「本当に3日間だな…。おや?」


 スキャンバイザーの上部に早くも地球の侵略状況が表示されているな。


 人類へ与えた損害

 0.000000000000000000000000000101%



 この数字が99.9%以上になれば人類の撲滅、つまりは地球の侵略が完了したということになる。


 宇宙船の着陸で与えた損害か?確かに何かしらの建物の一部を破損させたが…。


 この数字、ずっと表示されていると気が遠くなってくるな。とりあえずしばらくは非表示にしよう。


 スキャンバイザーによれば、現在地はある程度の規模の人間都市の外れの方ということが分かる。


 よし、まずはこの都市のそれなりに高い所へ行き、バイオガス変換器を起動しよう。それで今日一日でこの都市一帯の人類はお掃除できてしまう筈だ。


 とりあえずこの建物から脱出しよう。目的地は…、あちらだな。


 ピピッ 有機生命体 ヲ 感知 シマシタ


「何者だっ」


 思いもよらぬアラートについ小型軽質量砲を構えてしまった。


 10mほど先から足音が聞こえる…。スキャンバイザーによれば…、四足歩行型の哺乳動物か。であれば無闇に攻撃はできないな。


 抜き足…、差し足…、ニン…、ニン…。


 パキャ


 しまったっ…!プロにあるまじき痛恨のミス…!


 哺乳動物の足音も止まった…。気づかれたか…?


 グルルルルル…


 なんと凶悪な唸り声なんだ!予め地球の生物については簡単だが下調べをしてきた。しかしこんな凶悪そうなものは人間の生活圏にはまずいないはずだが…


 ドッドッドッドッ


 マズイ!走ってきている!身を隠さねば!だが隠れられる所がない!見つかる!


 …!


 な、なんだ、この巨大な猛獣は…。人間はこんなものと共生しているというのか?スキャンバイザーに表示されている名前は…。




 哺乳類 イエネコ


 燃えるような赤色の毛。口元から覗く鋭い牙。そして何よりその体躯の大きさたるや。私の背丈を軽く30倍は越そうかという大きさだ。


 小型軽質量砲は…、効くだろうか?


 お願いだ。私は君たちを害する訳にはいかないんだ。どうか近寄ってこないでくれ…。


 …小型軽質量砲を向けられても微動だにしないとは。知能が低いのか、それともそんな小道具など通用するものかという余裕の表れか。


 ンナァアルォオオオ!


「ギェェ!な、な、な、なんだ!く、くるな!」


 パシュ!パシュ!パシュ!


 効いて…いない!あの分厚い毛皮にブロックされて小型軽質量砲はまるで役に立たない!


 くっ、殺傷力は上がってしまうが…、この状況では光線銃を使わざるを得ないな!


 ピュン!


 どうだ!お前の毛皮と違って本物の炎が燃え上がるぞ!


 …


 んー?いや…。効いていないな?いくら軽装備とはいえ、ここまで効かないとは…。ん?


 イエネコが止まっている。それもあらぬ方向を向いて。


 おーん?もしかして?ほれほれ。


 ピュン!


 ンナァ!


 ピュン!


 ンナルルルォ!


 イエネコが光線を追いかけ回している…。まさかエージェントの主力兵器である光線銃が、猛獣のおもちゃに成り下がるとは…。地球、なんと恐ろしい星。


 と、とりあえずそのままでいてくれよ、イエネコ君。


 ピュン!


 ンナァオ!


 ピュン!


 ナオォン!


 …


 なんとか、ことなきを得られたが。私、これから大丈夫なのかな…。


 いや!そんなことは言ってられない!私はこのミッションをコンプリートして彼女とリゾート惑星へバカンスに行く予定なのだ!こんなところでつまずいてなどいられない!




 人類撲滅完了まであと 2日




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る