第47話 王者の魂



─殺仕合夢

 干支乱勢大武繪リング上、ヤンセのスリーパーホールドにより失神したテルはうつ伏せに倒れていた。


「5…6…7…]


 審判ゴーレムのダウンカウントも半分を超えている。


「やれやれ。この程度か……ん?」


 コーナーポストに座りながらテルの姿を見下ろしていたヤンセは、テルの右手が動いたのを見逃さなかった。


「うおおおおっ!」


 カウント9で起き上がったテルは、ファイティングポーズを取る。その構えは先ほど会ってきたアントニウス稲城のそれだった。


「元気があれば、何でも出来る!元気があれば……神様だって倒せる!!俺はまだ負けちゃいねえぞコノヤローー!!!」


 ヤンセに向かい人差し指を向けるテル。その姿を見たヤンセは嬉しそうに笑った。


「いいぜ……やはりお前は最高のプロレスラーだぜ、アトラス星野!!」


 トップロープからリング上へ下りたヤンセは再びテルと対峙。


「オラァ!」


 テルは道力山から食らった空手チョップをヤンセの左肩へ叩き込む。


「ははは!痛ぇな!」


 ヤンセのエルボースマッシュはテルの顎に。


「このっ」


 テルはギガント羽場のビッグブーツ、ジェット鶴野のジャンピングニー、アントニウス稲城のナックルパートと、レジェンド達の得意技を連発する。しかしヤンセも食らってばかりではない。ジャンプしてのローリングソバットでテルの顔面を蹴り抜く。


「ダウンする前とは別人じゃないか!何があったんだ?」


 ヤンセはまたしてもテルをスリーパーの形に捉えるが、


「ライゲル・スピン!!」


 テルが素早く首に回されたヤンセの腕から頭部を抜くと、その場で左足を軸に横回転し脇固めの体勢へ。テルの師である田山総一が開発したムーブ、ライゲル・スピンである。だが、オリジナルのライゲルスピンがもうひと回転した後、蟹挟みで相手を転かせるのに対し、テルは右足をヤンセの左足に絡め、左足をヤンセの頭部の上から被せて更にヤンセの右腕を極める。


「今の俺には、“闘魂”が詰まってるんだ。あの世で偉大な先輩達からもらったやつがな!!」


 テルは更に力を込める。


『これは確か、オクトパス・ホールド!またの名を卍固め!!……で合ってるんでしたっけ?』


 ローランド・ゴッチがアントニウス稲城に伝授した卍固めは、彼のフィニッシュホールドとして多用され、以降は稲城の代名詞とも言える技となった。読んで字の如く、卍の形の様に入り組み、別名のオクトパスが表す通り複雑に絡んだこの関節技は一度極まってしまえば、そうそう外せるものではない。


「ゴッチから稲城、田山を経て受け継いだ技か……確かにいい技だが、相手によって掛ける技は選ぶべきだったな!」


「何だと!?」


 ヤンセは極められているはずの右肩、頸椎、左脚をそれぞれ器用に動かし、順番に解いてゆく。


「貓の干支乱勢は関節が軟らかいって事を忘れたな?」


 卍固めから脱出して自由になったヤンセはテルと背中合わせになったかと思えば、そのまま飛び跳ねて自らの両足をテルの腰から鼠径部へ這わせ、両手でテルの両手首を掴む。


「ぐわああああっ」


 痛みで叫ぶテル。


『ヤンセ選手、妙な姿勢での関節技を繰り出しました。恐らくテル選手は両肩を極められているようですが、これは何という技なのでしょう!?』


 ヤンセがテルに掛けた技の名は“パロ・スペシャル”。


「因みに、ウォーズマンが使うのはリバース・パロスペシャルで正調バロスペシャルは本来はこっちの方を指すんだぜ?」


 ヤンセは誰に言うでもない解説を交えながら、テルの両腕を絞り上げる。


「テル!!」


 ふと、名を呼ばれテルは正面を見る。リングサイドのエプロンにいたのはウスマだった。


「負けるな!テルよ!別にワシらはお主が勝とうが負けようが関係ない!じゃが……」


「今はどうしても、あなたを応援したくなったのですわ!!」


 魚となったマイの入ったバケツを持ちながら言うのは辰国女王アンフィー。そして、その隣には蛇になったヒカルを手に持った巳国女王イルコ、更に隣にはヒヨコになったリコを持つ酉国大統領ササミ。


「テルよ、そなたはヒカルを倒した最強の干支乱勢じゃ!負けるでない!」


「そうですぞ!さっきからリコもピーピー鳴いております!獣となった干支乱勢達もあなたを応援しておるのですぞー!!」


 気が付けば、リングの周囲を12国の王達が囲み、テルに声援を送っているではないか。そして、ウスマ以外の王は獣となった干支乱勢達を連れており、それらもまたテルに檄を飛ばすかの様に鳴き声を上げている。


「ぬおおおおおおおっ!!!」


 テルは力任せに両腕を動かし、無理矢理パロスペシャルの拘束を解いた。ヤンセはバランスを崩し、前方へと倒れる。


「ありがとよ、みんな……」


 ゆらりと立つテルの視線は、片膝を突いたヤンセを睨む。

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